新規登録

明日は我が身もありえます

2016年07月08日 10:15

北海道大学病院 婦人科 小林範子

 我が国の寝たきりの原因の第1位は、脳血管疾患。婦人科で直接、脳梗塞患者と関わる機会は稀ですが、脳梗塞の既往患者には時折遭遇します。例えば、

▶20歳代から数々の自己免疫疾患を発症し加療していた。ある日、目の前がさーっと暗くなり眼科を受診したものの異常なし。しかし、その翌日突然半身のしびれと嚥下障害が起こり、脳梗塞を発症。精査したところ、抗リン脂質抗体症候群による過凝固の影響が疑われたケース。

▶若年期にSLE(全身性エリテマトーデス)を発症し、長期間ステロイド治療をしていた30歳代の女性。月経異常のため近くのクリニックで低用量ピルを処方され、脳梗塞を発症したケース。

▶多血症と高脂血症を合併した60歳代の高齢女性。かねてから脳梗塞のリスクを憂慮し、水分摂取、高脂血症治療薬で厳しく管理していたにもかかわらず、脳梗塞を発症してしまったケース、など。

 しかし、まったく虚をついたように発症するケースも・・・。

 同僚の医師から聞いた話。北海道出身のA子さん。40歳代、独身。ちょっと小太りながら、愛嬌のあるほがらかな女性。仕事は事務職。ある球団が北海道に拠点を移してからは、チームの主力として活躍しているK選手にゾッコンとなりました。それまでは野球には無関心だったA子さんが、見違えるように野球漬けの生活。春のキャンプを始め、ペナントレース中には本拠地の球場からアウェイに至るまで足繁く通い、有休は野球のスケジュールと必ずリンク、K選手の追っかけを人生の生き甲斐としていました。

 さて、2月の春季キャンプの時期。例年のごとく、休暇をとって沖縄へ飛びました。沖縄は北海道の初夏のような汗ばむ気候。一方、北海道は氷点下で雪の世界。南国との気温差は実に30℃以上でした。

 キャンプを見届け、ルンルン気分で北海道へ戻ったA子さん。仕事を再開したものの、どうも様子がおかしいのです。職場の同僚が話しかけても、いつもは饒舌な彼女が、おとなしい・・・。そして、利き手の動きがぎこちなく、パソコンで文字が打てないのです。これはおかしい、ということになり、同僚が脳神経外科へ連れていったところ多発性脳梗塞と診断されました。

PT71_hujinka.jpg

 これまでに特に病気の既往はなく、検査をしても基礎疾患は見当たりませんでした。あえて言えば、少し立派な体格であることと、激しい気温差、脱水などが引き金になった可能性はあるでしょう、とのことでした。

 しばらくは入院、薬物治療と並行して、幼稚園児がするような簡単なドリルから始め、少しずつ計算訓練や身体のリハビリを継続。早期発見、発症部位が幸いし、今は後遺症なく完全に仕事復帰しました。ライフワークの追っかけも続けています。

 脳梗塞は千差万別。ほぼ回復するケースもあれば、麻痺や寝たきりになるケースもあります。A子さんは私と同世代。自分は関係ないわ、という考えをそろそろ改め、明日は我が身かも、と気持ちを引き締めています。

[PharmaTribune 2014年11月掲載]

トップに戻る