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要介護5,薬剤師を拒否する患者-1

これがホントの在宅活動 症例検討会1

2016年10月31日 11:45

 薬剤師の在宅活動の素朴な疑問を取り上げてきた本コーナー。今回から一歩踏み込んで、在宅患者の症例検討を誌面で行います。提示された症例のより良い在宅療養をサポートするために、できることはなにか。訪問医、ケアマネジャーからも意見をもらいました。

患者プロフィール

50 代後半 女性 要介護5

1 型糖尿病、高血圧症、深部静脈血栓症(左下肢)、脳出血(被殻出血)の既往あり。歩行障害、高次脳機能障害、重度左片麻痺、下肢痛、便秘、気分変調があり環境の変化で不穏症状が出ることがある。

会話はいくらか困難を伴う。血糖コントロール不良。インスリンの打ち忘れ、内服薬の飲み忘れ、食事の乱れが原因だと訪問医は考えている。

唯一の介護者である夫の介助で通院していたが、服薬管理と夫の体調や仕事を考慮し、主治医より薬局へ居宅療養管理指導の依頼が提案された。

体重不明、褥瘡なし。

処方薬

グルファスト®錠10mg 3錠 / 毎食直前
アスピリン腸溶錠100mg 1錠 / 昼食後
エナラプリルマレイン酸塩錠2.5mg 1錠 / 昼食後
リスペリドン錠1mg 1錠 / 昼食後
酸化マグネシウム錠330mg 2錠 / 昼食後
ランタス®注ソロスター® 20単位 / 夕
グリセリン浣腸60mL 便秘時

介護プラン

訪問介護(身体・生活):週3回(月・水・木)
デイケア:週2回(火・金)
訪問看護:週1回(水)
訪問診療:月2回
薬剤師の居宅療養管理指導:月2回(訪問診療の翌日に訪問)

薬関連の問題点

●グルファスト®だけが、ほとんど服用されずに残っている。
●インスリンの減る速度がまちまちで、看護師からの情報では、夫の単位数設定がきちんとできていないという。針の減りが遅く、インスリンの使用頻度の実態は不明。
●薬剤師が訪問すると患者から「帰れ」と言われることがある。

治療と生活の状況

HbA1c: 7%台(NGSP)で推移。
血圧:140/90mmHgくらいで、4カ月前からエナラプリルが追加。
体重:減少なし(薬局では把握できていない)。
:インスリンは夫が帰宅後に注射している。デイケアで服用する薬は専用の袋に準備。その他の薬は、缶の中に1包ずつちぎって入れておく。
食生活:1日880kcalを目標に準備された食事を完全摂取した後も、菓子パンやお菓子を希望する。朝ご飯は食べない。ウイスキーの晩酌あり。ウイスキーの水割りをコップ2杯(夫からの情報)。
排泄:自力で立てないので、排尿は基本的にオムツ内。マットを敷かずに業者貸与のベッドに直接に寝ていて、尿漏れがあるも、新聞紙を敷いてあるだけの対応。排便は、自宅では訪問看護の支援が必要。自力排便を試してはいるが、座位が不安定で、身体が左に倒れやすい。デイケアでは浣腸後にトイレに座っている。
嚥下機能:水分でむせることがある。食事ではむせないものの、嚥下機能評価の結果、デイケアの食事形態の検討が必要と提案されている。
その他:移動は車椅子。リハビリテーションのモチベーションが低い。

これらの情報をもとに下記の3点について考えてみましょう。
1.介入できること
2.どうしたら薬剤師の訪問を快く受け止めてくれるか
3.患者さんが求めていることは何か

Q1.介入できることは?

