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「忙しい年末年始」? 否、やばいのは「ドック期間」

2017年01月16日 07:30

忙しい年末年始、小笠原も観光客が増えて忙しくなります。年末最後の小笠原行きと、年始最初の東京行き便は混雑し、例年、発売からほどなく満席になります。年末年始やゴールデンウィーク、お盆など多客期間のおがさわら丸の切符は、2カ月ほど前の特定の日の朝9時に一斉発売となりますが、この「特定の日」というのが平日であることが多く、長期休暇を小笠原で過ごそうと思うと、まず切符の手配に難儀することになります。

目次

1. 1月1日、海開き

2. 1月下旬、来るぞ「ドック期間」

3. ドック期間直前のスーパーは大混雑

4. 共勝丸--おがさわら丸不在期間の救世主

5. 検査キットやインスリン注射は運んでくれない

11日、海開き

さて、今回は冬の小笠原諸島の様子です。12月を過ぎるとさすがに半袖1枚では寒くなってきますが、「冬物」はいりません。そんな小笠原では、なんと元旦が海開き。私は年末年始は上京休暇となるので、経験したことはないのですが、海の安全を祈願した神事のほか、ちょっとしたお祭りが開催され、元旦に泳いだ人には初泳ぎ証明書なるものも発行されるようです。海開きとはいえ、1月の水温は1年で最も低く20℃前後。冬でも海で泳いでいる猛者がいますが、クジラにはちょっと早いこの時期は、山歩きが一番いい過ごし方な気がします。

1月下旬、来るぞ「ドック期間」

冬の診療所は、12月中旬ごろが忙しくなります。特に、普段30日くらいの処方日数が、この時期だけ60日になったりします。当然、薬が出ていく量も増えるため、在庫管理に注意が必要です。年末年始は5日間程度、外来がなく、定期受診の人は来ません。しかし、年末年始の繁忙期を乗り切ればよいというわけではありません。1月下旬には「ドック期間」という、薬剤部にも島民にも厄介なイベントが待ち構えているのです。

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小笠原名物、盛大なお見送り。出港してからも多数の「お見送り船」がおがさわら丸についてきて、大手を振ってお見送り。お見送り船から海中に飛び込む人も。掛け声はまた来てほしいという願いをこめて、「さようなら」ではなく「いってらっしゃい」。 岸壁を離れた瞬間、全てから解放される...と思いきや、薬剤師の上京休暇は期限切れ廃棄になる麻薬と抱き合わせになる場合が多い。竹芝到着後にその足で麻薬や書類を持って都庁へ行くことになるのだが、余韻に浸る観光客を尻目に、それまではなんとも落ち着かない気分で船内を過ごすことになる。

ドック期間直前のスーパーは大混雑

おがさわら丸は年に1回、1月下旬からドック入りし、各種整備や点検を行います。ドック期間、つまりドックに入っている約3週間は、おがさわら丸の運航はありません。おがさわら丸が来ないということは、すなわち「3週間、物資は届かない」わけです。ドック前の最後のおがさわら丸の入港日のスーパーは、大混雑となり、内地では想像もつかない光景が見られます。買い物かごが全て客に使われている。レジに並ぶ客の列は店の外まで続く。さらに、そのレジは約50分待ち。店内は身動きが取れないくらい人がいっぱいで、商品には手が届かない。――診療所のスタッフも、急患などがいなければ、この日だけはみんな定時で帰ってスーパーに直行です。

私はごった返しているお店に仕事後に行くのはしんどいので、これを見越して、年末年始休暇明けの東京出航当日の朝、都内のスーパーで生鮮品を買いだめして、チルドで小笠原の自宅へ送ります。送った生鮮品は、ドック前最終便で受け取れるように手配します。

共勝丸――おがさわら丸不在期間の救世主

正確にはドック期間中に何も届かないわけではありません。小笠原にはおがさわら丸だけでなく、不定期の貨物船、共勝丸も就航していて、燃料や危険物、建材、産業廃棄物など、おがさわら丸に積めないものを主に運搬しています(月に3回程度来ます)。このドック期間に限り、共勝丸は生鮮品などを多少届けてくれるほか、ゆうパックを含めた郵便物を運びます。

私が注文した薬や院外処方薬をゆうパックで送ってもらうようにしているのは、ドック期間のためと言っても過言ではありません。普通の宅配便では、ドック明けまで届かないため、下手すれば受診から薬の受け取りまで、1カ月近くもかかってしまう可能性があるのです。

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おがさわら丸の運航がないドック期間、共勝丸(写真右)は運航していて、期間中1回は小笠原へやってくる。東京から小笠原まで3日間かけて来る上、海況の影響を受けやすいので、冬場の父島入港は予定より遅れる場合が多い。また、冷蔵ができないので、到着が遅れると、生鮮品の鮮度が落ちているようなことも。  共勝丸は、以前は旅客営業もしていたそうだが(定員は12名くらい)、現在は貨物のみ。船が小さいからか、乗った人の体験談では冬場は特に「よく揺れる」らしく、船が苦手な人にはつらいかもしれない。「頑張ろう宮城」という標語が見えるが、これは共勝丸の本社が宮城県石巻市にあるからだと思われる。また、おがさわら丸と同時にドック入りするははじま丸の代船としては「ゆり丸」がやってくる。

検査キットやインスリン注射は運んでくれない

ただし、共勝丸は小型の船で不定期です。特に冬場は海が荒れることが多いため、数日(長い場合では1週間)遅れることがほとんどです。ドック期間の3週間のどこかで1回来るような感じです。ドック期間には、共勝丸の運航スケジュールを朝一番でチェックします。変更があればその都度、診療所のスタッフに報告します。在庫の少ない薬は同時に周知しますが、ここ2年は、準備のコツを習得できたのか、極端に足りなくなって困ったというような経験はありません。

共勝丸はチルド品の扱いはないので、検査キットやインスリン注射、座薬などはドック明けまで受け取ることはできません。経験上、12月初旬の段階で、年末年始ドック期間用に在庫を増やしておいて、ドック明けまでその在庫量を維持する要領で管理すれば、うまく乗り切れる場合が多かったです。超遠隔離島の小笠原では、こういった「内地では考えられない苦労」もあるわけです。

【コラムコンセプト】
僻地や離島の薬剤師業務って、給料は高いだろうけど、周りに何にもない不便な所で大変そうなイメージがある。それに不便な地で「生活」もしていかなければいけないから結構な覚悟が必要そうだ。......けど実際のところはどうなの?そんな興味と疑問を併せ持つ薬剤師のために、日本で最も行きにくい離島で働く薬剤師が送るコラム連載。良い面悪い面全てを含め、離島におけるありのままの薬剤師業務や生活を、面白おかしくお伝えしていけたらと考える。堅苦しい薬の記事の合間にここを読めば、「私は都会でないと無理だ...」と思っている人も、(保証はできないが)案外すんなり僻地でもやっていけるかもしれない。

【小西良典氏 プロフィール】cfe16ed4007e8fd8d26248d6a2afad043c7a3e9f.jpg
大学卒業後薬学部ではなく理学部の大学院に進学。博士課程を中退。その後、ドラッグストアなどで働きながら全国を旅する生活を続けて8年あまりのある日、旅行先の小笠原村が薬剤師を募集していることを知り、勢いで出願。見事採用され、以後、父島の診療所に勤務。旅行経験から、全国どこの街でも道に迷わない自信がある。趣味は工作、パソコン、料理、ロシア語など多数。最近は、毎日録画をしている昼の映画や海外ドラマを片付けるだけで週末が終わっていく。

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