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薬剤師のための生理学/暑さや寒さに強い人と弱い人の差は?

2016年06月10日 17:15

 これにはいろいろな要因が関与しますので、一言で差はこれこれです、と言い切ることはできません。恐らく最も大きな要因は個人差でしょう。これでは答えになっていないのですが、生まれつき足の速い人と遅い人がいたり、生まれつき歌の上手い人下手な人がいるように、暑さ寒さに強い人と弱い人がいるのでしょう。暑さには強いが寒さには弱い人、暑さにも弱いが寒さにも弱い人、どちらにも強い人、等々いろいろなパターンがあります。

 我慢強さのような精神的な要因も関与しているでしょう。また、暑いときには汗をかきますが、ダラダラと滴るような汗のかき方は冷却効果が悪く、しっとりと肌が湿る程度が最も効果的に体温を低下させることができます。このように汗腺の働き具合も暑さに対する抵抗力を変化させます。汗腺の働き具合は恐らく遺伝的に決まっていますから、生まれつきのものであるとしか言えません。

 ベルクマンの法則というのをご存じでしょうか。

 寒い地方に住む動物ほど大型になるという法則です。

 例えばクマを例にとると、北極にいるホッキョクグマが最大で、ヒグマ、ツキノワグマ、といった具合に南に行くにつれて小型化し、東南アジアのマレー半島にいるマレーグマが最小です。トラについても同様で、寒いシベリアにいるシベリアトラが最大で、暑いインドネシアにいるスマトラトラが最小です。これは体の体積と表面積との関係によるものです。

 1cm立方のサイコロを考えてみましょう。体積は1cm×1cm×1cmで1cm3,表面積は1面が1cm×1cmで1cm2,それが6面ありますから6cm2となります。辺の長さが2倍の2cmとなったらどうでしょうか。体積は2×2×2=8cm3、表面積は2×2×6=24cm2になります。体積は1cm3→8cm3で8倍になるのに対し、表面積は6cm2→24cm2で4倍にしか増えません。

 熱の産生量は体積で決まるのに対し、熱の放散量は体表面積で決まります。つまり、体が大きくなった方が、熱放散にくらべて熱産生の方がより大きく増加しますから寒さに強くなるわけです。人間についても同様のことが言えるでしょうから、体の大きな人は寒さに強く、体の小さい人は暑さに強いはずです。私の知人に身長150cmでやせ型の女性(体重は聞いていません)がいますが、すごい寒がりです。

 以前、NHKの「ためしてガッテン」で太った男性とやせた男性を数人ずつ、パンツ1枚の裸にし、寒い部屋でどちらが長く我慢できるかを比較したものがありました。先に寒さを我慢できなくなって部屋から飛び出してしまったのは、太った男性陣でした。

 温かい物に触ると温かく感じ、冷たいものだと冷たく感じることからわかるように、皮膚には温度感覚があります。つまり、温度の感覚には皮膚が大きく関わっています。太った人は皮下脂肪が多く、脂肪は断熱効果が高いため、血流によって運ばれる熱量はやせた人と同じでも身体の中心部から伝導してくる熱量が少なく、このために皮膚が冷えやすく寒さに敏感なのです。つまり、太った人は寒がりです。

 ただし、こんな実験をやった人はいないでしょうから断言はできませんが、うんと寒い部屋に閉じ込めて鍵をかけ、どちらが先に凍死するかを比べたら、断熱効果の高い太った人の方が長く生きられるはずです。つまり皮下脂肪が厚いと皮膚が冷えるので寒く感じるのですが,皮下脂肪が厚い方が体の中心部の熱が奪われにくく、寒さに耐える力は大きいのです。

 ついでに書いておきますが、暑さ寒さは皮膚だけで感じるものではなく、脳でも感じ取っています。これがよくわかるのがマフラーの効果です。マフラーをして首が冷えないようにすると、脳に血液を送る頸動脈を流れる血液が冷えにくくなり、それで温かく感じるのです。

 慣れ(順化)の効果も無視できません。日本でも、初夏に急に暑くなると熱中症になる人が激増することからもわかるように、発汗機能は徐々に亢進して暑さに順化します。また、年中暑い熱帯地方に住む人々は基礎代謝が低く、熱産生が低く抑えられています。逆に寒い所に住んでいるイヌイット(エスキモー)では基礎代謝が高くなっています。さらに、全身の汗腺の数はロシア人では平均で180万、日本人で230万、フィリピン人で280万と、暑い所に住んでいる人ほど数が多くなっています。

 ただ、これは遺伝的に決まっているのではなく、日本人でも2歳ころまでにフィリピンに移住するとフィリピン人並みに汗腺の数が増えるそうです。逆に言うと、夏は暑いからといって、赤ちゃんのころからガンガンとエアコンで冷やしていると、日本人でも汗腺の数がロシア人並みに少ない人間になってしまい、暑さに弱い人間を作り出してしまうかもしれません。

 遺伝的な違いもあります。日本人もイヌイットも新モンゴロイドと呼ばれる人種で(正確には日本人は古モンゴロイドと新モンゴロイドの混血)、この人種は最も寒さに対して適応している人種です。寒さに対しては体からの出っ張りをできるだけ小さくした方が表面積が小さくなり、熱の放散を減らすことができて有利です。この目的のために私たちの手足は短くなり、鼻は低くなったのです。胴長短足、ペチャ鼻はみごとに寒さに適応した私たち新モンゴロイドの勲章といえるでしょう。

[PharmaTribune 2015年10月号掲載]

岡田隆夫(おかだ たかお)
順天堂大学医療看護学部長、同大学医学部生理学第二講座・医学教育医学博士 1951年 東京都の生まれ、1977年 順天堂大学医学部卒業
【専門分野】心臓・血管系の病態生理学
【趣   味】かつては動物や鳥の写真撮影(現在は忙しくて読書程度)
【好きな言葉】「冬来りなば春遠からじ」
【覚えて戴くために】岡田の田をタと読むと、上から読んでもオカタタカオ、下から読んでもオカタタカオ

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