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親の介護と心の闇

2017年01月30日 08:30

北海道大学病院 婦人科 小林範子

最近、患者や友人との会話で、「親の介護」というキーワードが登場することが増えた。いよいよ自分もそういう年代になってきたかと、一抹の寂しさを感じる。一口に親の介護といっても、脳梗塞後の半身麻痺、転倒・骨折、認知症・・・状況はさまざまである。

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50歳のYさん。更年期症状で一時期メンタルを病んだこともあったが、その後はエチゾラム0.5mg錠をたまに服用する程度で、落ち着いて暮らしていた。服用すると、すぐにスーッと穏やかな気分になる。Yさんにとって、エチゾラムは神頼み的な大切なお守りで、いつも持ち歩いていた。

ある外来受診日。

Yさんは疲れきった表情で、口数も少ない。一見して、抑うつ状態が疑われた。原因は両親の介護である。両親はともに80歳代で、認知症が短期間のうちに進行してきているという。一人っ子のYさんは、両親への愛情も責任感も強く、両親の面倒を1人で背負うことになった。

表情がさえないYさんに、気持ちを回復するため抗うつ薬や神経系薬を定期内服しては、と勧めてみたが、この日は薬剤を一切希望されなかった。話を聞いてもらってスッキリしました、何とか乗り切ってみます、と最後は明るく帰宅された。

しかし・・・

2カ月後、外来にYさんから電話がかかってきた。週末に救急車で当番医へ搬送されたというのだ。状況を尋ねてみると、原因は認知症の実母であった。実母の「物盗られ妄想」が目に見えてひどくなってきていたが、この日も朝から執拗に責められ続けた。どうしようもなくつらくなり、訳が分からなくなって、発作的に手持ちのエチゾラムを全部一気飲みしてしまった、というのだ。幸い、このとき服用したエチゾラムは9錠であり、翌朝まで完全に記憶を喪失しただけで、順調に回復した。

Yさんの性格は、とにかく几帳面で真面目、誠実で人当たりがよい。今回の件については、自分の行為が正しいことではなかったという意識をしっかり持っており、「希死念慮」があったわけでもない。

ただ、一生懸命に尽くしていても両親の認知症は進み、人格が崩壊していくのを目の当たりにする。十分すぎるほどショックな現実に気持ちが追い付かない中、愛する実母から暴言を吐かれ、泥棒呼ばわりをされる。それでも、親戚には決して迷惑はかけられない、自分の親だものと、悲しみも苦しみも1人で全てを抱え込んでしまっていたようだ。

電話越しに、途中からオイオイと泣きだしたYさん。精神状態から、すぐに専門医へ紹介受診とした。カウンセリングと薬物治療が開始になった。

介護問題でストレスに耐え続けているうちに、心の闇は深くなり、心身の変調を来す。相談を受けるたび、確かに薬物治療も大事だが、少しでも気持ちに寄り添い、力になれることはないかと、身に染みて考えさせられます。

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