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インフルエンザ流行で薬が足りない!

2016年12月22日 07:30

 12月になりましたが、小笠原では暖かく、クリスマスの気配は全く感じられません。相変わらず、晴れた昼間には強い日が差し、気温は20度を超えます。職場シフトの都合上、薬剤師は年末年始が休暇になる場合が多いので、この時期になると上京用に冬服やコートの用意をしておかなければなりませんが、島では全く冬服など必要ありません。ただ、最近、特に朝晩は空気がひんやりしてきているので、体調を崩して診療所にかかる方が多いように感じます。

 今回は、小笠原で流行する感染症について書きます。去年は子供を中心にマイコプラズマが流行りました。保育園や学校などで、集団感染する場合が多いようです。とびひやヘルパンギーナ、溶連菌は、時折感染する患者がいるものの、「流行」と言えるほどではありません。そして、これからの季節に気になる感染症といえばインフルエンザでしょうか。小笠原でもインフルエンザは集団感染を中心とした流行が見られます。

2ドック明けのおがさわら丸入港
同時にインフルエンザが流行

 小笠原ではインフルエンザの流行時期に内地とのずれがあります。その理由は、おがさわら丸の運行スケジュールに密接に関わっています。

 おがさわら丸は例年1月下旬にドック入りするため、その数週間の運航はありません。2月上旬、ドック期間を明けたおがさわら丸の最初の入港日。内地から帰ってきた島民や観光客が大勢、小笠原に上陸します。そして、その中にはどこかでインフルエンザに感染してきた人もいるわけです。

 「おがさわら丸で発熱患者が出た」という情報は、診療所にもすぐに回ってきます。感染症の患者が出れば、あっという間に感染が広まりますし、船の中で感染症患者が出た場合、同じ船に乗っていた人も感染している可能性が高くなります。

 こうして、小笠原では、このドック明けからインフルエンザの流行が本格化します。薬剤部では、ドック明けの流行に備え、年明けからイナビル®吸入粉末剤を70人分程度、カロナール®錠は3000錠程度の在庫を確保します。

 例年、4月末ごろまで発症者が出るインフルエンザですが、予防接種は11月の上旬から開始します。ワクチンの発注は(インフルエンザ以外のものも)看護師さんが行っているので、正確な発注数を把握していません。診療所では、島民向けにインフルエンザ予防接種の日が設けられています。平日の午後や休日など、合計で8日程度あり、毎回100人弱が来ている印象があります。島民のうち、半数以上は予防接種を受けているのではないでしょうか。

※ドック:定期点検や改修、修理のために船が入渠する場所のこと。

ピンチ・・・!インフルエンザ流行、薬が足りない!!

 感染症の流行期に薬が足りなくなったことは、2回ほどありました。1度目はインフルエンザの流行で、カロナール®錠が足りなくなりました。翌日に母島診療所からいくらか融通をつけてもらい、幸い数日後に受け取ることができましたが、大人向けにカロナール®細粒までも動員するといった具合で、何とか次回入荷まで乗り切りました。

その年は、インフルエンザ治療薬をリレンザ®からイナビル®に採用変更していました。イナビル®について知らない島民がほとんどでしたので、薬の説明や服薬指導をする上、その場での服用を確認しなければならず、とにかく時間がかかり、忙しかったです。

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母島最南端、南崎周辺。正面の山は小富士といって、日本最南端のご当地富士とのこと。富士山の世界遺産登録に便乗したのか、観光協会に申し込めば登頂証明を発行してくれる。母島の集落からは、都道最南端までは車で行けるが、その先は徒歩。 3月初旬、私は日帰りで母島へ来て、初夏の陽気の下、電話も通じないこの南崎周辺でのんびりしていた。ちょうどそのころ、インフルエンザ流行でカロナール錠が足りなくなっていたが、それを知ったのは、父島へ戻ってから。このとき日帰り旅行を切り上げて、母島診療所でカロナール錠をわけてもらっていれば...などと、しばらくの間後悔したものだった。

マイコプラズマ流行期に台風が重なった!