  1. グルファスト®の中止を提案
  2. ランタス®の手技を確認
  3. 服薬状況の確認
  4. リスペリドンの必要性を検討
  5. 嚥下能力の確認
  6. 治療目標を話し合う

1.グルファスト®の中止を提案

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1型糖尿病の診断を受けているので、禁忌薬のグルファスト®は中止した方が良いのではないでしょうか。グルファスト®は膵β細胞に作用してインスリンを分泌促進するので、もともとインスリン分泌能のない1型糖尿病の方には不向きな薬剤であると考えました。

経口糖尿病薬を飲んでも飲まなくてもさほど検査値には変わりなく、この方が高血糖を示しているのは、インスリンの打ち忘れ、不規則な食事によるものではないかと考えました。

2.ランタス®の手技を確認

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血糖コントロールができないのは、ランタス®の注射と食事が原因ではないでしょうか。ランタス®はご主人が帰宅後に注射されているということですが、まずはその手技がきちんとできているか確認することが必要ですね。ご主人がお休みの日や帰宅後などに訪問して、まずはご主人だけと手技を練習しても良いかもしれません。

デバイスをイノレット®にすれば、ダイアルに使用単位のところに印をつけることもでき、注射単位が見やすくなります。イノレット®で持効型で1日1回投与が可能なのはレベミル®のみですが、ランタス®よりも効果持続時間が短いので、変更の場合には注意が必要ですね。食事のカロリー計算も、改めてしてみる必要があると思います。

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グルファスト®をほとんど飲んでおらず、ランタス®もまちまちでこの食事内容でHbA1c7%台であれば、ランタス®をきちんと注射し、晩酌をやめ、菓子パンを0カロリーのゼリーや低脂肪低カロリーのお菓子に変えれば、もう少し改善するのではないかと思います。

ランタス®を確実に注射するために、火・金のデイケアで看護師に打ってもらい、現状の水曜日に追加して月・木にも訪問看護に入ってもらい、インスリン注射を依頼し、残りの土・日はご主人に注射してもらってはどうでしょうか。ご主人の手技指導は必要ですね。

介護保険の負担を考慮して、看護師の訪問は短時間を1回にして、もう1回は薬剤師が訪問して、麻痺がないと思われる右手を使ってご自身で打つことを指導するのも1つの方法かもしれません。そうすれば、薬剤師が訪問する理由がはっきりするというメリットもあります。ランタス®を確実に注射しても血糖値が高ければ、単位を増やすことも検討すれば良いと思います。

余談ですが、手技といえばインスリンを注射したあと10秒そのままにせずにすぐ抜いていた人がいて、10秒数えてから抜くようにしたら血糖値が安定したということがありました。

3.服薬状況の確認

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血圧が高いのが気になるので、グルファスト®以外の薬剤の服用状況も確認する必要があると思います。

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服薬確認のため、一包化して日付を印字し、訪問者がいる昼に服用してはどうでしょうか。

4.リスペリドンの必要性を検討

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リスペリドンは不穏症状に対する処方でしょうか?精神的な安定が得られるよう生活環境を整えられれば不要になるかもしれません。リスペリドンは糖尿病のある方には慎重投与で、この患者さんでは血糖上昇も考えられます。肝機能にもよりますが、抑肝散を提案してみてはいかがでしょうか。

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リスペリドンは常用しないと不穏になってしまうのでしょうか。糖尿病があり血糖値が上がりやすいこと、晩酌がやめられないことから、できれば頓用から中止に持っていきたいところではあります。

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イライラが強くて、誰にでもすぐに怒り出してしまうのかもしれません。多職種が関与していることを考えると必要な薬剤だと考えます。

5.嚥下能力の確認

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"嚥下機能評価の結果、デイケアの食事形態の検討が必要と提案されている"ことから、誤嚥予防のためACE阻害薬のエナラプリルが選択されている(ACE阻害薬は、嚥下反射と咳反射の調節をしているサブスタンスPの分解を阻害する作用が報告されている)かと思います。

血圧をもう少し下げようと思えば、5mgに増量しても良いかも知れません。

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嚥下能力も気になるところです。水割りは飲めるようですが、むせはどうでしょうか。口腔内ケアとして、歯科に一度見てもらったほうが良いかもしれません。

