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日本古来の薬剤耐性遺伝子が拡散の恐れ

2016年07月11日 16:30

 日本では古くから存在するメタロラクタマーゼ遺伝子を保有する多剤耐性菌が、医療環境以外に拡散することが懸念される。国立感染症研究所細菌第2 部第一室室長の鈴木里和氏が、第90回日本感染症学会総会・学術講演会(4月15~16日,会長=東北大学大学院内科病態学講座感染制御・検査診断学分野教授・賀来満夫氏)で、日本における薬剤耐性菌の現状について明らかにした。

院内感染対策で拡散を制御

 鈴木氏は、厚生労働省の院内感染対策サーベイランス(JANIS)検査部門のデータと欧州疾病予防管理センター(ECDC)のデータ比較から、欧州と日本における薬剤耐性菌の割合の違いを示し、「近年、さまざまな病原体の耐性化が深刻化したが、薬剤耐性菌は多様であり、全ての薬剤耐性菌が増え続けているわけではない」と述べた。日本で院内感染の原因となる代表的な病原体〔メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)、多剤耐性緑膿菌(MDRP)、バンコマイシン耐性腸球菌(VRE)など〕の薬剤耐性率は、その出現時期によって大きく異なる。

 日本では1980年代にMRSAが急速に蔓延したことから、院内感染管理体制が構築され、2010年までに世界でも優れた体制が整備された。その結果、1990年代に黄色ブドウ球菌全体の約75%を占めていたMRSAは全国的に激減し、2014年には49.1%まで減少した。MDRPは感染症法の定点当たり報告数が最も高かった2003年の1.62から2014年には0.56に減少している。VREは日本では2000年代初めから報告が増え、2000年代後半に報告数がピークに達したが、当時は既に日本の院内感染対策は整備されていたため、腸球菌におけるバンコマイシン耐性率は最も高い時でも2%以下と低率にコントロールすることができた。

医療環境以外での拡散に懸念

 一方、市中感染症の病原体(Mycoplasma pneumoniae、淋菌、肺炎球菌、大腸菌)については、世界と比較して薬剤耐性率が非常に高い。Mycoplasma pneumoniaeのマクロライド耐性は2000年に日本で初めて報告されて以来、直線的に増加し、2011年には60~80%と報告されている。

 2000年代に大腸菌の耐性化に強く関連するCTX-M型基質特異性拡張型βラクタマーゼ(ESBL)産生菌は世界的に急増(CTX-Mパンデミック)し、これは大腸菌血清型O25-ST131クローンによって引き起こされたと報告されている。日本でCTX-M型ESBL産生E. coliの拡散が防げなかった原因として、CTX-M型ESBL産生E. coli ST131はヒトに適応したクローンであり、国内に古来から存在していた耐性遺伝子を獲得し、市中感染で一気に広まったからと考えられる。

 2008年に新規メタロ-β-ラクタマーゼ遺伝子bla I NDM-1が世界中に拡散したと報告されたことから、鈴木氏らは2010年にカルバペネム系、アミノグリコシド系、フルオロキノロン系に耐性を示す腸内細菌科多剤耐性菌153株を調査した。その結果、ほとんどが日本に古くから存在するメタロ-β-ラクタマーゼ遺伝子bla IMPを保有していた。このうち、bla IMP-1(イミペネムとメロペネムに耐性)は日本全国に広がっているが、 bla IMP-6(イミペネム感性、メロペネム耐性)は関西に集中していた()。

図. 日本国内における腸内細菌科多剤耐性菌のbla IMP-1陽性株とbla IMP-6陽性株の分布状況(2010年実態調査)

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鈴木里和氏提供

 bla IMP-6はIncNプラスミド上にあり、腸内細菌科細菌のさまざまな菌種が保有する可能性があるため、今後医療環境以外での拡散が懸念される。

 最後に鈴木氏は「環境は薬剤耐性菌・薬剤耐性遺伝子のリザーバーであり、微生物は家畜、農作物、食品、市中、医療環境などの領域を行き来して拡散していくが、その中で耐性菌が急増するのは抗菌薬のプレッシャーによるものであり、また不適切な感染対策は薬剤耐性菌を蔓延させる。今後はさらなる抗菌薬の適正使用が必要である」とまとめた。

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