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小笠原のおいしい話

2016年12月28日 07:30

人が暮らし始めて200年 
郷土料理といえるものはないが

 今回は、ちょっと医療事情から離れて、小笠原の郷土料理のようなものの一部を紹介します。そう言いつつ、実は、小笠原には沖縄のような伝統的な郷土料理というものはありません。というのは、小笠原諸島に人が住み始めて、まだ200年ほどしか経っていないからです。しかも最初に住み着いたのは日本人ではなく、ハワイ人や欧米人。ここにいると、普通の寿司など、和食が恋しくなります。

 その中で、あまり島の外では見かけない料理があります。島寿司とウミガメ料理です。日本でもウミガメを食べる地域は、小笠原くらいではないでしょうか。

目次

1. 島寿司 秘密はネタとシャリの間に......

2. ウミガメの肉は臭い?臭くない?

3. 小笠原のレモンは丸い! トマトは12月が旬!?

島寿司の秘密はネタとシャリの間に

 まず島寿司ですが、普通の寿司とは少々趣が異なります。確かに、シャリの上にネタがのっているのは、普通の寿司と変わりません。その大きな違いは、ネタとシャリの間にあります。山葵ではなく、からしがはいっています。遠隔地の小笠原では、昔は山葵が手に入らなかったらしく、代わりにからしを入れたそうです。また、ネタもたれに漬けてあり、特に醤油などをつけず、そのまま食べます。ネタにはサワラなどが使われ、家庭でもよく作られています。店や家庭によって、づけだれの濃さや漬け方などが異なるようです。

 この島寿司は飲食店で食べられるほか、弁当でも売っているため、私も忙しい時や料理が面倒な時の昼食に食べることがあります(しかし、昼休憩時間がずれる場合が多く、すでに売り切れている場合が多いです......)。

 島寿司は八丈島が発祥なようで、小笠原や南大東島などへ、八丈島からの移住者が伝えたようです。

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島寿司(ネタが入手できなかったので作れず、弁当の写真)。ネタはサワラが多い。ネタは醤油やみりんなどで作ったたれに漬けこんで、味をしみこませてからにぎる。そしてネタとシャリの間には山葵ではなく、からしを塗る。寿司とからしも意外と合う。弁当の揚げ物がどうも苦手な私には、弁当と言えば島寿司なのである。ちなみに父島には島寿司の店もある。魚介類では他に、メカジキやアカバなどが、よく料理に使われる。また、小笠原ではイカとは買うものではなく釣るものである。

ウミガメの肉は臭い?臭くない?

 そしてウミガメです。小笠原のような超遠隔離島には、大型の動物などもおらず、昔からウミガメが貴重な蛋白源となっていました。ウミガメは貴重な生き物であり、小笠原(東京都)では年間の捕獲上限数が決められていて、捕れる時期も決まっています。捕ったウミガメ肉は冷凍保存してあり、島内の飲食店で年中食べられます。

 そんなウミガメの代表的料理と言えば「刺身」と「亀煮込み」です。煮込みは亀の肉だけでなく、脂肪組織や内臓の一部も合わせて煮込みます。――と書けば簡単そうに見えますが、これもまた、各家庭で作り方が異なるようです。亀肉は高いので(1kgで3000円近くします)、私自身は普段は買いませんが、誰かから分けてもらった場合に料理します。ウミガメは海藻を食べるので、臭いがそれほど強くないほうである――と言われていますが、私が食べた感覚ではやはり、肉には独特の臭みがあり、好き嫌いの分かれるところだと思います。臭みが苦手な場合は、カレーの具材にしてしまうという手があります(レトルトの亀カレーはお土産品で存在します)。刺身は生姜醤油で食べると、不思議なことに肉の臭みはほとんど気になりません。

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亀煮込み(私が作ったもの)。亀の肉や内臓などを、料理酒で煮込む(酒で煮込めば臭みは少し取れる)。一時間ほど煮込んで筋がやわらかくなったら、塩や醤油で味を調えて出来上がり。私の場合は玉ねぎなどを入れる。野菜も都内ほど自由に手に入らない環境で、独身一人暮らしとなれば、こうして少しでも工夫をしないと、すぐに野菜不足になってしまう。ちなみに亀肉はいただき物。肉は唐揚げに使ってしまったので、この煮込みは内臓部を主に使用。何故か脂肪組織が多く入っていて、随分とお腹いっぱいになった。

丸いレモンに12月が旬のトマト!

