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肺がん 免疫チェックポイント阻害薬で変わる治療

副作用対策は重要

2016年08月30日 11:00

 2014年に悪性黒色腫に対する新薬として免疫チェックポイント阻害薬、抗PD-1抗体ニボルマブが承認された。昨年(2015年)12月には切除不能な進行・再発非小細胞肺がん(NSCLC)にも適応拡大され、肺がんの治療が大きく変わろうとしている。免疫チェックポイント阻害薬の特徴や副作用対策などについて、九州大学大学院呼吸器内科学分野教授の中西洋一氏に解説してもらった。

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がん細胞はPD-L1を発現しT細胞を欺く

 肺がんの治療は、基本的に(1)外科療法(2)放射線療法(3)薬物療法−の3種類となる。また、早期(手術可能):Ⅰ〜Ⅱ期、局所進行期(放射線治療可能):Ⅲ期、進行期(局所療法不可):Ⅳ期−と、病状の進行に合わせて治療法が変わる。現時点では、ニボルマブによる新しい免疫療法はⅣ期の治療として考えられている。

 われわれの体では、生体防御のために免疫監視機構が働くが、中でも腫瘍に対して強い攻撃力を持つT細胞の働きが免疫療法では重要になる。がん細胞が発現した腫瘍関連抗原を抗原提示細胞(樹状細胞)が取り込み、抗原提示細胞からのシグナルをT細胞は受容体で受け、それを認識するとT細胞が増殖し、腫瘍細胞を破壊する。

 一方、がん免疫編集機構(cancer immuno-editing)は、(1)排除相(免疫監視機構)(2)平衡相(がん休眠)(3)逃避相(がんの進行)−の3つの相で構成される。逃避相まで進行すると、がん細胞が免疫監視機構による認識・排除から逃れる能力を獲得し、その結果、臨床的にがんが顕在化することになる。この状態になって、初めてわれわれは「がん」と認識する。

 がんに罹患したということは免疫監視機構が破綻した状態で、破綻の原因は生体の免疫力が弱まったこと以外に、がん細胞が免疫監視機構を欺き、自らを敵と認識させないことが大きい。これが新免疫療法薬へのブレークポイントである。

 がん細胞はPD-L1分子の発現により、T細胞に敵ではなく味方(正常細胞)だと欺くシグナルを送り、T細胞はがん細胞を味方と認識して攻撃しない。がん細胞は、免疫監視機構からの逃避によってがんとして発生し発育するため、従来の攻撃力を高めるだけの免疫療法は奏効しなかった。

 新しい免疫療法は、"PD-L1というシグナルを外せばT細胞は味方ではなく敵(がん)だと気付いて攻撃するはず"という考えによる。T細胞がPD-L1を認識するPD-1受容体を抑えるのが抗PD-1抗体の作用機序である。免疫チェックポイントを標的としたがん免疫療法は、がんの免疫逃避を解除することによりT細胞によるがん細胞の攻撃を誘導する。

薬価は高いが効果も高い

 ニボルマブは、成人の肺がん患者には1回3mg/kgを2週間間隔で点滴静注する。平均的な体重の男性で1回130万円(1カ月で260万円)、その他の費用を合わせると、治療費は1カ月で300万円ほどになる非常に高価な薬剤である。承認条件は「医薬品リスク管理計画を策定の上、適切に実施すること」とされ、副作用対策が求められている。また、国内の治験症例が限られていることから、安全性を確認するために一定期間は全症例を対象に使用成績調査を実施し、データを収集して提出することとされている。

 非常に高額な上に投与条件も付けられているが、ニボルマブが承認に至った理由は臨床試験の結果が非常に良好だったからである。扁平上皮NSCLC患者をニボルマブ群とドセタキセル群にランダム化割り付けして行われたCheckMate-017試験(N Engl J Med 2015; 373: 123-135)、非扁平上皮NSCLC患者を対象とした同デザインのCheckMate-057試験(同2015; 373: 1627-1639)ではともに、ニボルマブ群で有意に全生存期間(OS)が長く(9.2カ月対6.0カ月、12.2カ月対9.4カ月)、両試験とも有効中止となった。

 扁平上皮NSCLC患者を対象にした国内の試験でもニボルマブは奏効率が25.7%と高く()、同薬中止後も効果が継続する例が少なからず見られた。腫瘍径も退縮後継続する例が見られた()。また、同薬の生存曲線からは長期予後が期待される。