 あと1回、薬の在庫が切れたのは、去年の10月にマイコプラズマが流行したときです。ちょうど台風でおがさわら丸が1便欠航し、抗菌薬が(もちろん生鮮品や郵便も)2週間届きませんでした。普段ほとんど処方されないため在庫を削減していたクラリシッド®のドライシロップは、わずか2日で欠品、アスベリン®シロップも足りなくなりました。クラリシッド®は錠剤を粉砕、咳止めはメジコン®錠を粉砕してやり過ごしましたが、しまいにはそれも少なくなり、ミノマイシン®カプセルを脱カプセルしたりもしました。

 クラリシッド®の錠剤を砕いたものは非常に苦く、飲めない子供も多かったようです。 この件をきっかけに錠剤がのめるようになったという子供の話も聞きました。台風が去って、母島からクラリシッド®やジスロマック®の融通をつけてもらい、さらにおがさわら丸が入港して在庫危機は脱出できたものの、流行はさらに1カ月ほど続きました。

父島と母島で流行期がずれる

 島は狭いです。感染病が流行しはじめると一気に広まるので(風邪も最近流行りつつあります)、常に油断はできません。ところが、意外なことに父島と母島とで、同時に流行することは、あまりありません。マイコプラズマが父島で大流行した時も、母島では患者はいませんでした。

 母島へは、父島からははじま丸に乗って約2時間。父島からは週におよそ2日は日帰り(往復)ができますが、母島から父島にきて、用務を済ませての日帰りはどのように頑張ってもできません。午前中に父島から母島へ向かい、午後に母島から父島へ戻る、というのが基本的なははじま丸の運行スケジュールで、それ以外は午後に片道、もしくは運休になります。

 同じ村でも、実は互いに隔離された環境にあるということが、感染症の流行具合からも実感できるところです。

・・・なお、小笠原で患者が多いのは喘息とぎょう虫で、感染症ではないものの、これらは風土病と言えるのかもしれません。

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 咲き乱れる桜。小笠原で桜の見ごろは1月下旬ごろ。沖縄同様、南国の桜はソメイヨシノではなくヒカンザクラである。父島では農業センターにあるサクラがきれいで見ごたえがある。満開時期は毎年最大で二週間くらい前後するため、気づいたらすでに散ってましたということも。  「桜咲く」とは、この島では合格おめでとうではなく、インフルエンザ流行注意という意味だと、小笠原に来てから私は勝手に思っている。

【コラムコンセプト】
 僻地や離島の薬剤師業務って、給料は高いだろうけど、周りに何にもない不便な所で大変そうなイメージがある。それに不便な地で「生活」もしていかなければいけないから結構な覚悟が必要そうだ。......けど実際のところはどうなの?そんな興味と疑問を併せ持つ薬剤師のために、日本で最も行きにくい離島で働く薬剤師が送るコラム連載。良い面悪い面全てを含め、離島におけるありのままの薬剤師業務や生活を、面白おかしくお伝えしていけたらと考える。堅苦しい薬の記事の合間にここを読めば、「私は都会でないと無理だ...」と思っている人も、(保証はできないが)案外すんなり僻地でもやっていけるかもしれない。

【小西良典氏 プロフィール】cfe16ed4007e8fd8d26248d6a2afad043c7a3e9f.jpg
 大学卒業後薬学部ではなく理学部の大学院に進学。博士課程を中退。その後、ドラッグストアなどで働きながら全国を旅する生活を続けて8年あまりのある日、旅行先の小笠原村が薬剤師を募集していることを知り、勢いで出願。見事採用され、以後、父島の診療所に勤務。旅行経験から、全国どこの街でも道に迷わない自信がある。趣味は工作、パソコン、料理、ロシア語など多数。最近は、毎日録画をしている昼の映画や海外ドラマを片付けるだけで週末が終わっていく。

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