 野菜や果物などはほとんどが、人が島の外から持ち込んだものですが、あまりよそでは見かけないものもあります。南国らしい果物といえば、青パパイヤやドラゴンフルーツなどがあります。島の定番の野菜のなかで個人的に好きなのは空芯菜とシカクマメです。空芯菜は、父島での入手は難しいので、母島への出張時にはお土産で買ってきます。シカクマメは夏場に、島内の農協やスーパーで売ってますが、自宅で栽培したこともあります。シカクマメは天ぷら、空芯菜はオイスターソースで炒めるのが、一番おいしいと思います。

 普通に都内で買えるような野菜や果物でも、小笠原で買えるものは少し味や趣が違うものもあります。例えばレモン。島レモンは形が球状でグレープフルーツなどに近いです。トマトも母島のものは甘くておいしく、お土産にすると喜ばれます。12月だとレモンの収穫時期がほぼ終わり、ちょうどトマトが旬になります。

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小笠原食材。島野菜の代表である、空芯菜とシカクマメ。画質があまりよくないが、包丁とくらべれば、だいたい大きさはイメージできると思う。小笠原の食材を使った料理は色々あるが、シカクマメの天ぷらが一番おいしいのではないか、などと考えてるのは、私だけではないと思う。空芯菜は母島のダム周辺に植えられていて、前日のうちに支庁に言えば、取ってきてくれることもある(1束100円)。他にもここには紹介していないが、ドラゴンフルーツやパッションフルーツなど、あまり見かけないものが多いので、来島時は農協の直売所を覗いてみるとよいと思う。

 小笠原では、朝夕2食付きで、島食材を出してくれる宿が多いので、飲食店だけでなく宿でも地元の料理を味わうことができます。小笠原に観光で来た場合、地元の文化に触れるという意味でも、島寿司とウミガメ料理に一度挑戦してみてはいかがでしょうか。ただし、希少部位である亀の刺身は、春から夏にかけてしか食べられないことが多いので日程調整をぬかりなく・・・。

【コラムコンセプト】
 僻地や離島の薬剤師業務って、給料は高いだろうけど、周りに何にもない不便な所で大変そうなイメージがある。それに不便な地で「生活」もしていかなければいけないから結構な覚悟が必要そうだ。......けど実際のところはどうなの?そんな興味と疑問を併せ持つ薬剤師のために、日本で最も行きにくい離島で働く薬剤師が送るコラム連載。良い面悪い面全てを含め、離島におけるありのままの薬剤師業務や生活を、面白おかしくお伝えしていけたらと考える。堅苦しい薬の記事の合間にここを読めば、「私は都会でないと無理だ...」と思っている人も、(保証はできないが)案外すんなり僻地でもやっていけるかもしれない。

【小西良典氏 プロフィール】cfe16ed4007e8fd8d26248d6a2afad043c7a3e9f.jpg
 大学卒業後薬学部ではなく理学部の大学院に進学。博士課程を中退。その後、ドラッグストアなどで働きながら全国を旅する生活を続けて8年あまりのある日、旅行先の小笠原村が薬剤師を募集していることを知り、勢いで出願。見事採用され、以後、父島の診療所に勤務。旅行経験から、全国どこの街でも道に迷わない自信がある。趣味は工作、パソコン、料理、ロシア語など多数。最近は、毎日録画をしている昼の映画や海外ドラマを片付けるだけで週末が終わっていく。

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