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おがさわら丸に乗り込んだあの日(その1)

2016年09月29日 10:45

おがさわら丸に乗り込んだあの日(その1)

 応援メッセージに引き続き、本土から最も時間のかかる場所にある離島(小笠原諸島・父島)における、薬剤師業務や島の医療、生活事情などについて、紹介していきたいと思います。今回は、私が小笠原諸島に行くことになったきっかけや、当初の慣れない島生活について書きたいと思います。

ドラッグストアで働きながら国内を旅していた

 私は今、本土から24時間もかかる小笠原諸島で働いているわけですが、初めから離島医療を志していたわけではありません。もともと研究者を目指すも、うまくいかず博士課程を中退。心身ともに疲弊していた私は、将来の夢も目標も無く、定職にもつかずドラッグストアで薬剤師のアルバイトをして、小銭を貯めたら国内各地へ旅行するような生活を長く続けていました。

 ドラッグストアは応援を含め十数店舗で働きましたが、私の仕事先では、薬剤師の役割に理解の無い所が多かったように思います。主な仕事は食品レジや棚替え、お菓子やペットボトルの納品でした。薬に関係する業務といえば、栄養ドリンクの納品ばかり。常に店内を走り回り、力仕事の連続で接客などしてる暇もありません。「それが嫌なら調剤専門の薬局へ行け」「高い給料もらっておいて仕事を選ぶな」と怒られたこともあります。よく「ドラッグストアでは薬剤師の説明なんて受けたことが無い」という話を聞きますが、実際の現場はコスト削減によるスタッフの人手不足と無理解で、薬剤師はこき使われ、薬の接客をしたくてもできない場合も多いのではないでしょうか。

 この状態、若いうちはお金のためと割り切れるのですが、30歳を過ぎたあたりから、「同級生より経験や知識は10年遅れている」ことに気づいて焦ってくるわけです。6年ほどで日本国内をほぼ行き尽くし、そろそろこんな生活辞めようと思って、最後の旅行先に選んだのが小笠原諸島でした。観光情報を調べるために小笠原村役場のホームページを見たら、偶然、薬剤師募集の文字を見つけました。さすがにこの時は見送りましたが、今思えば、このことが私が小笠原とかかわりを持つことになる、直接的なきっかけでした。

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東京竹芝からおがさわら丸で25時間半(7月から新しいおがさわら丸になったので24時間)、ようやく父島へと入港。二見湾の奥に父島二見港があり、約2,000人程度の島の人口は、二見湾周辺に集中している。青い海、白い砂浜という南の島のイメージとは裏腹に、小笠原諸島は山がちな地形が広がる。おがさわら丸に乗ると、東京湾を出てから父島が間近に見える頃まで、携帯電話は圏外で使えない。

小笠原への旅行で「すぐにここにまた来る」と直感

 週に一回しか船が来ないなんて、どんな島だろうと思いつつ、一か月後に小笠原諸島を訪問。丸一日の船旅でしたが、心配していた船酔いもなかったです。「意外となんでも生活雑貨は揃う」「島には若者や子供が多い」など、イメージとは異なる印象を受けました。南の島は青い海・白い砂浜というイメージがありますが、小笠原は(もちろんビーチはありますが)ごつごつした岩肌が多いことにも驚きました。生鮮品は船でしか届かないので、船の入港日のスーパーのレジは、長蛇の列です。もっとも、一番の衝撃はスーパーで見た「ウミガメの刺身」でした。ウミガメを食べることは、話には聞いていましたが実際見ると驚きました。こんな具合に驚くことばかりの滞在3泊はあっという間に過ぎました。名物の盛大なお見送りの後、帰路に浮かぶおがさわら丸の上で去りゆく島影を見ながら、なぜか「自分はすぐにここにまた来る」という妙な確信を感じたことを、今でもはっきり覚えています。

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初めて小笠原に行ったとき、スーパーで見つけた「ウミガメの刺身」。刺身にできる部位は少ないそうで、魚などに比べれば値段は高い。付属の生姜をおろして醤油で食べるが、臭みなどもなく食べやすい。飲食店では冷凍ウミガメ肉を使用するので年中あるが、スーパーには春頃にたまにしか並ばない。ウミガメは他に亀煮込みにして食べるのが一般的。小笠原には他にも島寿司、ラム酒、島野菜や南国の果物など、ちょっと変わった食べ物がある。

 大阪の自宅に戻ってもう一度役場のページを見たら、期間を延長してまだ薬剤師を村職員として募集していたので、誰にも相談することなく(してもきっと賛成する人はいないでしょう)、半ば衝動的に願書を提出しました。面接は父島までは行けないので、竹芝でテレビ会議システムを用いて行われました。1人の募集枠だったので、多分ダメだろうなと考えていましたが、見事採用。こうして私は小笠原諸島唯一の薬剤師となったわけです。私の場合はダイビングの趣味は無いので、「小笠原の海や自然」ではなく、むしろ「1人だと薬剤師の業務全てをこなさないといけない、つまり業務全てを経験できる、遅れを取り戻せる」と考えていました。未経験も同然の人間が、今思えばかなり無茶な考えをしていたと、恐ろしくなります。

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