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多職種で感染症を楽しく学ぶ!

2016年10月05日 13:30

 仕事の一環でSNSをチェックしていると、「第4回~ビール片手に感染症~Beginners Infection Conference」という文字が。「多職種で感染症か、面白そうだな。開催は・・・明日!?場所は恵比寿、よし行ける!」ということで主催者に取材許可を取り、この勉強会に潜入できたのでレポートする。

【ワークショップ概要】

第4回~ビール片手に感染症~Beginners Infection Conference

日時:2016年9月10日(土) 18:30~

主催:佐々木雅一(東邦大学大森病院臨床検査部)、黒川正美(東京高輪病院中央検査室)、田中洋輔(聖マリアンナ医科大学横浜市西部病院臨床検査部)、原弘士(横浜市立脳卒中・神経脊椎センター薬剤部)、加藤英明(横浜市立大学医学部)

ゲスト:山本剛(西神戸医療センター 臨床検査技術部)、市原真(札幌厚生病院 病理診断科)

20160910.jpg

 本ワークショップは、その名の通りビールや食事を楽しみながら行う。参加者は総勢122名。満員御礼である。内訳は、臨床検査技師43名、医師29名、薬剤師19名、看護師18名、獣医師2名、その他11名。1グループに多職種が含まれるよう、6名前後に振り分けられているようだ。演者は、プレゼン中にクイズを出題し、グループごとの回答を集計していきながら進行していった。

 まずは、横浜市立大学医学部の加藤英明氏がビールの歴史(!)やビール酵母を含む真菌の分類などについて講演。(編注:大変興味深い内容だったのですが、本サイトの性格上、割愛させていただきます。加藤先生、すみません!実はこの講演、参加者同士がグループ内で打ち解けられるようにという、加藤先生の粋な計らいでした。)

→ 加藤先生より:「これでよいのです。基本はicebreakingですから。」

あらゆるデータを駆使し、医師へ適切な抗菌薬の提案を

 次に、横浜市立脳卒中・神経脊椎センター薬剤部の原弘士氏が登壇。下記の症例を紹介した。

75歳男性、主訴は発熱(39度)。

【現病歴】右MCA領域脳梗塞後、回復期リハビリテーション病棟へ転入院82日目。膿尿・細菌尿を認め、尿路感染としてスルファメトキサゾール・トリメトプリム製剤(1回2錠、1日2回)が処方されたが、翌朝、血圧低下がみられたため主治医より相談があった。

【既往歴】脳梗塞、高血圧症、糖尿病、前立腺肥大症、神経因性膀胱

【常用薬】クロピドグレル、オルメサルタン、アムロジピン、グリメピリド、リナグリプチン、ピタバスタチン、フェブキソスタット、エソメプラゾール、酸化マグネシウム

【食物アレルギー、薬剤アレルギー】ともになし

 そこで原氏は、主治医へ輸液負荷の開始依頼と抗菌薬を検討する旨を伝え、病棟へ向かった。到着すると、すでに初期輸液療法が開始されていた。検査値は、異常値のみ列挙すると、BUN 23.7mg/dL、CRE 1.2 mg/dL、CRP 14.18mg/dL、WBC 37,000/μL、RBC 410×104/μg、Hb 13.0g/dLであった。

 病棟看護師からは、「血圧78mmHg/58mmHg、昨日よりも反応が悪く、呼吸も荒い(24回/分)、脈も速い(心拍数126回/分)、尿量が少ない気がする、体温は39.1度、白血球数37,000/μLである」と伝えられた。ICU以外で使用する敗血症スクリーニングツール「quick SOFAスコア」では、下記3項目中、2項目以上当てはまると敗血症の可能性を疑い、集中治療が必要だと判断される。

qSOFA(ICU以外で使用)

  • 収縮期血圧100mmHg以下
  • 呼吸数22回/分以上
  • GCS※115点未満の意識低下

Singer M, et al.JAMA. 2016; 315:801-10.

 今回は3項目全てに該当し、前日採取した血液培養の結果、緑膿菌を疑うグラム陰性桿菌が検出されたという報告も入った。診断は、敗血症(±ショック)と尿路感染症で、ICUへの転棟が決まった。ここで、選択すべき抗菌薬が出題された。

  1. スルファメトキサゾール・トリメトプリム製剤を点滴に変更
  2. セフトリアキソンへ変更
  3. 塩酸バンコマイシンを追加
  4. メロペネムへ変更

・・・

Thinking Time

・・・

回答:4

 同氏は、ここで抗緑膿菌作用を持つ抗菌薬を紹介した。

  • セフェピム、セフタジジム
  • カルバペネム系
  • キノロン系(シプロフロキサシン・レボフロキサシン)
  • アミノグリコシド系
  • アズトレオナム

