新規登録

日本初の悪性高熱ガイドライン案示される

2016年06月21日 15:15

 特定の麻酔薬によって引き起こされる麻酔合併症の1つである悪性高熱症は、全身麻酔症例10万例に1~2例で発症するまれな疾患であるが、その進行は極めて早く、致死率も高いため警戒を要する。日本麻酔科学会第63回学術集会(5月26~28日、会長=九州大学大学院麻酔・蘇生学教授・外須美夫氏)の委員会企画「安全委員会企画:悪性高熱ガイドライン2016(案)について」では、日本初となる同疾患に関するガイドライン案が示された。このガイドラインにより同疾患に対する理解が進み、適切な診療が実践されることで、より確実な患者の救命が期待される(ガイドラインの内容は全て案段階のもの)。

1606015_face1.jpg

病態生理の項目では初発症状を定義

 広島大学大学院麻酔蘇生学教授の河本昌志氏は、悪性高熱症に対処するためのポイントとして、(1)適切な知識の整理(2)同疾患の発生を想定した麻酔環境の整備(3)外科系医師や手術スタッフとの連携(4)短期間で集中治療が行える態勢の構築-を指摘。ガイドラインの策定はこれらを実現することを目的にしているとし、その案を提示した。

 疫学の項目では、劇症型悪性高熱症の発生頻度が男女比で約3:1である点や、同疾患は遺伝性骨格筋疾患であるため、潜在的な素因者は相当数に上ると推察されること、特異的治療薬である筋弛緩薬のダントロレンを使用した症例では、死亡率が10%以下に低下しているとの報告など、踏まえておくべき知見が列記されるという。

 また、病態生理の項目では、素因者においては筋小胞体から細胞内へのカルシウム(Ca)放出機構が異常に亢進しており、代謝の異常亢進が高熱や呼気二酸化炭素濃度の上昇といった臨床症状を引き起こすと記述される。尿の色の変化や血清カリウム値の上昇など主な症状についても言及し、55mmHgを超える説明のできない呼気終末炭酸ガス濃度(EtCO2)の増加や、原因不明の頻脈、筋強直(開口障害を含む)、0.5℃/15分以上の急激な体温上昇で40℃を超える状態を、初発症状として定義する。

誘発薬剤と原因を記述、説明 

 悪性高熱症の誘発薬は、ハロタン、イソフルラン、セボフルラン、デスフルランなどの揮発性吸入麻酔薬および脱分極性筋弛緩薬のスキサメトニウムであるとした。これらの薬剤が、酸素消費の増大と二酸化炭素産生の著明な亢進を伴う代謝の異常亢進をもたらし、初発症状を引き起こす機序を解説。全身への影響も説明される。

 一方で、ダントロレンは筋小胞体のCa放出チャネルに直接作用し、その放出を抑制する働きがある。

具体性のある指針、診療フローチャートを提示

 このガイドラインでは、悪性高熱症に対処する際の方針を示すに当たり、実施すべき項目を列挙する予定だ。麻酔の継続が必要なケースでは、起因薬剤の投与を中止し静脈麻酔に変更する、投与する筋弛緩薬を非脱分極性筋弛緩薬にするといった具体策を提起する。さらに、ダントロレンは1.0mg/kg(学会としての推奨は2.0mg/kg)を15分程度かけて投与することや、室温を下げて冷却を図るときは中枢温が39℃以上の場合に開始し38℃以下で中止する、といったように具体的な数値を用いた推奨がなされる予定だ。加えて、対症療法の方法や病態把握のために推奨される血液検査の種類や実施時期についても触れ、症状が安定化してきたかどうかの判断基準も紹介する。

 なお、このガイドラインでは、患者の症状や状況に応じた適切なアプローチが行えるように、診療手順がフローチャートでまとめられる予定であり、臨床現場での活用が望まれる。

診療情報を収集し、より有効なアプローチへ

 ガイドラインの記載内容は、診療指針に加えて悪性高熱症患者とその家族に行うべき説明にも及ぶ。同疾患が遺伝的疾患であり、患者の血縁者に発症者があれば患者やその親族にも発症のリスクがあることや、運動誘発性横紋筋融解症、労作性熱中症などを合併している可能性がある旨を伝えておくべきだとする。

 河本氏は、同疾患の患者における診療情報を施設間で共有するためのフォームも掲載する意向であるとして、「各施設で蓄積し施設間で共有された同疾患のデータがあれば、ガイドラインの診療指針などをより有効に活用できるようになる。関連施設の協力をお願いしたい」と呼びかけた。

 また同氏は、ガイドライン案に寄せられたパブリックコメントから見いだした今後の課題として、「ダントロレンの備蓄量や適正な投与法、より使用が簡便な新薬導入の可否、確定診断法、患者情報の取り扱い、患者支援制度の在り方などを学会として検討する必要がある」と展望した。

【関連記事】悪性高熱症治療薬の保管、使用判断に課題

トップに戻る