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NYで「ゾンビ」が集団発生、原因は

米・研究チームが分析結果を報告

2016年12月21日 07:30

 今年(2016年)7月12日の朝、ニューヨーク市ブルックリン地区の一角で、33人もの住民が精神状態に異常を来し、18人が救急搬送された。路上のあちこちで失神したり、膝から崩れ落ちて動けなくなったり、嘔吐や失禁したりする人が続出した。このときの様子については、「ゾンビのようだった」 「子供たちには決して見せたくない光景だった」とする地元住民の声などとともに欧米のメディアで大々的に報じられた。この「ゾンビ」集団発生の原因物質が合成カンナビノイドのAMB-FUBINACA※1であることを突き止めたのは、米・University of California, San FranciscoのAxel J. Adams氏らだ。同氏らはこのほど、中毒患者から採取した尿や血液の検体、さらに使用された薬物を分析した結果の詳細をN Engl J Med2016年12月14日オンライン版)に報告した。AMB-FUBINACAは、数年前に日本でも流通していた「危険ドラッグ」のアナログだという。

「ゾンビのようなうめき声」「ぼんやりした目つき」だが検査所見は正常

 救急搬送された18人は年齢25~59歳(平均36.8歳)の男性で、うち8人はホームレスだった。今回のAdams氏らの報告によると、最初に搬送された28歳の男性は救急隊員からの質問に対して回答に時間がかかり、「ぼんやりとした目つき」だった。また、汗をかいており、時折ゾンビのようなうめき声を上げ、手足の動きは緩慢かつ機械的だったが、この男性を含む全例で血圧や心拍数、体温や心電図検査の他、血液検査から異常な所見は認められず、アンフェタミンやコカインなど既知の薬物についても検査結果は陰性だったという。

 同氏らは、救急搬送から数日後に提供された尿と血液の検体を液体クロマトグラフ-四重極-飛行時間型質量分析計(LC-QTOF/MS)を用いて分析。その結果、全例で合成カンナビノイドのAMB-FUBINACAの代謝物※2が検出され、その血清中濃度は77~636ng/mLだった。また、中毒症状をもたらした疑いがあるとして提供された "AK-47 24 Karat Gold"という商品名の「お香」を分析した結果、1g当たり14.2~25.2mgのAMB-FUBINACAが検出された。

日本を含む各国で合成カンナビノイドの使用が拡大

 Adams氏らによると、アンフェタミンやヘロイン、コカイン、大麻などの古くから使用されていた薬物に加え、最近は新たな向精神作用を有する薬物の選択肢が広がっているという。中でも最も急速に拡大しているのがAMB-FUBINACAのような合成カンナビノイドが含まれたデザイナードラッグ※3(脱法ドラッグあるいは危険ドラッグ)だ。2014年に国連薬物犯罪事務所(UNODC)に報告された合成カンナビノイド系の製品は177種類を超えていたという。日本でも近年、「ハーブ」や「ポプリ」、「お香」や「入浴剤」などの名称で販売されている合成カンナビノイドを含むデザイナードラッグの使用が広がっており、2014年、JR池袋駅の近くで乗用車を暴走させ8人を死傷させた事件の犯人が使用していたのも2種類の合成カンナビノイドが含まれたハーブだった。

 合成カンナビノイドは内因性カンナビノイド系に関する研究の過程で、欧米の研究者によって開発された。その後、乱用を目的とした合成カンナビノイドを含む製品が密造されるようになり、2008年ごろには欧州では「スパイス」、米国では「K2」などの商品名で使用が広がったという。各国に流通している合成カンナビノイド系薬物のほとんどは中国や南アジアで密造されており、不活性の乾燥植物片に混ぜた状態で商品化されているものが多い。マリファナと同じようなスタイルで使用でき、より安価であることから、若年層や貧困層で人気が高いとされている。

 AMB-FUBINACAは、かつて米・Pfizer社が研究目的で開発したAB-FUBINACAのアナログだ。AB-FUBINACAは2009年に公開された特許情報を基に乱用目的の製品が密造され、各国で流通した。なお同氏らによると、AB-FUBINACAは日本で流通していたデザイナードラッグの中で初めて検出されたことが報告されているという(Forensic Toxicol 2013; 31: 93-100)。

作用はマリファナ有効成分の85倍

 「合成カンナビノイド」という呼称から、カンナビノイドが含まれる天然の大麻から作ったマリファナとそれほど違いはないと誤解されやすいが、分子構造は全く違う。Adams氏らによると、AMB-FUBINACAの作用はマリファナの主な有効成分であるテトラヒドロカンナビノール(delta9-tetrahydrocannabinol;Δ9-THC)の85倍に達し、以前流通していた「スパイス」や「K2」と比べても50倍の作用を有することが、最近実施されたin vitroの研究で明らかにされているという。過去8年間に合成カンナビノイドによる死亡例を含むさまざまな有害事象が報告されており、覚醒剤よりも危険な場合もあるようだ。

 なお、同氏らが販路について調べたところ、これらの製品の多くはインターネットでも販売されており、AMB-FUBINACAについては粉末状の製品が1グラム当たり1.95~3.80ドルで販売されていたという。

 こうした合成カンナビノイドを含む新種の製品は、規制の対象となれば、またたく間に新たな分子構造の薬物を使用した製品がつくられてしまうのが現状だ。しかし、未知の薬物による中毒症状の原因を突き止めるのは簡単ではない。今回、同氏らは救急搬送を受け入れた医療機関や麻薬取締局、ニューヨーク警察などとの連携により17日後には原因物質を特定しており、「今後、新たな向精神作用のある物質の種類はますます増え、それらの複雑性も高まっていくと考えられるため、今回のような複数の関係機関による連携が重要になっていくだろう」と強調している。

※1 メチル 2-[1-(4-フルオロベンジル)-1H-インダゾール-3-カルボキサミド]-3-メチルブタノアート

※2 2-[1-(4-フルオロベンジル)-1H-インダゾール-3-カルボキサミド]-3-メチルブタン酸

※3 規制薬物の分子構造の一部を他の官能基に置き換えた乱用目的の薬物

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