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"統合失調症には単剤治療"の普及を

2016年07月26日 10:45

 日本では諸外国と比べ、統合失調症に対して抗精神病薬の多剤大量療法が行われていることが突出して多い。抗精神病薬の多剤併用率が65%程度、大量処方率が30%を超えるとの精神科臨床薬学研究会からの報告もあり、問題となっている。日本神経精神薬理学会が作成した「統合失調症薬物治療ガイドライン」のタスクフォースメンバーでもある大阪大学連合小児発達学研究科准教授の橋本亮太氏は、第112回日本精神神経学会学術総会(6月2~4日,会長=東京慈恵会医科大学精神医学講座教授・中山和彦氏)で「エビデンスに基づいたこのガイドラインにより、統合失調症への単剤治療の普及を」と訴えた。

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治療の有益性が不明確なら行わない

 橋本氏は、2015年9月に公表されたエビデンスに基づく日本初の「統合失調症薬物治療ガイドライン」(以下、GL)の中で、抗精神病薬の単剤治療が明確に推奨されたのは意義が深いと言う。

 GLの考え方として、治療の有益性が不明確で潜在的な有益性が予測される場合には、その治療は行わないよう推奨しているとし、また、統合失調症の再発・再燃時には抗精神病薬の単剤治療が有用であり、ベンゾジアゼピン系薬の長期併用は勧められず、気分安定薬と抗うつ薬の併用も勧められていないとした。

 治療抵抗性統合失調症においても、抗精神病薬とその他の気分安定薬・抗てんかん薬、抗うつ薬、ベンゾジアゼピン系薬などの増強療法は勧められないという。

 投与薬剤減により症状が改善

 橋本氏は、自施設の統合失調症専門外来を受診した難治例の治療を取り上げながら、このGLの考え方に基づいた治療の在り方を解説した。

 症例は、受診時50歳代の女性。PANSS(Positive and Negative Syndrome Scale)で評価した陽性症状と陰性症状は中程度であり、薬原性錐体外路症状が認められた。推定病前知能は普通レベルであったが、WAIS-Ⅲによる知能は軽度知的障害レベルであり、発症後に認知機能が低下したものと考えられた。幻聴、妄想が1カ月以上続き、陰性症状や持続的な社会機能の低下も認められ統合失調症と診断した。また、この症例は抗精神病薬、抗パーキンソン病薬、気分安定薬、抗うつ薬、ベンゾジアゼピン、便秘薬、抗めまい薬など実に7領域、14種類もの薬剤投与を受けていた。

 程なく、患者は統合失調症入院プログラムに参加することとなった。服薬コンプラインスに問題があるために「みかけ上の治療抵抗性」を生じていると見て、第2世代抗精神病薬の単剤治療を行うこととした。患者と家族の同意の下にシングルブラインド処方(朝、昼、夜、就寝前に粉薬を投薬し、そこに実薬を混ぜて実薬の変更が分からないようにすること)を行い、プラセボ効果やノセボ効果を排除して、本当の薬剤効果だけを見た。

 第二世代の抗精神病薬1種類以外の13種類の薬剤の処方を全て中止したわけであるが、症状に全く変化が認められず、日中の傾眠傾向が改善した。心気的な訴えは、現在、軽度の知的障害レベルであるにもかかわらず、主婦としての務めを果たさなければならないことによる生活上の強いストレスからのヒステリー反応と捉え、精神療法を行ったところ、多彩な訴えのほとんどが消失した。さらに、驚くべきことに薬原性錐体外路症状である口唇ジスキネジアと思われた症状も完全に消失した。

 退院前には、家庭の主婦としての役割を担うのは無理があり、実家でゆっくり過ごさせるよう家族に対して指導した。ところが、退院1年後にはIQが大幅に回復していた。第2世代の抗精神病薬をコンプライアンスよく服用して再発しなかったこと、ストレスがかからない実家で過ごしたこと、抗コリン作用を持つ薬やベンゾジアゼピン系薬を中止したことなどによる効果であると考えられた。

 最後に、同氏は「エビデンスに基づいたGLによる抗精神病薬の単剤治療の普及を期待したい」と述べた。

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