表. 二ボルマブの奏効率(35例)

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図. 腫瘍径の変化率の推移

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(承認時評価資料)

 分子標的治療薬(免疫チェックポイント阻害薬を含む)は、これまでの殺細胞性抗がん薬とは異なり、効果がある人とない人がはっきりしている。そのため、中西氏は「効果がある人、ない人をどのように見分けるのかというのが大きな課題だと考えている。現在のところ、まだ正解は見つかっていない」と述べる。

免疫関連有害事象に注意

 ニボルマブは、従来の抗がん薬より有害事象の発生率が低く(ニボルマブ58%対ドセタキセル86%)、特にグレード3以上の重篤な有害事象の発生率は非常に低かった(同7%対55%)。肺臓炎は同5%対0%と多かったが、貧血、白血球減少、好中球減少など従来の抗がん薬に多く見られる血液関連の有害事象はほとんど見られなかった。

 頻度は低いが肺臓炎は国内で死亡例が認められており、今年1月には日本臨床腫瘍学会がニボルマブの適正使用に関するステートメントを発表。「日本人では従来の抗がん薬でも肺臓炎の発症頻度が高いことから注意が必要。肺がん患者では他の肺疾患を高率に有していることなどに留意して使用するように」と呼びかけた(関連記事)。

 また、従来の抗がん薬では見られなかった免疫関連有害事象があらゆる臓器で報告されており、注意が必要である。特に注意すべきは間質性肺炎、重症筋無力症、大腸炎・重度の下痢、1型糖尿病、肝機能障害・肝炎、甲状腺機能障害、神経障害、腎障害などで、国内で死亡例も報告されている。

 中でも劇症1型糖尿病は大きな問題で、数日で生命に関わるほど重症化することもあり、糖尿病専門医との連携が必要となる。ニボルマブの国内市販後(悪性黒色腫)に、因果関係が不明なものを含めて同薬服用者の7例で糖尿病が発症したことを受けて、医薬品医療機器総合機構(PMDA)は昨年11月に添付文書を改訂し、1型糖尿病の副作用についての注意喚起を行ったが、さらに2例の報告があり、今年1月にあらためて注意を呼びかけた(関連記事)。

チーム医療で副作用にも対応

 肺関連の有害事象では間質性肺炎(3%強)もあり、日本肺癌学会は「リスクが高い患者には使うべきではない」という立場であるが、臨床現場では他に使用可能な薬剤がなく患者が強く望む場合、ニボルマブを使うかどうかは現場の医師の裁量によることとなる。肺関連以外に大腸炎でも重症例が見られるが、重症大腸炎ではステロイド大量投与や場合によっては抗TNFα抗体薬などの免疫抑制薬を使用して治療すべきだという。その他にも皮疹など多彩な有害事象が見られ、注意が必要である。

 ニボルマブの使用には施設要件、医師要件が設定されているにもかかわらず、「要件を満たさない施設・医師が添付文書とは異なる用法・用量で適応症以外の疾患に投与する事例が散見され、副作用に適切に対応できないなど大きな問題となっている」として、今年7月には日本臨床腫瘍学会が新たにステートメントを発表。あらためて「要件を満たす施設・医師の下で適切な投与を受けるように」と患者に注意を促している。さらに同月、小野薬品工業は、ニボルマブ投与中または投与後に別のがん免疫療法を実施した6例が重篤な副作用を発現、そのうち1例が死亡したことを報告し、同薬の適正使用について注意を喚起した。

 中西氏は「ニボルマブを処方する医師は、がん化学療法だけでなく、全身に関する炎症や自己免疫などについても十分な知識・経験がなければならないと思われる」と述べる。同大学では診療科・職域横断的診療体制"免疫チェックポイント阻害薬適正使用委員会(Team ICI)"を立ち上げ、今後増加が予想される免疫チェックポイント阻害薬の使用に備えており、治療実施診療科、副作用に対応する専門診療科、看護師、薬剤師で連携を取っているという。

 ニボルマブ治療における今後の課題は①バイオマーカーの探索②副作用マネジメント(免疫関連の副作用)③他剤との併用(抗がん薬、免疫チェックポイント阻害薬、分子標的薬、他の免疫療法など)−などである。併用療法については複数の試験が進行中で、同氏は「今後、10〜15年ほどで世界のがん薬物療法のメインストリームを免疫チェックポイント阻害薬が占める」と展望している。

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