 上記から、ローカルファクター2や投薬歴を参考に、カルバペネム系の抗菌薬であるメロペネムを選択したという。

 金曜の出来事だったため、週末に輸液負荷しても血圧低下が続く場合、ノルアドレナリンを開始し、緑膿菌への対策として抗菌薬の併用も検討すること、クレアチニンが回復しなければメロペネムを12時間毎に減量すること(推定Ccr≒43mL/min)、摂食が可能になったら食事を開始すること、とした。

 週明けには全身状態が改善、回復期リハビリテーション病棟(包括病棟)に移ることが決定、薬価の高いメロペネムの継続について検討することにした。

P. aeruginosa(緑膿菌)の培養結果

BIC.jpg

 上記を参考に、薬価も安く、適切な抗菌薬としてセフタジジム注1g/8時間(¥1,293/日)へ切り替え、合計14日間の投与で終了となった。

 これは、薬剤師が患者の様子や原因菌の培養結果などの情報を踏まえながら、医師に対してその場その場で最も適切な抗菌薬の提案を行い、患者さんの医療費負担をできるだけ抑えつつ、回復へ向かわせることに貢献できた症例だ。

 加えて原氏は、重症感染症時の急性期治療の際には、栄養をチェックする重要性を指摘。特にRefeeding syndrome※3に注意すべきだと述べた。

患者の情報を把握することの重要性

 山本剛氏(西神戸医療センター)は、ストマ排液が増量した70歳男性患者のストマ排液のグラム染色により、Giardia lamblia※4(ランブル鞭毛虫)が発見された例を紹介した。なぜ入院中の患者からG. lambliaが検出されたのか。G. lambliaは水系感染や汚染された食材からの感染が考えられるため、自宅に管理されていない水道は引いているか(地下水など)状況を聞くと、自宅で地下水の使用はないという。しかし、居住区の上水道を調べると、その地域の水道水は地下水を利用していることが判明した。結局、自宅の水道水に付着したG. lambliaのシストを経口摂取し、感染したことが分かった。山本氏は「患者がどこに住んでいるのかという情報も重要である」と述べた。

山本氏の「グラム染色道場」はコチラ

 最後に、ゲストの市原真氏=ヤンデル先生(札幌厚生病院 病理診断科)が登場。夜間救急でやってきた患者さんが死亡した症例を紹介した。とても難しい症例で、患者さんを救うことはまずできなかったであろうと前置きした上で、「どこに気付いていたら、どのようにしていたら少しでも患者さんを救えた可能性があったか」を検討し、診断の難しさ、患者さんや家族の訴え・所見などから違和感を感じ取ることの重要性をレクチャーした。前半は大きな笑いと共に進行していったが、後半は参加者が真剣な顔で講義を聴き入り、班内で検討していた様子が印象的だった。この症例は、ヤンデル先生が各地の講演で紹介しており、今後も使用する可能性もあるので、本稿ではあえて紹介しない。

(編注:原稿作成の手間を省こうとか、文字量の関係で省略しようとしているわけではありません)

 ぜひ、機会があれば実際に参加し、症例検討に加わってみてほしい。与えられた時間内で自分の知識を総動員して検討することで、得られるものがあるはずである。なお、この症例は2016年9月8日の神戸大学での講演でも用いられており、WEB上でも閲覧できる(病理医ヤンデルの灼熱講義 with DP)。

 お酒の力もあったのかもしれないが、講師の方々のプレゼンの巧みさで終始にぎやかに、楽しく進んだ勉強会であった。以前に紹介したJJCLIPの勉強会でも感じたことだが、面白さがなければ学びを続けることは難しいし、記憶にも残りにくい。勉強会が終わった後、原氏と加藤氏の「今回、薬剤師の参加人数が思っていたよりも少なかった。このような勉強会に薬剤師はもっと積極的に参加して、知識の向上と他職種との関わり方を考えるきっかけにしてほしい」という言葉が印象的であった。

※1 GCS
Glasgow Coma Scale。意識レベルの評価指標として、世界で広く用いられている。

※2 ローカルファクター
同じ感染症であっても、起因菌や薬剤感受性は地域や施設ごとに異なるため、使用すべき抗菌薬も必然的に変わってくること。

※3 Refeeding syndrome
飢餓状態の患者に強制栄養を行った際に起こる全身代謝性症候群で、電解質異常、低血糖、心電図異常、乳酸アシドーシス、血圧低下などを主症状とする。発症すると死亡率は70%程度のため、目標カロリーの20~40%程度のエネルギーをゆっくり投与し(可能であれば腸管から)、開始後4~7日で必要量とする。ビタミン、電解質(P)の投与も必要。モニタリング項目として、血糖、P、Na+、K+、Ca、Mg、BUN、Crが重要。

※4 Giardia lamblia
消化管に寄生する鞭毛虫。糞便中に排泄された囊子に汚染された食品や水を経口摂取することで感染を起こし、食欲不振、腹部不快感や下痢を生じる。診断には、患者から採取された下痢便の塗抹標本で行う。アルコールおよび塩素系消毒に耐性を示す。

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