新規登録

がん治療-薬物によらない苦痛からの解放

2016年07月29日 11:30

 がん患者の耐え難い苦痛に対する緩和医療としてしばしば行われる鎮静のうち、中止時期を定めずに深く意識を低下させる"深い持続的鎮静(CDS)"は、安楽死との明確な区別が付かないと問題視されることもあり、倫理的問題として長らく議論の対象となってきた。東札幌病院院長の照井健氏は、6月17~18日に開かれた第21回日本緩和医療学会学術大会(大会長=京都府立医科大学疼痛・緩和医療学講座教授・細川豊史氏)のシンポジウム「鎮静」に登壇。自院での最近のCDS施行率が0.05%と極めて低いことを発表。最新の緩和医療やトータルケアの実施により、がん患者が苦痛から解放されうるとし、「QOLをゼロにするCDSは、医療の目的とは反対の行為だ」と述べた。

1606097_terui.jpg

安楽死との区別が一見して付かないCDS

 鎮静とは、日本緩和医療学会の『苦痛緩和のための鎮静に関するガイドライン2010年版』によれば、「患者の苦痛緩和を目的として患者の意識を低下させる薬剤を投与すること、あるいは、患者の苦痛緩和のために投与した薬剤によって生じた意識の低下を意図的に維持すること」と定義される。標準的な治療では緩和できない、患者にとって耐え難い苦痛が存在する場合に、症状緩和のための最後の手段として行われる治療法である。鎮静は、意識の低下を一定期間もたらした後に薬剤を中止・減量することで意識が低下しない時間を確保する"間欠的鎮静"と、中止する時期をあらかじめ定めずに意識の低下を継続して維持する"持続的鎮静"の2つに分けられる。鎮静水準の深さの違いによってさらに細かく分けることができ、"浅い間欠的鎮静""深い持続的鎮静(CDS)"などと表現される。浅い間欠的鎮静は、夜間のせん妄症状をコントロールする際などに行われる。

 一方で、倫理的な問題をはらむと考えられて議論の対象となってきたのはCDSである。「医師が患者の死をもたらすことを意図して、薬剤を投与することによって生じる死亡」と定義される安楽死との区別が、医療従事者と患者の家族のいずれも、一見して付けられないためである。例えば、「苦しむ患者を見ている周囲の家族や医療従事者が楽になるから意識を低下させる」ことと「患者の苦痛緩和を目的として意識を低下させる」ことの間には、倫理的には大きな隔たりがあるにもかかわらず、同じように見える。

多施設共同研究でのCDS施行率は15%

 こうしたCDSの倫理的な問題点を指摘した照井氏は、「さまざまな課題をいまだに抱えながらも、薬剤、技術、症状評価の進歩で、身体的・心理的苦痛への対処は可能であると世界の緩和医療研究者たちは現在考えている」と述べ、近年の自院でのCDS施行状況について報告した。

 札幌市内の主要ながん総合病院から進行がん患者を受け入れている東札幌病院では、市内のがん死亡者の15%を毎年看取っている。同氏らが、2005年4月〜11年8月に自院の緩和ケア病棟で死亡退院したがん患者1,581例を後ろ向きに検討したところ、CDSを要した患者は22例(1.39%)だった。その主な理由は、全身倦怠感36.4%、呼吸困難感31.8%、疼痛22.7%だった(Palliat Support Care 2015; 13: 157-164)。また、2011年9月〜16年3月の1,960例を対象とした同様の検討では、CDS施行例は1例(0.05%)にすぎなかった。

 これらの施行率は、日本の多施設共同研究の報告(Lancet Oncol 2016; 17: 115-122)での15%と比べて極めて低い。その理由について同氏は、同院で行っている、CDSの適応を考える多職種でのチームカンファレンスの影響を挙げる。

苦痛緩和の斬新なアイデアが多職種の情報交換で生まれる

 同院のチームカンファレンスでは、主治医、訪問医、病棟看護師、外来看護師、訪問看護師、訪問介護士、ケアマネジャー、ソーシャルワーカー、薬剤師、栄養師に加えて、患者・家族も治療方針を話し合う。そこで情報交換を行うことで、苦痛緩和のための思いもよらないアイデアが生まれるという。

 例えば、ガイドラインにのっとって主治医が鎮静の施行を考慮していた高齢の女性がん患者は、照井氏が総回診を行っていたところ、目をつぶったまま両腕を挙げて心地よさそうに踊っていた。患者のお気に入りの音楽を、孫がカセットテープで聴かせていたのである。

omimai0719.jpg

 苦痛緩和の有効な手段となるこうした方法を多職種カンファレンスで考え出すことができれば、CDSが適応と考えられた患者でも苦痛を緩和することができる。実際、同氏が先に報告した同院のがん患者1,581例のうち、主治医がCDSの適応と考えたものの同カンファレンスで適応外とされ、CDS非施行となった例は6例存在した。

 同氏によると、多職種カンファレンスとそれによる患者・家族への関わりは、精神療法に準じる行為と解釈できるという。同氏は「身体的な苦痛にさいなまれているがん患者の中には、自宅から離れたベッドで過ごすことによる精神的孤独で症状が悪化している例も多い。耐え難い苦痛からの解放のためには、薬のみではなく、トータルのケアも必要だ」と述べ「医療の目的がQOLの維持・向上であるならば、QOLがゼロになるCDSは医療の目的とは正反対の行為であることを認識する必要があるだろう」と結論付けた。

トップに戻る