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個人輸入:偽造医薬品だけにとどまらない危険性

2015年12月21日 07:00

 2014年の薬事法の改正以降、インターネットを利用した薬剤購入が一気に身近なものとなった。一方で、合法を装うサイトを介した医薬品の個人輸入も盛んに行われている。ネット販売の利用者は利便性を手にするとともに、適正使用に関わるリスクや偽造医薬品などによるトラブルの危険性も抱えることになった。
 本企画は、医療者の目の届かないところで進行するネット販売の実態を明らかにし、その対策を考えるシリーズである。第1回では個人輸入を取り上げ、世界保健機関(WHO)在籍時から偽造医薬品の問題に取り組んでいる、金沢大学医薬保健研究域国際保健薬学教授の木村和子氏に話を聞いた。

処方箋薬個人輸入サイトの実態

 医薬品の個人輸入は、輸入者個人が使用する範囲内であれば(処方箋薬なら1カ月分以内)、通関手続きのみで可能である。手続きを含め輸入を請け負うのが個人輸入代行サイトだが、ほとんどは薬事法や特定商取引法に従っていないという。不正な医薬品販売サイトを監視するレジットスクリプト社は、2013年の調査で、処方箋薬名および「個人輸入」 「通販」などの日本語検索で得た2,345サイトのうち、厚生労働省の規則に従っていたのはたった1つのサイト(0.1%)のみだったと報告している1)

個人輸入薬に紛れ込む偽造医薬品、本物でも品質の保証はない

 こうした業者を介して入手した薬剤は、果たして真正なものなのか。
 個人輸入で最も人気のあるカテゴリーの1つ、勃起不全(ED)治療薬について木村氏らが25サイトを対象に行った試買調査では、17サイトで入手した薬剤が、外観や正規品には存在しない大容量の規格などから偽造医薬品と判断された2)。入金しても薬剤が届かない通販詐欺と思われるサイトにも遭遇している。偽造医薬品と断定できない入手品も、パッケージが異なる、ロット番号や使用期限の記載がない、説明書が添付されていないなど、真正性や衛生状態、適正使用の面で大いに疑問が持たれたという。
 日本では薬事法に基づき、医薬品などの品質・有効性・安全性は厳格に確認されている。しかし、個人輸入の医薬品はその対象外である。つまり薬剤としては本物でも、品質などは担保されていないことになる。
 個人輸入では、未承認薬や既に承認を取り消された薬剤に加え、どの国も承認していない無評価薬すら何のチェックも受けずに入手できる。その上、これらの薬剤は劣悪な環境下での保管、不衛生な状況での詰め替えなど、不適切な扱いを受けた可能性が高い。ロット番号や有効期限の記載のないものは、期限切れの可能性もある。これが個人輸入薬の実態だ、と同氏はその危険性を強調した。

痩せ薬で死亡事例も

 医薬品の個人輸入における最大のリスクが健康被害である。2009年には利尿薬などが含まれた痩せ薬を服用した女性3)が、2011年にはED治療薬の偽造医薬品を入手した男性が死亡したと報告された4)(後者は使用の確認には至っていない)。
 偽造医薬品の流通量の増加とともに、健康被害の拡大が懸念されている。2006~07年、パナマで100人以上の死者を出した咳止めシロップには、グリセリンの代わりに中国から輸入された不凍液などに用いられるジエチレングリコールが使用されていた5)。日本では、強壮作用をうたう健康食品の利用者から低血糖の訴えがあり、複数の製品から糖尿病治療薬グリベンクラミドが検出された6)
 偽造医薬品には有効成分無添加や少量添加したもの、逆に効果を高めるために本来の成分以外の薬剤を加えたものや、さらには製薬の過程で毒性の高い薬品を使用したものなど、さまざまなタイプが存在する。それ故、どのような健康被害が生じるのか予測は難しい。「個人輸入した薬には、何が入っていてもおかしくない」と木村氏は警鐘を鳴らしている。

不正な個人輸入サイトの利用で犯罪組織に荷担する可能性も

 個人輸入に対しては、何が起ころうと自己責任と考える向きも少なくない。しかし、ネット販売で流通する偽造医薬品の大部分にはテロ組織を含む多国籍犯罪グループが関与しており、彼らの資金源であることが明らかになっているという。もはや自己責任では済まされないのだ。
 国際刑事警察機構(Interpol、ICPO)では、違法・偽造医薬品インターネット販売サイトを集中的に取り締まる国際共同キャンペーン「オペレーション・パンゲア」を毎年実施している7)。日本は第4回(Pangea Ⅳ、2011年)から参加し、第8回となる今年は医薬品約1万8,000点を押収、8人を逮捕、17サイトの削除要請をプロバイダーに行ったと報道された。
 これらはもちろん氷山の一角で、不正サイトはいったん消えても名前やURLを変えて、何度でも復活する。まさにいたちごっこであるが、最も有効な対策は「買わないこと」と木村氏は指摘、「不正な個人輸入サイトを利用することは、犯罪組織に荷担することと同じ」と語った。

「自分だけは大丈夫」な利用者を動かすには医療者の力が必要

 木村氏が研究代表を務めた厚生労働科学研究「医薬品等の個人輸入における保健衛生上の危害に関する研究」(平成20~22年度)の分担研究において、個人輸入に対する考え方など消費者の特性についてインターネット調査が行われた。その結果、医薬品の個人輸入経験のある663人のうち、85.2%が偽造品などの危険性を、63.3%が重大な健康被害の可能性を認知していた。それにもかかわらず、86.0%が個人輸入に肯定的であった〈図〉。つまり危険は承知しているが、自分だけは被害に遭わないというのが利用者の認識である。
 あらゆる意味で危険な個人輸入に対し、正規ルートの医薬品は安全かつ安価である。また、個人輸入された医薬品は医薬品副作用被害救済制度の対象外であるため、健康被害が生じても公的な救済は受けられない。
 個人輸入薬の危険性については、厚生労働省も広報ページや「あやしいヤクブツ連絡ネット」8)などで啓発活動を行っている。しかし、その情報は利用者にはまだ十分に届いていない。個人輸入薬による被害を防ぐためには、薬を必要とする患者に向き合う医療者の力が必要という。そのためにも、個人輸入薬に対する意識と知識をさらに深めてほしい、と同氏は語っている。

図 医薬品の個人輸入に対する利用者の考え方

図 医薬品の個人輸入に対する利用者の考え方

参考文献
1. https://blog.legitscript.com/2013/05/
legitscript-study-0-1-of-japanese-internet-
pharmacies-comply-regulations-japan/

2. 吉田直子、木村和子、他. 個人輸入シアリスの真正性に関する研究. 厚生労働科学研究費補助金「インターネットを通じて国際流通する医薬品の保健衛生と規制に関する調査研究」平成26年度研究報告書、49-79.
3. http://www.mhlw.go.jp/kinkyu/diet/
jirei/091008-1.html

4. http://www.pref.nara.jp/secure/
64374/press0526.pdf

5. 坪井宏仁、他.模造薬による健康被害調査法と被害実態.厚生労働科学研究費補助金「地球規模の模造薬(カウンターフィット薬)蔓延に対する規制と健康影響に関する調査研究」平成24年度研究報告書, 20-37.
6. http://www.city.yokohama.jp/ne/
news/press/200805/images/php4dQu3P.pdf

7. http://www.interpol.int/Crime-areas/
Pharmaceutical-crime/Operations/Operation-Pangea

8. http://www.yakubutsu.com/
[ウェブサイトには2015年12月15日アクセス]

[PharmaTribune 2015年11月号掲載]

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