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急患!飛行艇で搬送!

~小笠原の医療事情~

2016年12月08日 10:45

 11月に入ったあたりから、父島もようやく涼しくなってきました。空気はすっかり秋で、朝晩は半袖一枚では少々寒いかなという程度になりましたが、昼間はやはり暑いです。私自身が暑がりなので、日中は冷房が必須な状態が続いています。季節感のあまりないこの島では、日が短くなったことに最も季節を感じられる気がします。
 さて、今回は島の医療事情について書いていきたいと思います。

高齢者には特に不向きな医療環境

 一般的に、離島というと高齢者の多い過疎地域をイメージすると思います。ところが、小笠原の住民層は特徴的で、一般的に考えられる離島とは異なり、若い人や子供が非常に多いです。逆に高齢者は相対的に少ないです。医療面での不安(例えば島に設備は無いため、透析はできない)などから、島を引き揚げる方が多いためだと思います。

小笠原の特有の風土病というのはありませんが、島民に多い疾患といえば喘息です。小児から高齢者まで、喘息の薬は(内服も吸入も)よく処方されているので気が付きました。また、ちょうどこの時期は大人も子供も風邪が増える頃になりますが、OTC薬を買える場所は限られ※1(関連記事:海を渡る院外処方箋)、種類も少ないので、一週間程度の解熱剤や咳止め、アレルギー薬などの処方もよく見かけます。小児用のシロップや散剤は各8種類程度在庫し、子供が多い島事情に対応しています。

※1 OTCの一部は島でも買えますが、通販で買うケースが多いと思います。通販なら、サイトによっては内地価格で買えます。

救急の場合は自衛隊の飛行艇で救急搬送

 父島診療所は入院もできますが、もちろん診療所では対応できない場合もあります。そういった場合はおがさわら丸で上京して受診、急ぐ場合は自衛隊の飛行艇による救急搬送となります。内地の基幹病院から添乗医師を乗せて飛行艇がやってきて、父島で患者を収容し厚木基地か羽田空港へと搬送、そこで待機していた救急車で基幹病院(小笠原の場合は主に広尾病院)に収容されます。夜間や母島から救急搬送する場合はヘリコプターになりますが、距離が遠くて東京までは飛べないので、一度硫黄島の飛行場で乗り換えとなります。搬送依頼をかけてから、基幹病院に収容するまで、平均で9時間程度かかっているようです。

 搬送については、せいぜい薬剤の払い出しなどくらいしか、薬剤師がかかわることはありません。正確に数えたわけではありませんが、飛行艇による搬送はここ数年では、年に20回程度あったように思います。搬送が決まると医師や看護師は大忙しです。外来時間だったりすると外来調剤の人員2も割かれることになり、搬送に直接かかわるわけではないものの、薬剤部も忙しくなります。

※2 基本的に薬剤師と薬局担当看護師(ローテーション制)で調剤業務をしていますが、搬送などで人手が必要になれば薬局担当者も緊急性の高いほうへ動員されます。

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私の家のカレンダー。小笠原村では、どこの世帯でも事業所でも、カレンダーの日付の下に赤い線と矢印を書き込んでいる(新品以外で書き込まれていないカレンダーを、この島では見たことがない)。この赤い線と矢印はおがさわら丸の動向を表していて、赤い線の間父島におがさわら丸が停泊していて、左向き矢印の日の午前11時におがさわら丸入港、右向き矢印の日の午後3時半におがさわら丸出港を示している。島のスーパーや商店は父島出港翌日や入港前日などに休みになるので、入出港に注意しておかないと自販機で買ったカップ麵が夕飯、などということにもなりかねない。ちなみに小西商店はうちの実家の自営業だが、薬局ではない。

医療スタッフ同士の距離は近い

 診療所では、医師や看護師、放射線技師、臨床検査技師、理学療法士などの医療スタッフがいますが、全体的にスタッフ同士の距離が近いと感じています。毎朝、診療所の専門職は全員集まって、夜勤の看護師さんから申し送りを受ける他、事務からの連絡事項などもここで全員に伝達されます。同様に夕方にも夜勤入りの看護師さんを交えて、当日受診したり入院している患者さんについての申し送りが行われます。薬剤師はこの時に「在庫の少なくなっている薬」、「採用変更をした薬」などを報告しています。もっと大きい問題が生じた場合や、私が中心になって進めている業務(母島診療所3との採用医薬品統一など)については、月に一回、各職種の長が集まる「医療安全委員会」で話し合いや報告をします。離島特有のチーム医療というものは特にありませんが、大きい病院に比べれば、医療スタッフの人数が少なく、各職種が顔を合わせる場が定期的に設けられていることなどから、伝達はスムーズにいっているのではないかと思います。

※3 薬剤師不在の母島診療所には、年に4回程度出張します。船の運行スケジュール上、母島への日帰り出張は不可能です。このような状況なので、母島診療所は兼任というよりは、業務改善の指導などに行ってるような感じに近いです。

小笠原村診療所の診療科目

内科、小児科、外科、整形外科、眼科、耳鼻咽喉科、皮膚科、産婦人科、精神科、歯科

小笠原村診療所の医療スタッフ数

【医科】 
 医師   3名
 看護師 10名
 助産師  1名
 薬剤師  1名
 X線技師 1名
 理学療法士1名
 臨床検査技師 1名
 栄養士  1名
 調理師  3名

【歯科】
 歯科医師 1名
 歯科技工士1名
 歯科衛生士1名

次回は、「一人薬剤師ゆえに悩むこと、そして離島移住を阻む意外な事情とは......」という内容をお伝えしたいと思います。

【コラムコンセプト】
 僻地や離島の薬剤師業務って、給料は高いだろうけど、周りに何にもない不便な所で大変そうなイメージがある。それに不便な地で「生活」もしていかなければいけないから結構な覚悟が必要そうだ。......けど実際のところはどうなの?そんな興味と疑問を併せ持つ薬剤師のために、日本で最も行きにくい離島で働く薬剤師が送るコラム連載。良い面悪い面全てを含め、離島におけるありのままの薬剤師業務や生活を、面白おかしくお伝えしていけたらと考える。堅苦しい薬の記事の合間にここを読めば、「私は都会でないと無理だ...」と思っている人も、(保証はできないが)案外すんなり僻地でもやっていけるかもしれない。

【小西良典氏 プロフィール】cfe16ed4007e8fd8d26248d6a2afad043c7a3e9f.jpg
 大学卒業後薬学部ではなく理学部の大学院に進学。博士課程を中退。その後、ドラッグストアなどで働きながら全国を旅する生活を続けて8年あまりのある日、旅行先の小笠原村が薬剤師を募集していることを知り、勢いで出願。見事採用され、以後、父島の診療所に勤務。旅行経験から、全国どこの街でも道に迷わない自信がある。趣味は工作、パソコン、料理、ロシア語など多数。最近は、毎日録画をしている昼の映画や海外ドラマを片付けるだけで週末が終わっていく。

(関連記事)離島や僻地で働いてみては

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