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薬剤師のための生理学/なぜめまいは起こるの?

2016年05月11日 13:45

 めまい(眩暈)は比較的ありふれた症状ですが、それでいてなかなか奥の深い面があります。診療科も耳鼻咽喉科から脳神経内科、脳神経外科、循環器内科、腎臓内科、さらには救急科にまで及びます。しゃがんでいた状態から突然立ち上がったときにめまいを感じる起立性低血圧(立ちくらみ)のように、短時間でおさまり、原因もわかりやすいものも少なくありませんが、前触れもなく突然に起こり、長時間続くめまいは極めて不快なものであり、患者さんは大変苦しむことになります。

 一言で「めまい」と言いますが、めまいはその性質によって3種類に分けられます。第1に身体がグルグル回るように感じる「回転性めまい」、第2に身体がフラフラするように感じる「浮動性めまい」、そして第3に目の前が暗くなるように感じる「失神性めまい」です。

 回転性めまいが最も多く、主な原因は良性発作性頭位めまい症で、めまい患者の30 ~ 40%を占めます。一方、最も有名なのはメニエール病でしょう。両方とも平衡感覚をつかさどる内耳の異常で起こります。耳というと音を聞く聴覚のことばかり思い浮かべてしまいますが、もう1つ、身体の傾きや回転を感じ取る平衡感覚も受け持っています。内耳はかたつむり(蝸牛)のような形をしていますが、かたつむりの殻の部分が聴覚を、頭の部分の3つの輪(半規管)とその付け根の部分の膨らみ(卵形嚢と球形嚢)が平衡感覚を受け持っています〈図1〉。

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図1 耳の構造

 内耳の中にはリンパ液が入っており、身体(特に頭部)の傾きや回転によってリンパが動き、それが有毛細胞と呼ばれる感覚細胞の上を覆っている耳石を動かして体の傾きや回転を感じ取ります〈図2〉。メニエール病は、このリンパの過剰産生や排泄障害によって内耳内の圧が上昇することで起こります。良性発作性頭位めまい症は、耳石が剥がれ落ちて半規管の中に入り、半規管を刺激することによってめまいを生じます。感覚器の問題ですから、本人はとても苦しみますが、命には関わらないわけです。

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図2 平行感覚器(耳石器)の構造

 しかし、めまいには命に関わるものも少なくありませんので、注意が必要です。全部の病名を挙げていったらきりがありませんので、ここでは代表的なものを2つだけ説明しましょう。1つは脳梗塞や脳出血です。特に、小脳の梗塞や出血でめまいがよく起こります。小脳は姿勢の維持や筋の協調運動のために働いているので、運動指令とともに、全身の感覚器からの情報が伝えられています。このため、小脳の梗塞や出血によって感覚異常を生じ、めまいとして感じます。もう1つは脳腫瘍、特に聴神経腫瘍です。聴神経は聴覚とともに平衡感覚の情報も伝えますから、この神経が腫瘍によって侵されると、平衡感覚に異常を来してめまいを生じます。

 薬剤師の方々に注意していただきたいのは、高血圧のお年寄りです。命に関わることは少ないのですが、血圧のコントロールがなかなかできないため、降圧薬を変更した後などに血圧が下がり過ぎてめまいを感じることがあります。正常レベルの血圧だったとしても、長年にわたって高血圧状態が続いていた人にとっては、低すぎるということも少なくありません。血圧の低下によって腎不全を来すこともありますから、注意が必要です。

 また、薬を変えていなかったとしても、お年寄りは夏バテで食欲がないときでも、薬だけはきちんと飲もうとします。このような体調の悪い状態では、薬が効き過ぎてしまうこともあります。また、熱中症予防のために水分を十分に摂りなさいと言われると、お年寄りは食欲がなくても水だけはきちんと飲みます。降圧薬として利尿薬が処方されていますと、おしっこがどんどん出て、水と一緒にナトリウム(Na+)が排泄されてしまい、低ナトリウム血症になって電解質異常によるめまいを生じることもあります。

[PharmaTribune 2015年8月号掲載]

岡田隆夫(おかだ たかお)
順天堂大学医療看護学部長、同大学医学部生理学第二講座・医学教育医学博士 1951年 東京都の生まれ、1977年 順天堂大学医学部卒業
【専門分野】心臓・血管系の病態生理学
【趣   味】かつては動物や鳥の写真撮影(現在は忙しくて読書程度)
【好きな言葉】「冬来りなば春遠からじ」
【覚えて戴くために】岡田の田をタと読むと、上から読んでもオカタタカオ、下から読んでもオカタタカオ

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