新規登録

健康サポート薬局が担うセルフメディケーション支援とは

第9回 日本在宅薬学会学術集会

2016年09月13日 11:15

 地域包括ケアシステムの構想が形を整えるなか、健康サポート薬局としての薬局のあり方が問われている。その業務の中心となるのが、セルフメディケーションの支援だ。しかし、これまで調剤業務を中心に行ってきた薬剤師にとって、「セルフメディケーションの支援」とは具体的にどのようなものか明らかでなく、実践に躊躇してしまうかもしれない。

 先ごろ大阪市で開催された第9回日本在宅薬学会学術集会のシンポジウム「健康サポート薬局の機能としてのセルフメディケーション」にはセルフメディケーションの支援を行っている4名が登壇し、それぞれの試みを紹介した。

 座長を務めた帝京平成大学薬学部教授の井手口直子氏は、「薬剤師は地域から何を求められているかを理解するヒントにしてほしい」と語った。

総論;アルゴリズムを用いた臨床判断とその教育

昭和大学医学部薬理学・薬学部薬学教育学 教授 木内 祐二氏


0fda216cacb02ff45759da1ea84199036442c422.jpg


 昭和大学の木内祐二氏は、薬学教育学を専門とする立場から、薬剤師による臨床判断のあり方と、卒業後も含めたその教育方法について述べた。

 これからの医療において、健康サポート薬局に勤務する薬剤師は、従来の調剤や服薬指導、適切な治療方法のモニタリングにとどまらず、来局者や在宅患者の訴える症候から1)基本的な症候を示す疾患を系統的に理解し、2)患者から情報を適切に収集し、3)患者ごとに適切な対応を判断(トリアージ)するべきであるという。

 そこで、同氏が提案したのが「臨床判断アルゴリズム」だ。このアルゴリズムでは、自覚症状に関する質問(LQQTSFA)で得られる情報を活用して疾患を鑑別し(図1左)、推測された疾患に対して、重症度などを考慮して科学的根拠に基づいた適切なトリアージを行う流れが示されている(図1右)。

図1.臨床判断アルゴリズム

1609020_fig1_02.jpg

(木内祐二氏提供)

 薬学教育における臨床判断の学習については、「一歩進んだ」と同氏は指摘。2015年に改訂されたコアカリキュラムでは、地域包括ケア、在宅医療、プライマリケア、セルフメディケーションなどが盛り込まれて、薬剤師の臨床判断の学習を拡充した内容になっている。

 例えば、従来のコアカリキュラムでは、症候に基づき「代表的疾患を説明できる」ことが求められていたが、新しいコアカリキュラムでは「代表的疾患を挙げ、患者情報を基に疾患を推測できる」という学習目標が設定された。薬学共用試験OSCEでは、LQQTSFAを含めた情報収集を確実に行えるかが確認される。

 その他、血圧など身体所見の観察・測定(フィジカルアセスメント)とその評価、薬学的管理への活用や、注射、点滴の理解、患者個々に対するEBMに基づいた処方、プロトコールに基づいた処方(CDTM)などの目標が設定された。そして、これらの薬物治療をチーム医療の中で、最善の形で提案できるよう求めているという。

 続いて同氏は、昭和大学での実習教育を紹介した。同大学では医・歯・薬・保健医療の4学部協働で在宅チーム医療の実習を試行している。また、薬学部6年生になると、実際に倒れている患者を想定して臨床判断に基づきトリアージし、救急処置や適切な処置を行うといった実習もある。症候を訴える患者に対する臨床判断の演習は、卒後教育として健康サポート薬局の研修にも導入される。

 このような、薬剤師による臨床判断に基づくトリアージの根底には、「患者の命と人生に責任を持つ」という覚悟と使命感、つまり薬剤師の「プロフェッショナリズム」が絶対に必要であると同氏は強調。薬剤師が責任を持って臨床判断を行い、積極的に地域のチーム医療に関われば、日本人の命の質が変わっていくものと期待を込めて、講演を終えた。

