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先入観を持つべからず

2016年02月23日 10:30

 北海道大学病院 婦人科
小林範子

 医師という仕事をしている以上、患者にはいつも客観的かつ冷静に対応している、という自負がある。しかし、人間とは過ちをおかすもの。ときに先入観が、幸不幸の分かれ目となる・・・

 48歳女性、少量の不正性器出血があり外来受診。お化粧で小じわを丹念に隠して、口紅の色はわりと控えめのピンクベージュ。身なりもこぎれいに整えており、年齢相応の落ち着きを感じさせる。風貌からは一見更年期で、そろそろ閉経が近いといったところ。お孫さんでもいそうな雰囲気である。女性ホルモンがいきいきと活動している、艶やかな年代とはおよそかけ離れて見える。

 さて、このような患者を見たとき、まず何を考えるか。

 診察で異常がなければ、十中八九は閉経周辺期の不正出血を疑うだろう。産婦人科医として、はずせない質問から入る。

「最終月経はいつでしたか?」

「数か月前でしょうか・・・この3~4年は不規則で、数か月に1回きたりこなかったりです。みなさん、こういうものなのでしょうか」

 ほぼ予想通りの答えを得て、診察に移る。内診・超音波検査で、特に異常所見はなし。

「閉経が近づいてくると、排卵がおこらなくなって月経周期が乱れてくることが多いんですよ。出血量も多くないですし、止血剤を処方しましょう。1週間のんでみてくださいね」

 1週間後。まだチョロチョロと赤い出血が続いているとのことで受診された。なんとなくおなかも重だるい感じがするそうだ。再度診察。超音波検査で、子宮内に小さいけれど黒くて丸いものがポツン。何だろう?心なしか、子宮もすこし柔らかい?

 ん?まさか・・・まさかね。一瞬、頭をすっとよぎったことを否定してみるのだが・・・いえいえ、まさかではなかったのである。まぎれもなく、オ・メ・デ・タ!であった。患者ご自身もたいそう驚き、ぽっと顔を赤らめていた。しっかりお孫さんもいるそうだ。結局は、産めないということで中絶された。

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 先輩医師から常々、「女性だったらまず妊娠を疑え」と口をすっぱくして言われていた。どんなに若くても、太っていても、年齢が見た目で高そうでも。まことに先入観は判断を鈍らせる。病歴からある程度の推測をしても、決して型にはめて考えてはいけないのだ。

 産婦人科はあなどれない。決して見かけで判断するべからず。

[PharmaTribune 2010年8月掲載]

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