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連休こわい〜ぶあつい薬歴いっぱいこわい

2017年01月24日 08:30

年が明けてカレンダーをよく見たら、今年は土曜に祝日がかぶっている週が多くて損をした気分だ、というツイートを見かけた。

勤務先の薬局は、門前の医院の休診日に合わせて木曜が休み。そこさえかぶらなければ損はしない。金曜が祝日だと木金が連休になり、土曜に仕事に行ったらまたすぐ日曜で休みになるからなおうれしい。

だが、年末年始は別だ。去年の12月は、22日が木曜休診日、23日の金曜が天皇誕生日で連休になった。正月休みの前に早めに薬をもらっておこうという患者さんや、風邪や嘔吐・下痢の患者さんが押し寄せる時期だから、休み明けは輪をかけて忙しくなるだろうと思われた。

連休明け24日の土曜。やっぱり予想を上回る混雑ぶりだった。処方箋を持った患者さんが途切れることなくやってくる。錠剤を拾い、粉をまき、シロップを測り、目薬や軟膏を取り揃え、監査する。プリンターの排出口にどっさり溜まった薬袋や薬情を、必死になって患者さんごとのカゴに振り分ける。錠剤シートの払い出しや散剤の調剤ができるロボットも実用化されているようだが、印刷物をカゴに振り分けしてくれるロボットはないのだろうか?次々にやってくる処方箋を脇目も振らずひたすらさばき続け、ようやく最後の患者さんが帰ったのは夜の7時すぎだった。

......午後に来た患者さんの薬歴は1枚も書けていなかった。

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処方箋コピーの余白にメモ書きした紙が、ぶあつい束になって積み重なっている。何十人分あるのか恐ろしくて数える気にもなれない。数えたら、やる気が折れてしまう。

それでも普段なら、全部書いてから帰るところだ。けれど、その日は土曜日恒例・夫の実家で夕食をいただく日で、しかもクリスマスイブだ。夫と、子供と、夫の御両親さまが、ご馳走を目の前にして私が帰ってくるのを待っている。これ以上帰宅を遅らせる決断はできない。結局、山盛りの薬歴は手つかずのまま帰ることにした。

思えば独身の頃は――かれこれ十ウン年以上も前だが――自分の都合で残業ができていた。薬歴書きで帰宅が8時や9時になっても、誰に迷惑をかけることもなかった。だが、母親という立場になってしまうと、そうはいかない。

「家で子供が待っている」という状況。待つ相手がお父さんであれば、「仕事で遅いから"待っている"」。だが、お母さんでは違う。「本来、家族の面倒をみるべき母親が、その家族を仕事のせいで"待たせている"」状況になる。"待たせている"ぶんだけ、母親の方が、家族にすまないような気がしてしまうのは、考えすぎだろうか。

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翌朝、家事の合間にちょこっとツイッターをのぞくと、他の薬剤師フォロワーさんたちも大変だったようで、土曜夜の時点で「薬歴が○○人分残ってる」というつぶやきがいくつもあった。どこも同じだ......と思いながらタイムラインを読み飛ばしていると、ある薬剤師フォロワーさんのツイートに目が止まった。

「日曜だけど出勤して薬歴書いてる」

その手があった!
うらやましい、私も薬歴書きに行きたい、とすら思った。

だって週明けも絶対忙しいんだし、これ以上薬歴が溜まったらどうしようもない。書くペースよりも患者さんが来るペースが早ければ、薬歴は増える一方だ。昨日みたいに閉局するまで書く時間すらない恐れもある。

『薬歴未記載』という言葉が重くのしかかる。それだけは避けたい。でも、さすがに今から職場に出て行くのは......。

掃除、洗濯、買い出しに、料理だってしなきゃいけないし、年末年始の準備もある。薬剤師としてやるべき仕事と、家庭でなすべき役割とが、頭の中でぐるぐる回る。働く親にとって、休日は100%自由な時間ではない。家庭や子供のために多くの時間が費やされ、ようやく余った時間をさらに仕事のために費やさねばならないのは、心身ともにとても厳しい。とは言うものの......。スーパーで食料品と正月用品を買い込み、帰りの車の中で年末までの出勤表を頭に思い浮かべる。

――ええいもう、本当にどうしようもなかったら、29日の木曜に休日出勤して書くしかない!

やけくそで、そう決意した。

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だが、幸い27日あたりから患者さんの数は急激に減り始め、休日出勤するまでもなく薬歴書きは片付いたのだった......。

それにしても、「休日出勤できるのがうらやましい」なんて、自分でもおかしな心理だと思う。家族を気にせず身軽に動くことができない、という状況が私にそう思わせたのだろう。仕事量があらかじめ分かっていれば、事前に家事などの段取りをしておいて出勤する方法もなくはない。そのときどきで、周囲の協力を得ながら、あるいは頭を下げながらやっていくしかないのだろう。甘えかもしれないが......。

とはいえ、落語ではないのだから、まんじゅうではなく山のような薬歴書きに追われるのは勘弁してもらいたいものだ。

......と、熱いお茶をすすりながらこのコラムを書いている。

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【コラムコンセプト】
仕事に家事に育児と、目まぐるしい日々を送る母親薬剤師。新薬や疾病の勉強もしなきゃいけないが、家のことだっておろそかにできない。追い立てられるように慌ただしい毎日だ。そんな中で、ふと立ち止まり、考える。「働く母親って、どうしてこんなにいろんなものを抱え込んでしまっているんだろう?」「薬剤師の業務って、どうしてこんなふうなんだろう?」忙しさに紛れて気付けずにいる感情に気付いたら、働く母親に見える景色はきっといくらか変わるだろう。日常の業務に埋もれたままの何かを言葉にできたなら、薬剤師を取り巻く世界も少しずつ変えていけるだろうか。


【へたれ薬剤師Kiko プロフィール】Hetare_kiko_columm.png

卒後9年間病院勤務ののち、結婚を機に夫の地元で調剤薬局に転職。産休育休を経て、現在は中規模チェーン薬局にフルタイムで勤務。アラフォー。8歳の息子、夫(not薬剤師)と3人暮らし。食事は手抜き。洗濯は週3回。掃除はルンバにおまかせ。どういうわけだか「コトバ」に異様にこだわる。座右の銘は「モノも言いようで門松が立つ」。(Twitter:@hetareyakiko)

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