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御義母上様に自宅病児保育をお願い申し上げるの巻

2016年09月27日 10:45

 夫の実家が自宅から車で20分ほどのところにあるので、子供が生まれたときから何かというと御義母上様(おははうえさま)に頼りっぱなしで、かろうじて家事・育児・仕事をやりくりできている。

 去年の冬に子供がインフルエンザにかかったときも、「かくかくしかじかで、うちで子供を見ていただけないでしょうか?」とお願いしたところ、「いいわよ~」と快く引き受けていただけた。夫も早朝に出勤して、どうしても済ませないといけない仕事だけ片付けて、昼過ぎで早退してきてくれる段取りになった。おかげで私は1日も仕事に穴を開けることなく、出席停止期間を乗り切ることができてしまった。

 けど、本当は「1日くらい私が休みをもらった方がいいんじゃないのかな......」という思いもあった。そのへんは融通を利かせてもらえる職場だったので。御義母上様にもそう言ってみたのだが、「いいのよ~、あなたは仕事に行ってらっしゃい。いないとみんなが困るでしょう?」

 そこで初めて、「あ、そうか」と気付いた。

 

「母親なんだから、子供が病気のときはそばにいてやるべき」
「そのためには仕事を休んでも仕方ない」
「だけど本当は、休まずにすむなら、職場に負担をかけないためにも休みたくない」

 

 もともと、さほど子供好きというタイプではない私が子供を産んでみたのは、「自分で子供を産んで育児をしたら、妊婦・授乳婦や小児の服薬指導がもっとうまくできるようになるんじゃないか」という理由もあった。それぐらい母性のうすいダメ母の私ですら、無意識のうちに「母親なんだから、子供が病気のときぐらいは仕事を休んで看病してやるべきなんじゃないか」という思い込みにとらわれていた。

 一方で、「本当は職場のことを考えると、休まずに済むなら休みたくない」という気持ちも心のどこかにあったけれども、それは母親として悪いことのような思いがあった。だから、「休まずに済むのなら......」という気持ちは私の口から出てくることはなく、それどころか自分で認めることすら無意識のうちに拒否して、蓋をして、気付くことはできなかった。「仕事に行っていいんだよ」と言ってもらうことで、初めてそれに気付けたのだ。

 だが、気付くことができなかったらどうなっていただろう。
 ......いや、おそらく、多くの母親が気付かないままでいるのではないか。

 もちろん、家庭や職場の状況は人それぞれなのだから、子供が病気の時に母親が仕事を休むべきかどうかは一概に言えることではない。けれども、「自分の仕事はどういうものなのか」「自分がどういう思いを抱えていて、そのためにどうしたいと感じているのか」、それを自覚して言葉にできなければ、周囲に理解を求めることも対応してもらうこともできはしない。そのことを言葉にして言わなくてもわかってくれる人がいることが、どれほど救いになるか。

 「あなたが母親なんだから、あなたが休めばいいじゃない」と言われてしまったら、もうどうしようもない。
 だが、御義母上様はそうは言わなかった。

 「母親なんだから......」などと言われることなく病児保育を引き受けてもらえることが、どれほど得がたいことか。

 たぶん、私はものすごく恵まれた環境にいる。
 これは本当にありがたいことだなあ、と思いつつ家に帰ると、御義母上様はすでに帰宅したあとだった。早退した夫と、熱も下がって元気になった子供が一緒に待っていた。

 ......あれ?
 なんだか玄関がすっきりしている。
 ずっと掃き掃除もしていなくて砂だらけだった土間が綺麗になって、靴べらだの自転車の空気入れだのがごちゃごちゃしてた下駄箱の周りもきちんと片付いている。

私「ただいま。ありがとう、玄関の掃除してくれたんだね」
夫「それ、うちの母親だよ」
私「えっ」
夫「トイレも掃除してくれたって」
私「えぇっ!」
夫「あと台所も片付けてくれたみたい」
私「えええええええええっ?!」

 慌ててトイレを見ると、確かに手が届きにくくて普段いい加減にしか掃除してなかった床の隅っこの方がピカピカになっている。台所も、面倒がって掃除をさぼってたコンロ周りや、うっすらホコリをかぶっていた窓枠のあたりがまでもが全部綺麗になってる!

私「うわあぁー! やばい! やばいよ! 全部見られちゃったよ! 
 普段ぜんぜん掃除してないのバレバレだよー!」
夫「いや、『毎日仕事してるんだから、しょうがないわよね』って、笑ってたよ」
私「そりゃ笑うよ!ってか笑うしかないよ! 
 あなたどんだけぐうたらなの?って絶対思われてるよ! うわーん!」
夫「大丈夫だと思うけどなあ......」

 こんなふうに、私はとてつもなく恵まれた環境で薬剤師として働きつつ、ダメ母をやらせていただいている。
 毎週土曜の夕方には、私はフルタイム勤務を終えると、夫と子供と一緒に夫の実家を訪れて、御母上様の振る舞う手料理をありがたくいただいてから帰宅する。

 『御義母上様』という字面はずいぶんと大げさに見えるかもしれないが、やっぱりどう考えても私にとってはそう書くしかない御方であらせられるのである。

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【コラムコンセプト】
仕事に家事に育児と、目まぐるしい日々を送る母親薬剤師。新薬や疾病の勉強もしなきゃいけないが、家のことだっておろそかにできない。追い立てられるように慌ただしい毎日だ。そんな中で、ふと立ち止まり、考える。「働く母親って、どうしてこんなにいろんなものを抱え込んでしまっているんだろう?」「薬剤師の業務って、どうしてこんなふうなんだろう?」忙しさに紛れて気付けずにいる感情に気付いたら、働く母親に見える景色はきっといくらか変わるだろう。日常の業務に埋もれたままの何かを言葉にできたなら、薬剤師を取り巻く世界も少しずつ変えていけるだろうか。


【へたれ薬剤師Kiko プロフィール】Hetare_kiko_columm.png

卒後9年間病院勤務ののち、結婚を機に夫の地元で調剤薬局に転職。産休育休を経て、現在は中規模チェーン薬局にフルタイムで勤務。アラフォー。8歳の息子、夫(not薬剤師)と3人暮らし。食事は手抜き。洗濯は週3回。掃除はルンバにおまかせ。どういうわけだか「コトバ」に異様にこだわる。座右の銘は「モノも言いようで門松が立つ」。(Twitter:@hetareyakiko)

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