※自覚症状に対する面接は「LQQTSFA」の順で行う。すなわち,部位:Location(どこが?)、性状:Quality(どのように?)、程度:Quantity(どのくらい?)、時間と経過:Timing(いつ?いつから?)、状況:Setting(どのような状況で?)、寛解・増悪因子:Factor(どんな場合に悪くなる/良くなる?)、随伴症状:Associated manifestation(同時にどんな症状があるか?)について患者に質問をする。

ドラッグストア;地域の健康ハブステーションを志向

日本チェーンドラッグストア協会事務総長 宗像 守氏

79f7ebfae5e71eee22fa1dffeb2276097c134c25.jpg

 日本チェーンドラッグストア協会事務総長の宗像守氏は、厚労省の"健康サポート薬局"構想を踏まえた同協会の取り組みを紹介した

 宗像氏らがドラッグストア協会を立ち上げたのは1999年だが、以降、この業界はデフレ経済の中で右肩上がりの成長を続けている。2000年からの16年間で、店舗数は12,000店から18,000店へ、売り上げは2兆6,000万円から6兆1,000万円へと目覚ましい成長を示した。現在は、いわゆるインバウンド効果もあって各社の業績は絶好調である。

 しかし、人口減少・超高齢社会においてはドラッグストアに新しい役割が求められている。そこで、同協会は「高齢者の健康寿命延伸に貢献する」「地域社会の安心・安全に寄与する」「日本の優れた医療制度を維持する」をテーマに掲げ、1)予防・医療・介護の地域拠点となる、2)24時間または長時間に対応する、3)"健康ハブステーション機能"を持つ、の基本方針を打ち出した。

 これに基づいて12のプロジェクトを立ち上げ、研究と実践を進めている(表1)。それにはスマイルケア食(在宅介護食)の普及を促す、健康体操・運動を浸透させる、ペットと暮らす生活を後押しするといった取り組みが含まれており、ドラッグストアの従来イメージからの脱却が志向されているという。

表1.日本チェーンドラッグストア協会の12のプロジェクトチーム(PT)

1609020_tab1.jpg

(宗像守氏提供)

 「こうした動きは、厚労省の"健康サポート薬局"構想と同様の問題意識に基づく」と宗像氏は言う。服薬情報の一元的・継続的把握や24時間対応・在宅対応を意味する「かかりつけ薬局機能」と、要指導医薬品・OTCの供給・助言や,健康相談や受診勧奨、医療機関紹介を担う「健康サポート機能」を併せ持つ薬局として、それぞれ強化する必要がある。

 現状のドラッグストアには、調剤を行う薬局許可店舗と店舗販売業許可店舗があるが、いずれの店舗でも"健康サポート薬局"の理念を踏まえた機能評価を実行し,それをクリアした薬局許可店舗に対しては"健康サポート薬局プラス"、店舗販売業許可店舗に対しては"健康サポートドラッグ"と表示したいと、宗像氏は語っている。

薬局;地域のセルフメディケーションを支える薬局作り

有限会社ファルマ 代表取締役・薬剤師 田村 憲胤氏

d8eaf5f6cfa20664082258333011d0952c6ab86d.jpg

 東京都練馬区の江古田駅北口と南口に栄町店と旭丘店を経営する田村憲胤氏は、地域を支える薬局の視点でセルフメディケーションをどう位置づけるか、持論を展開した。栄町店と旭丘店の2薬局は月間、230医療機関の約3,000枚の処方箋を扱い、それぞれ430品目、400品目のOTCを販売している。

 「薬局は地域限定であるべきだ」と明言する田村氏は、徹底した地域志向を実践する。学校薬剤師3名を擁し、実務実習は年間2〜3名を受け入れている。地域の人脈、資源、情報を何よりも重視する中、自らも地域の商店会の役員を務め、江古田音楽祭といった催しにも実行委員として積極的に関わっている。

