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血小板機能高抑制と出血に関連性なし

PRASFIT-ACS試験のpost hoc解析より

2016年07月22日 10:45

 急性冠症候群(ACS)に対する治療としては、経皮的冠動脈インターベンション(PCI)と、アスピリン+チエノピリジン系薬の2剤併用抗血小板療法(DAPT)が行われている。DAPTに関しては、血栓イベントを防ぐとともに、出血を制御する必要があり、至適治療域のカットオフ値や、出血リスクの予測因子が臨床上の課題である。第38回日本血栓止血学会学術集会(6月16〜18日、会長=奈良県立医科大学小児科教授・嶋緑倫氏)において、三重大学病院臨床研究開発センターセンター長の西川政勝氏は、PRU※1およびVASP-PRI※2による血小板機能検査値と出血イベントの関連性について、プラスグレルの国内第Ⅲ相臨床試験であるPRASFIT-ACS試験に関するpost hoc解析の結果を紹介(Thromb Res 2015; 136: 947-954)。血小板機能の高抑制(効き過ぎ)と出血イベントには関連性がないと述べた。

※1 PRU:P2Y12 Reaction Unit。VerifyNow®と専用試薬(P2Y12 reagents)を使用する血小板反応性の指標。※2 VASP-PRI:Vascular Platelet Reactivity Index。VASP(血管拡張因子刺激リン酸化タンパク)のリン酸化(活性化)の持続をあらわし、チエノピリジン系薬による血小板反応性抑制の指標となる

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低PRU値、低VASC-PRI値でも出血イベントは増えない

 PRASFIT-ACS試験1,363例のうち、プラスグレル群(初回負荷量20mg/日・維持量3.75mg/日)は685例、クロピドグレル群(初回負荷量300mg/日・維持量75mg/日)は678例であった。今回のpost hoc解析では、負荷投与開始5〜12時間後と4週後のPRU値とVASC-PRI値を測定できた症例をそれぞれ対象とし、出血イベントの発生時期を急性期(PCI施行3日目まで)と慢性期(PCI施行4日目以降)に分け、PRU値およびVASP-PRI値と出血イベントの関連性を検討した。なお、出血イベントはTIMI出血基準の「大出血」、「小出血」、「臨床的に重要な出血」の合計としている。 

 負荷投与開始5〜12時間後のPRU値およびVASP-PRI値は、プラスグレル群では比較的低値の患者が多いのに対し、クロピドグレル群では高値であり、プラスグレル群の血小板凝集抑制効果の発現が速やかであることが示唆された。一方、投与4週後には両群のPRU値とVASP-PRI値の分布はほぼ同様でとなった。

 PRASFIT-ACS試験における出血イベント発生率は、プラスグレル群9.6%、クロピドグレル群9.6%であった。負荷投与5〜12時間後または4週後に測定したPRU値およびVASP-PRI値と、PCI施行3日目までおよび4日目以降の出血イベントに関連性は認められなかった。

 さらに、PRU値85未満と85以上、VASP-PRI値16未満と16以上で分けて出血イベントの発生数を検討したが関連性は認められず、PRU値やVASP-PRI値が低値であっても出血イベントは増加しないことが示された。

 そこで、出血イベントの予測因子について多変量解析を行ったところ、女性、50kg未満の低体重、75歳以上の高齢、糖尿病が抽出された。

 以上から、西川氏は「PCI施行予定のACS患者のDAPT治療において、プラスグレルとクロピドグレルの血小板機能の抑え過ぎと出血イベントリスクには関連性がないことが示唆された」と述べた。

実臨床におけるDAPT施行時の留意点は?

西川政勝氏に聞く

 PRASFIT-ACS試験に関する他のpost hoc解析では、主要な心血管イベント(MACE)の発生を抑制するためのPRUのカットオフ値は262であることが示されている(Nakamura M,et al.Int J Cardiol 2015; 182: 541-548)。今回の解析結果はこれと対を成すものだ(Nishikawa M,et al.Thromb Res 2015; 136: 947-954)。ちなみにCYP2C19遺伝子多型別にextensive metabolizers(EM)、intermediate metabolizers(IM)、poor metabolizers(PM)に分けた解析結果も報告され、IM+PM例においてもプラスグレル群では低いPRU値が得られている。一方、出血イベントに関してはどの表現型でも差異がない(Ogawa H,et al.J Cardiol 2016; 68: 29-36)。なお、VerifyNow®など新たな血小板機能検査やCYP2C9遺伝子多型検査は、現状、日本では研究目的以外では実施されていない。それでは実臨床においてDAPT施行時の出血イベント発生を防ぐには、何に留意すべきか。西川氏に聞いた。

女性、高齢者、低体重、そしてPCI挿入時などの外傷時の出血に注意

 心筋梗塞などのアテローム血栓症(およびステント血栓症)は、その初期病態が血小板血栓症であり、その治療には抗血小板薬が使われている。しかしながら、抗血小板薬による出血事象は、PCI周術期などの外傷による出血、消化管出血,脳出血などその病態が多彩であり、血小板は一概に出血に直接的に関与するわけではなく、出血を助長する因子である。PRASFIT-ACS試験でのチエノピリジン低反応性(PRU高値やVASP-PRI高値)は、血栓性イベントに関連する可能性が報告されている。一方、今回のPRASFIT-ACS試験の出血事象に関するpost hoc全体解析では、チエノピリジン系薬の効き過ぎ(PRU低値やVASP-PRI低値)は、出血事象とは直接関連性がない可能性が示された。これは欧米の報告でも同様である。さらに、PRASFIT-ACS試験の他の解析では、PCI挿入時などの出血事象には、挿入するルート血管が太い(大腿動脈)と有意に出血が多いことが示されている。以上を踏まえると、一般的な出血の危険因子としては、女性、高齢者、低体重に注意すること、また、抗血小板作用が効き過ぎている場合には、PCI挿入時などの外傷時の出血に注意すべきであると考えられる。

 VerifyNow®など新しい血小板機能検査は、日本では研究目的以外では実施されておらず、日本人を対象とした報告が少ないのが切実な課題である。そのため、日本人を対象に、出血事象について精度の高い報告がなされている治験(PRASFIT-ACS試験およびPRASFIT-Elective試験)から、多くのpost hoc解析が実施されている。現状、どう位置付けるかは難しい課題だが、血小板機能検査が必要なケースは、血小板血栓のリスクが高い病態、そして、血小板機能の抑え過ぎは周術期の出血リスクを高めることから、DAPT施行中に外科的手術を行う場合が考えられる。血小板機能のモニタリングは血小板血栓の予測には有用な可能性があるが、ルーチン検査としての意義は少ないかもしれない。今後さらなる日本人のエビデンスが必要である。

(関連記事)CYP2C19の多型がクロピドグレルの併用効果を左右

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