新規登録

診療所のポリファーマシー対策

やわらぎクリニック副院長 北和也 氏

2016年07月29日 09:45

 高齢者がポリファーマシーに至る原因はさまざまである。年齢とともに患う疾患が増え、そのために複数の疾患をかかえるマルチモビディティ(多疾患併存)と密接に関与しているといわれる。マルチモビディティに対し各々の医師が真摯に対応しようと処方を重ねることで、ポリファーマシーが形成されてしまうことはしばしばあり、現場はジレンマに陥っている。

 昨年より地域の診療所に赴任したやわらぎクリニック副院長の北和也氏は、診療所および地域でのポリファーマシー対策について、診療所内、そして地域における相互理解・協力関係が不可欠であると語る。

患者やスタッフとの情報共有からスタート

 開口一番、「いつものお薬をもらいにきました」と処方継続のみを希望する患者は多く、それに対しそのまま機械的に処方する(Do処方)、というのは多くの医療機関での(暗黙の)習慣になっている。加えて、周辺医療機関の臓器別専門医を複数受診することで、処方数がどんどん増えてしまうという患者も少なくない。

 北氏が赴任した診療所、地域も例外ではなかった。同氏は、このような状況に対し、単に診療毎に処方調整、個別の患者教育を行うのみでは根本解決にはつながらないと考えた。

 1人1人の患者に時間をかけて処方のディスカッションを行ったところ、『いつもの薬』を希望する患者、円滑に診療を回したい医療スタッフからは評判が良いとは言い難く、混乱を生じることもしばしばあった。例えば、「20年以上処方してもらっている薬をなんで変更する必要があるのか?」などという患者は少なくない。混雑を懸念するスタッフからは、「単なるお薬診察なのになぜ時間をかけるのか」などと言われることもあった。どちらの考え方にも一理あるかもしれない。しかし、機械的なDo処方や複数医療機関での対応が処方数を増やし、結果的に健康に影響を及ぼしうることから、そのリスクについて確認する必要性もやはり存在する。加えて、処方調整を行っているその行為自体を、医療否定と混同されることもある。繰り返し丁寧な説明をしていかないと、いつの間にか薬=悪と短絡的に解釈され、ポリファーマシー対策が裏目に出てしまうこともある。そのため、患者やスタッフにこまめに情報をシェアし、共通認識を持たなければうまく伝えることができないと強く感じたという。

近隣の医療機関・薬局とも情報シェア

 たとえ診療所内での理解が得られたとしても、周辺医療機関との相互理解がなければポリファーマシー問題は根本解決に向かわない。処方の変化は調剤薬局にも影響を及ぼす。どういった意図で処方が徐々に変化しだしたのかわからなければ、薬局にもさまざまな混乱が生じる。また、1つの診療所のみが処方整理に奮闘したとしても、他の施設で処方を増やしてしまえば患者や地域の状況は好転しないため、周辺施設との情報シェアも重要である。適切な連携をとらなければ到底うまくはいかない。すなわち、ポリファーマシー問題は、診療所医師の"個人プレー"では解決しないのである。

対策によりポリファーマシー患者の処方が変化

 そこで北氏は、患者や診療所スタッフ、周辺の薬局や近隣の医療機関と、さまざまな情報をシェアすることから連携をスタートした。スタッフとは、(1)毎朝の5分勉強会(2)週1回の症例検討会(3)月1回の勉強会-を実践した。

 患者とは、日常診療での情報提供に加え、お薬手帳の積極的な利用をすすめた。具体的には、お薬手帳を常に携帯するように患者に促し、処方開始あるいは中止の理由を記載するなどして、患者・介護者・薬剤師とで処方についての情報共有に努めた。また、『お薬相談外来』を開設し、1人1人の患者に応じた時間を十分に設けて、薬に関する相談にのった。また、2週間ごとに診療開始前の健康教室を開催する他、ポスターを掲示するなどの取り組みを行った。

d6e27aefd2905dfa6ad0cd03670a6708e9858a40.jpge6d3bd1dbb9a5a862c089fbf1917b7d3ceb63aaf.jpg

 また、周辺の薬局ともコミュニケーションを図った。緊急性が高いケースでは疑義照会を、緊急性が低いケースではトレーシングレポートを積極活用してもらえるように伝えた。お薬手帳に処方整理の意図を書き込むことで、情報提供を行った。さらに、近隣の医療機関とは地域の医療者・介護者向けの研修会や薬剤師の研修会、町民向けの健康教室などを開催した。

 こうした取り組みを進めていくなかで、患者、スタッフの理解は徐々に得られるようになった。また、クリニックの院長である北氏の父(北廣美氏)も、取り組みについて理解を示し、協力してくれるという。父の理解・協力なくしては取り組みはうまくいかないと語る。

 以上のような1年間の成果を検証するために、北氏の診療所に受診したポリファーマシー患者52例を調べた。すると、平均処方数は2015年の7.0剤に対し、1年後には6.1剤と、1年で平均1剤が減少していることが分かった。処方数が増えている者が2割ほどいたが、処方内容や服薬状況には変化が見られた。

 同氏は今後の取り組みについて、「単純に処方数の変化をアウトカムにするのではなく、真に重要なアウトカムとして予後やQOLについて調べること、処方の変化を詳細に調査すること、他の医療機関が行った処方について評価できる体制作りを目指していきたい」としている。真に大切なのは処方数を減らすことではなく、患者さんによりフィットした処方を共に見つけていくことだと語る。そのためには、地域・医療機関の事情に即した、無理のない介入が大切である。

トップに戻る