6.治療目標を話し合う

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HbA1cがさほど高くない点から考えると、治療の中心は血糖コントロールで、ADLを改善して下肢切断や透析移行までをいかに遅らせるか、が重要かと思います。患者さんの治療意欲が感じられない点が難しいところですね。訪問計画で短期目標、長期目標を立てるときに、依頼元の処方医と目標を話し合うと問題点も見えてくるのではないでしょうか。

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目標をどこにするか、チームで話し合いたいです。HbA1cが7%台で、最低限の低血糖と高血糖を回避できていれば良しとすることもありだと思います。きちんと管理するのであれば、看護師や薬剤師、デイケアで確実に把握できる時のみ確認して注射する。適正使用を考えれば、ランタス®は毎日打つべきですが、中には週3回でコントロールしている例などもあります。

他職種の視点

ペンネーム 京都3人娘 ケアマネジャー

ラポールな関係(相互を信頼し合い安心して自由に振る舞ったり感情の交流を行える関係)を築くことは、在宅療養を支援する上では大切なことだと思います。

この方は50代で、唯一の介護者である夫は仕事があり、片麻痺で何もかも思うようにならない、もしかしたら自暴自棄に陥りながら生活していることを想定します。訴えに耳を傾け、本人が病気を理解して病気とうまく付き合いながら自立した療養生活ができるように、介護サービスを調整しながら支援します。

主治医の見解である血糖コントロール不良が、今後どのように生活に影響するか生活全般を見ながら、本人の意向、介護者の夫の気持ちを重ねていきます。本人の意向を引き出すには、サービス利用中の情報を各事業所に問い合わせるなどすり合わせも重要です。

困ったときには、本人の意志・家族の気持ちとその周りにいるサービス事業所に頼ります。多職種連携で在宅療養を支えていることをサービス担当者会議で伝えて、一緒に考えています。

花見真弓 ケアマネジャー

●ご主人の病気への無理解が気になります。菓子パンやお菓子は、ご主人によって用意されているのでしょうね。

●誤嚥を防ぐための口腔ケアも必要かと思われます。ヘルパーさんが援助中にご本人が食事をされるのであれば協力してもらい、パタカラ体操の声掛けなど、自宅での食事や水分には、とろみをつけることも必要ではないでしょうか。

※パタカラ体操は口の体操の1つで、食べ物を上手にのどの奥まで運ぶ一連の動作を鍛えるための発音による運動

小宮山学 家庭医療専門医

●心理社会的に大きな問題のある症例ですが、まず医療的な面では雜賀さんがおっしゃるように1型糖尿病にグルファスト®は禁忌ですし、飲み忘れもありますので中止したほうが良いのではないかと思います。

●インスリンについても、皆さんご指摘のように、夫に対して手技や単位の確認指導を改めて行うことや、昼の服薬にしたり、デバイスを単位が間違えにくいものに変える、というのも良い手だなと思いました。

●現実のアドヒアランスの評価をするには、訪問看護師との連携や情報交換は不可欠ですし、できれば後述する「サービス担当者会議」で、チーム皆で薬についての相談や検討をしたほうが良いと思います。

●治療目標についてもおっしゃるように、このような方には画一的な治療目標を当てはめず、個々の患者さんにとってどのような治療目標が好ましいか、医学的根拠も参考にしながら、全体としてQOLが高まるような個別性のある目標設定を立てて、チーム全体で共有することが望ましいと私も思います。

●嚥下機能については、内服薬は薬剤形状など誤嚥しにくいものの検討は必要だと思いますし、もし地域で嚥下に関わる訪問の栄養士や言語療法士がいるならばチームに入ってもらって、実際の在宅現場で嚥下機能の評価や食形態のアドバイスをもらったり、薬剤形状のこまかな相談ができることが望ましいです。

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