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ひとり薬剤師ゆえに悩むこと

2016年12月19日 10:45

移住への難関は住宅問題

 きれいな海に憧れる。はたまた、当コラムを読んで小笠原に魅力を感じてしまった。移住したい。そのように考える場合に何が問題となるでしょうか。

 実は住宅事情が一番問題になります。狭い島で平地が少ない。さらに世界遺産に指定されている。そうなると必然的に宅地となる地域は限られてきます。建材を運ぶのも大変だし、多湿な環境ではカビなどが多く、建物の維持は内地より高くつきます。賃貸もありますが、家賃は非常に高いです。公務員を除く一般島民は、民宿に住み込んだり、社員寮、都営住宅に住んでいる方が多いです。人気の都営住宅は空きが出たら抽選となりますが、その抽選に参加するためには島内居住期間が一定以上必要であるなど、さまざまな制限があり、小笠原での住居の確保は簡単にはいきません。

 こういった住宅事情は常についてまわり、例えば長期研修者を受け入れるにも、その住宅をどうするかという問題が上がります。

小笠原の薬剤師は家賃がお得?

 薬剤師は地方へ行けば高給であるとよく言われます。しかし、小笠原の当診療所で働く場合、薬剤師は公務員として雇用されており、給料は法律で決まっています。「高給である」とは言えません。都市近郊の調剤薬局のほうが、給料面では良いと思います。

 一方で、先の「島での住宅事情」を考えると、話は変わってきます。村職員には基本的に職員住宅が支給されます。家賃は給料から天引きで、かなり安く借りられるので、通勤に交通費がかからない(自宅から診療所まで徒歩3分)ことも合わせれば、必ずしも給料面で不利だとは言えないのでしょうか。

職員住宅はみんな顔見知り

 職員住宅であるということは、職場の人がみんなその住宅に住んでいるわけです。たとえば私の住んでいる職員住宅は集合住宅で、一見普通のアパートと変わらないものの、実はどの家も看護師さんやその他の専門職の方が入居しています。みんなが顔見知りなので安心で、いざというときには頼れる反面、ストレスを感じる方もいるかもしれません。

 職員住宅の設備はきれいですが、光熱費は高いです。島内には発電所が一カ所、水源はダム、ガスは内地から輸送されてきて、契約先は決まっている、そうなると「電力自由化」「原発反対」といった議論は、どこか遠い場所での出来事のように感じてしまいます。

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おがさわら丸の着く二見港から、中心部とは反対側、清瀬地区を望む。画面左下が診療所で中央のグラウンドが小笠原高校、奥の山並みは兄島。診療所の奥のほうに、団地が多数あることに注目。村の職員住宅の他、都営住宅も立ち並んでいる。この清瀬地区のみならず、住宅は団地形式のものが多い。この写真を見れば、土地が無いのでこの島で一軒家を建てることが難しいということが、容易に理解できる。父島の清瀬地区は宿が少なく、商店も一軒しかないので、非常に静かな環境である。私の職員住宅も写真には写っていないが、清瀬地区にある。

僻地や離島で働いてみようと思うなら・・・・・・

 島の医療職で長く続ける方は少なく、数年ごとに入れ替わっている印象があります。このような立地であるがゆえに上京機会が限られ、研修や勉強会も受けにくいなどの事情があるかもしれません。小笠原に来てから3年半になりますが、私の住んでいる二階建ての職員住宅も、気づけば二階フロアは私が最古参、私の隣も隣の隣も、すでに私が来てから二度入れ替わっていて、そう考えれば「私も長くここに居るのだな」とつくづく思います。

 ただ、長く居ることは、通常得難い知識や経験が得られる反面、「他所の薬剤師さんとかかわる機会」は限られてしまい、また一人職種であるため「他の薬剤師さんといっしょに仕事をする」ことは無いわけです。気軽に島を出て勉強会に参加などできない立地ゆえ、私自身も自分のやり方が果たして内地でどこまで通用するのか、不安が常につきまとっていることは確かです。僻地や離島で働くとなると、特に一人職種の場合では、こういった部分についても、よく考えておく必要があると思います。

 

【コラムコンセプト】
 僻地や離島の薬剤師業務って、給料は高いだろうけど、周りに何にもない不便な所で大変そうなイメージがある。それに不便な地で「生活」もしていかなければいけないから結構な覚悟が必要そうだ。......けど実際のところはどうなの?そんな興味と疑問を併せ持つ薬剤師のために、日本で最も行きにくい離島で働く薬剤師が送るコラム連載。良い面悪い面全てを含め、離島におけるありのままの薬剤師業務や生活を、面白おかしくお伝えしていけたらと考える。堅苦しい薬の記事の合間にここを読めば、「私は都会でないと無理だ...」と思っている人も、(保証はできないが)案外すんなり僻地でもやっていけるかもしれない。

【小西良典氏 プロフィール】cfe16ed4007e8fd8d26248d6a2afad043c7a3e9f.jpg
 大学卒業後薬学部ではなく理学部の大学院に進学。博士課程を中退。その後、ドラッグストアなどで働きながら全国を旅する生活を続けて8年あまりのある日、旅行先の小笠原村が薬剤師を募集していることを知り、勢いで出願。見事採用され、以後、父島の診療所に勤務。旅行経験から、全国どこの街でも道に迷わない自信がある。趣味は工作、パソコン、料理、ロシア語など多数。最近は、毎日録画をしている昼の映画や海外ドラマを片付けるだけで週末が終わっていく。

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