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超読みにくい!ズマブ?キシマブ??抗体医薬品の名まえの理由

2015年12月15日 07:00

阻害したい細胞をピンポイントで攻撃する分子標的治療薬は、従来の治療薬に比べて重篤な副作用が少なく、今後、新薬の開発が最も期待される薬剤だ。"抗体"を標的とする、抗体医薬品である。抗体医薬品といえば、だいたい名前で見当がつく。どれも、舌を噛みそうな名前だと覚えておけばよい。これらの名前が似ているのには理由がある。実は、WHOによって定められた国際一般名(INN:International Nonproprietary Names)に基づいて命名されているのだ。

語尾から1番目 モノクローナル抗体では語尾に"マブ(mab)"を付ける

mab = monoclonal antibodies モノクローナル抗体
pab = polyclonal antibodies  ポリクローナル抗体

モノクローナル抗体

そもそも、モノクローナル抗体って何?

 1 つの抗原の表面にはたくさんの種類の抗原決定基(エピトープ)が存在する。そのため、生体に1 種類の抗原を投与しても、多種類のエピトープに対する抗体が産生される。この多数のエピトープに対するそれぞれの抗体の混合物をポリクローナル抗体という。これに対し、モノクローナル抗体とは、1つのエピトープのみを認識する抗体。動物に抗原を投与して抗体を作らせ、目的の抗体を産生する細胞を分離して細胞増殖能の高い腫瘍細胞と融合させることで、目的とする抗体のみを大量生産させる方法が1975 年にケーラーとミルスタイン(イギリス)によって確立された。
 
この細胞融合法により、抗体医薬品開発への道が開かれたといえる。その後、1986 年に、FDA(米国食品医薬品局)によって初めてのモノクローナル抗体が認可された。

語尾から2番目 語尾の前はモノクローナル抗体が何の生物のDNA から作られているかを示す

u = human  ヒト(100%人間の設計図)
o = mouse マウス
a = rat ラット
e = hamster ハムスター
i = primate 霊長類(サル類)
xi = chimeric   キメラ(複数の動物)
zu = humanized ヒト化抗体(ほとんどの部分が人間)

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抗体というと、Y 字型で表わされるが、このY の上部2 箇所が抗原と結合する部分。この部分以外がヒトのタンパク質でできているのがキメラ抗体、さらに、必要最小限の結合部位のみをマウスのタンパク質にしたのがヒト化抗体である。ヒト以外のタンパク質が少なければ少ないほど免疫反応(アレルギー、アナフィラキシー)は起こりにくい。したがって"ズマブ"は"キシマブ"より、さらに"ウマブ"は"ズマブ"より副作用が現れにくいと考えられる。

ヒトのDNA からモノクローナル抗体を作る

 マウスに抗原を投与してモノクローナル抗体を作ったとしよう。これを増殖させてヒトに投与すると、マウスの細胞でできているために、免疫反応が働いて異物と認識され、モノクローナル抗体に対する中和抗体ができてしまう。これでは、薬として役に立たない。
 医学は目覚しい進歩を遂げ、DNA からタンパク質である抗体を合成することが可能になった。そこで、モノクローナル抗体もDNA を用いて作成する方法が考えられた。エピトープを認識する部分だけはマウスに抗原を投与することで作らせたマウス抗体のDNA を用い、その他の部分をヒトのDNA から作ることで、異物として認識されにくいようにする。これがキメラ抗体だ。
 さらに技術開発は進み、ヒトの持つヒトの抗体の遺伝子そのものをマウスに導入することが可能になった。このマウスは抗原を投与されると、ヒト(型)の抗体を作る。こうしてできた100%ヒト抗体は、当然、ヒトにとって異物ではないため、免疫反応が起こりにくく、副作用が少ないと考えられる。

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語尾から3番目 由来の前は、ターゲットとなる臓器、疾患を示す

-col)- = colon 大腸
-gov)- = ovary 卵巣
-ma(r)- = mammary 乳房 
-mel)- = melanoma メラノーマ、黒色腫
-pro)- = prostate 前立腺 
-tum)- = tumor 腫瘍
-bac)- = bacterial 細菌  
-os(- presubstem) = bone、os(ラテン語)    
-ci(r)- = cardiovascular 心血管
-les)- = inflammatory lesions 感染部
-lim)- = immunomodulator 免疫関連細胞
-vir)-
= viral ウイルス

モノクローナル抗体の作用機序は、倒したい敵を攻撃するだけでなく、敵の補給を断ったり、撹乱させたりと、それぞれ戦法が異なる。具体的には

  1. がん細胞そのものを標的とし、がん細胞に結合することで補体等の細胞障害作用を促す
  2. 腫瘍増殖因子に結合することで、がん細胞の増殖を抑制する
  3. 標的細胞に結合することで、シグナル伝達・活性化を阻害する

薬剤名には、敵、つまり何の細胞に働くかを示す。

例えば・・・
rituximab(販売名:リツキサン)
ri(固有名)+ tu(腫瘍が標的)+xi(キメラ抗体)+ mab(モノクローナル抗体)
trastuzumab(販売名:ハーセプチン)
tras(固有名)+ tu(腫瘍が標的)+ zu(ヒト化抗体)+mab(モノクローナル抗体)
infliximab(販売名:レミケード)
Inf(固有名)+li(免疫関連細胞)+ xi(キメラ抗体)+ mab(モノクローナル抗体)

抗体医薬品の命名法についてもっと知りたい!人のために...

The use of stems in the selection of International Nonproprietary Names(INN)for pharmaceutical substances WHO/PSM/QSM/2006.3
http://www.who.int/medicines/services/inn/RevisedFinalStemBook2006.pdf
[2015年12月7日アクセス]

抗体医薬品は標的細胞のみに作用する理想の医薬品と考えられ、現在、各国で新薬の開発が競われている。しかし、

  1. 人種差や遺伝子変異などによって標的分子が微妙に異なる場合には有効性を期待できない。
  2. タンパク製剤であるため、異分子と認識された場合には免疫反応が働くことで重篤なアナフィラキシーの起こる危険性が否定できない。
  3. タンパク製剤であるため、経口薬が作りにくい。


などの問題点があげられる。1に対しては、CD20 やHER2 など、予め標的分子の有無を確認することで、有効性の期待できる症例を絞る対策がとられている薬剤もある。しかし、臨床応用されるようになってからの歴史は浅く、適応上も「難治性の」「進行・再発の」「既存治療で効果が不十分な」のような制限が付けられていることからも、まだまだ副作用については未知数であると考えられる。使用に際しては、十分な注意が必要であることを念頭におくべきであろう。

[PharmaTribune 2009年3月号掲載]

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