新規登録

月経恐るべし

2016年02月18日 15:45

 北海道大学病院 婦人科
小林範子

 先日、"月経前になると体調が悪い"と訴えて、30代女性が私の外来を訪れた。彼女は小学生の障害児をかかえており、育児のストレスだけでも相当なもの。さらに、子供が原因での周囲とのバトルは日常茶飯事のことらしい。全身から発せられる彼女のオーラは、ストレスの不満分子が繰り返し小爆発を起こしているかのよう。あわや大噴火手前といったおどろおどろしさが感じられた。

「先生・・・月経が近づくと、どっぷりと気持ちが沈んでしまうんです。なにもかもがいやになって、些細なことでも煮えくりかえるくらい腹が立って、だれかれなしにけんかしてしまいます。ものを壊したくなったり、いつも優しい夫に対してもナイフを投げたくなったり、自分で自分がコントロールできなくなるんです・・・。自分でも、周囲との人間関係がギスギスしていくのがわかります」

PT18_e.jpg

 ううむ、なかなか濃厚である。彼女の話しぶりは決して歯切れはよくないが、はっきりとした口調で淡々切々と症状を訴えてくる。・・・手強そうである。しかし彼女曰く、月経がはじまると徐々に本来の自分に戻り、反省しきりであると言う。「夫には本当に申し訳ないと思って」と話される姿は、一見普通の殊勝な女性である。

 実は、月経前に不定愁訴をとうとうと述べる患者は珍しいことではない。注意すべきは、産婦人科を受診される患者の中には意外と精神神経的な器質的問題を合併していることがあり、その見きわめが難しいことである。この患者のレベルになると、並の月経前症候群を通りこして、月経前気分不快障害の可能性がある。さらに背景因子も複雑である。当然のごとく精神神経科へコンサルトしたのだが(とは言っても、精神神経科を受診していただくまでにはかなり説得の時間を要したが)、境界型人格障害の可能性も否定はできないとのことであった。受診回数を重ね、心に溜まっている思いを少しずつ吐露していただく中で、さまざまな投薬を試みた。現在はパキシル(選択的セロトニン再取り込み阻害剤)の内服と漢方療法で、かなり心おだやかに過ごされている。

 女性にとって、月経がもつ意味は重く、深い。

[PharmaTribune 2010年6月掲載]

トップに戻る