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薬の専門家ではなく、薬物治療の専門家になろう

国際医療福祉大学大学院教授/医療経営管理分野責任者 武藤 正樹 氏

2016年08月02日 10:00

薬の専門家ではなく、薬物治療の専門家になろう

 「いずれ、調剤業務はロボットによる自動化がなされる」と、衝撃的な発言をしたのは、国際医療福祉大学大学院で教鞭を執る傍ら、厚生労働省の各種委員も務める武藤正樹氏。医療制度、医療計画の問題などに取り組んでいる同氏は、今後、薬剤師は調剤室の外へと押し出され、3つの役割を与えられるだろうと言います。(1)健康サポートなどを中心に行っていく薬局薬剤師、(2)24時間体制で在宅患者へも対応する、いわゆる「かかりつけ」薬剤師、そして(3)抗がん剤などについて専門機関と連携して高度薬物管理を行う薬剤師です。

 PharmaTribuneの読者への激励を依頼したところ、どのような形であれ薬剤師は「薬の専門家ではなく、薬物治療の専門家」として国民の健康を支えていってほしいと、期待を込めて語ってくれました。

薬剤師は調剤室から外へ

 団塊の世代(約800万人)が75歳以上となる2025年(平成37年)まで、あと10年。厚生労働省は「地域包括ケアシステム」の構想を打ち出し、地域で包括的に、医療・介護・生活などにおける支援やサービスの一体的な提供を行う体制作りを目指しています。

 その流れを受け、2015年10月に「対物業務から対人業務へ」といったキーワードとともに、「患者のための薬局ビジョン」が公開されました。薬剤師は調剤室から飛び出して、患者や地域住民との関わりの中で、薬に関する疾病管理を徹底的に行っていくことが求められるようになったのです。

薬局は患者の生活を支える場に

 地域包括ケアシステムの中で想定される薬局では、健康サポートの側面から栄養士と協力して患者の栄養状態を観察し、OTCや栄養食品、健康器具や医療機器、日用雑貨なども含めたアドバイスを行います。患者が集まり談話ができるような、寄り合いの場所としての機能も加えられていくかもしれません。ここで薬剤師は疾病管理の薬に関する側面を受け持ちます。特に、薬物使用後の評価を徹底的に行うことが重要です。副作用やアドヒアランスの確認を行い、次の処方提案をするなど、薬剤使用のマネジメントのすべてのサイクルに薬剤師がかかわっていくことが望まれます。

薬剤師の「特定行為」も定めるべきだ

 そして、在宅をはじめとする地域医療への薬剤師の取り組みが重視されています。特に高齢者には、有害事象が発現しやすいほか、多剤投与による相互作用、残薬などの医薬問題が散見されます。薬剤師はこれらに対応するだけでなく、バイタルサインや患者の状態を観察して、医師に積極的に処方提案を行ってください。既に褥瘡治療に実践的に関わっている薬剤師もおられるでしょう*1。今後、このように薬剤師の行える治療行為は増えていくと思われます。

 米国のCDTM*2は、日本でも知られるようになりました。医師・薬剤師間の契約はないものの、同様な試みを行っている施設を見聞するようになってきました。日本の看護師は、特定行為が設けられ、診療の補助を行うことが認められています*3。薬剤師にも同様に特定行為を定めて、例えば、採血を行って血中濃度を測定し、処方量などを調整していくなど、より深く薬物治療に携わっていくべきではないかと考えています。

専門性向上を支える工夫を

 高齢化に伴い、外来でがん治療を行う患者、終末期ケアを要する患者も増えていくでしょう。このような患者には、専門医療機関などと連携して薬剤の管理を行っていきます。抗がん薬の副作用対策や抗HIV薬の選択などに携わるため、高い専門性が求められます。今後は認定制度や研修など、薬剤師の専門性向上をサポートする仕組みが充実してくることを期待します。

薬剤師は薬物治療が仕事

 薬物治療に関わる医師は深い専門性を有する一方で、領域が限られます。一方で薬剤師は薬物に関して領域横断的な知識を備えています。薬剤師は自身がチーム医療の一員である自覚を持ち、薬物治療全体に幅広く目配りして、適正使用の一助となってください。皆さんが薬の専門家ではなく、薬物治療の専門家として活躍されることを願っています。

国際医療福祉大学大学院 教授
武藤正樹
主に医療制度の分野において、厚生労働省の各種委員を務め、医療計画やジェネリック医薬品の問題などに取り組んでいる。
外科医。

*1褥瘡に関する予防、医療の進歩を促し、褥瘡医療の水準を向上させて国民の福祉に貢献することを目的に、「日本褥瘡学会認定師」と「日本褥瘡学会在宅褥瘡予防・管理師」の認定制度がある。

*2(Collaborative Drug Therapy Management:共同薬物治療管理業務)医師・薬剤師間が契約範囲内での業務分担を行う。薬剤師には補助的な処方権が委譲される。医師の診断を前提に作成したプロトコールに基づき、薬物治療に係わる臨床検査、薬物投与量、投与期間、投与方法、モニタリングや評価などを薬剤師が行う。患者の病態が比較的軽症で標準的な薬物治療が可能だと判断した場合に限る。

*3「特定行為に係わる看護師の研修制度」平成27年10月施行。38行為21区分の行為に関して、医師や歯科医師が患者を特定した上で看護師に手順書により特定行為を実施するよう指示する。当該特定行為区分に係わる研修の受講を必須とする。薬剤管理に関わる区分もあり、持続点滴中の高カロリー輸液の投与量の調整、脱水症状に対する輸液による補正、インスリンの投与量の調整、持続点滴中のカテコラミンの投与量の調整、抗けいれん剤の臨時の投与 抗精神病薬の臨時の投与 抗不安薬の臨時の投与などが含まれる。

地域医療構想・地域包括ケアシステムについては武藤氏の近著に詳しい 

2025年へのカウントダウン
著 武藤正樹
国際医療福祉大学大学院教授・医療経営管理分野責任者
270頁 定価(本体2,600円+税) ISBN978-4-87058-600-0

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