 地域でできることをさらに増やしたい同氏は、保険制度の内と外、薬局の内と外の4つの象限で薬剤師の役割を考えた。保険制度内かつ薬局内が処方箋調剤であり、保険制度内かつ薬局外が在宅活動。保険制度外かつ薬局内が健康相談・OTCであり、保険制度外かつ薬局外が学校薬剤師等の地域活動である()。

図.保険制度の内外、薬局の内外の4象限で考える薬剤師の役割

1609020_fig2.jpg

(田村憲胤氏提供)

 薬剤師は患者から、健康相談やOTC販売、すなわちセルフメディケーション支援の担い手として見られることは少ないのではないかと同氏は訴える。かつては、患者が最初に出会う医療職は薬剤師であることが多かったはずだ。それでは今、薬剤師は未病の人の健康相談相手として、OTCを推薦し、養生法を教え、ときに医療機関を紹介し、受診を勧奨するといった役割を十分に果たせているだろうか。この問いかけこそ、厚労省の提唱する"健康サポート薬局"の理念に通じるものである。 時代の必然であるならば、保険制度外かつ薬局内の取り組みは強化せざるを得ない。そのためには固有の武器が必要であり、同氏は個人薬局経営者の集まりである日本薬局協励会を支えにしている。協励会は特徴が明確なOTCを開発しており、仲間同士の勉強会や患者への情報提供にも積極的だという。

薬局;薬剤師がOTCに関わる問題点とその対策

シグマ薬品株式会社こぐま薬局(東大阪市) 薬剤師 大槻 文子氏

bf7ba6ac074d35c3b2af6fb780aff488f833c4b5.jpg

 こぐま薬局の大槻文子氏は、処方箋調剤が中心の薬局において、薬剤師がOTC販売に関わる難しさとその解決策を報告した。

 こぐま薬局は薬剤師8名(うちパート3名)が勤務し、在宅調剤も行う薬局である。OTCを担当していた店長が異動になり、薬剤師が調剤のかたわらOTC業務を担うようになり、さまざまな不満や問題点が指摘されたという(表2)。

表2.調剤業務中心の薬局、薬剤師がOTC販売に関わる問題点

1609020_tab2.jpg

(大槻文子氏提供)

 「在宅で忙しいので、OTCなんてやっている暇がない」など新しい業務に対する不満もあれば、「OTCなんてどれも同じ」「配合剤ばかりで不要な成分も入っている」といったOTCへの批判もあった。また、「処方箋調剤と異なり薬歴管理が行えないため、継続的管理が難しい」というセルフメディケーション支援の理念自体に向かう疑問も示された。

 そもそも薬局を訪れる客層は、「定期的に受診し処方箋を出してもらっている人」から、「健康食品などを買いに来た人」まで非常に多様であり、医療の必要性や患者情報の量の点で濃淡が著しい。

 このうち、定期的な受診はしていないなどの処方箋を持たない客には、まず来局してもらうことが前提となる。大槻氏は、外から店内が見えるレイアウトにし、医薬品の大半をカウンターのガラスケース内に配置。薬剤師または登録販売者がカウンセリングしてOTCを販売するようにした。

 また、処方薬のついでにOTCを買う客を意識し、待合室の椅子から目の届きやすい位置に売り場を作り、商品説明ポスターを貼った。さらに、風邪の時期には発熱時の脱水対策飲料など、調剤薬と同時にOTCや健康食品を販売するといった工夫をした。

 一方、採用品の成分一覧表を作成して「OTCは個々の違いが分からない」との批判に応え、顧客台帳を用意して継続的な患者管理ができるようにした。

 こうした取り組みでこぐま薬局はOTC販売を推進しているが、経営的にはまだ成功していない。だが、患者が立ち寄りたくなる薬局作り、患者の健康に積極的に関わるという薬剤師の意識改革を大事にしたいと大槻氏は述べている。

トップに戻る