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みんなで考えるポリファーマシー ―1

青島周一氏が伝えるポリファーマシーとEBM

2017年02月07日 12:15

 ポリファーマシーやEBM(evidence based medicine)に共通することは、「ポリファーマシーは悪」、「EBMでは治療においてエビデンスが最優先される」のように、誤解をもったまま広まっているという点だろう。そんな中、ポリファーマシーやEBMについて発信を続けている青島周一氏と名郷直樹氏によるワークショップが開催されると知り、取材した。

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【ワークショップ概要】

みんなで考えるポリファーマシー

日時:2016年12月18日(日) 12:30~17:30

講師:医療法人社団 徳仁会 中野病院 青島周一
    武蔵国分寺公園クリニック 名郷直樹

会場:東京都千代田区神田駿河台2-1-4 ヒルクレスト御茶ノ水4F 薬学ゼミナール お茶の水教室他、全国7会場へライブ配信

主催:一般社団法人 薬学ゼミナール生涯学習センター     

この記事でわかること

ポリファーマシーに介入する意義とは・・・

薬を減らすことが目的ではなく、エビデンスから薬の必要性を検討して、個々の患者の価値観に寄り添って、患者の幸せを考えること

EBMとは・・・

論文的な科学的根拠にプラスして、患者の環境、患者の価値観、医療者の臨床経験を総合して臨床判断を行う方法

薬剤師ができることとは・・・

薬物治療のリスク・ベネフィットについて、エビデンスを踏まえた上で自分なりの意見を持つこと。その意見を医師や患者と共有し、患者個々の治療に反映させること

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青島周一氏

本当に薬を減らせば良い?

 ポリファーマシーに明確な定義はないが、疫学的な研究や論文を見ていくと、5剤以上と定義されていることが多い。早速、青島氏は1つの症例を呈示した。

症例

84 歳の女性。現病歴は高血圧、糖尿病、不眠症、逆流性食道炎。収縮期血圧は150~160mmHg、HbA1cは7.5%

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 全てヒートで調剤されている。この日はレバミピドが在庫切れで、患者には在庫入荷後に自宅へ届けると伝えた。後日患者宅へ行くと、「実は薬が飲めていない」と相談を受け、自宅に大量の残薬を発見、朝食後を中心に服用できていない様子であった。一包化やお薬カレンダーを活用して服薬支援を行い、血圧120~130mmHg、HbA1cも6.0%まで下がり、残薬もなくなったという。こうしてみると、よい介入ができたと誰しも直感的に思うのではないだろうか。

 ただ、「本当に患者が幸せになれたのかを考える必要がある」と青島氏は付け加える。例えば50歳以上ではHbA1cが7.5%で一番死亡が少なく、6.0~6.5%では死亡が増えたとする研究1)や、80歳代高齢者の家庭血圧は、150mmHg前後で5 年以内の心血管イベントのリスクが小さい2)といった研究データ。これらの結果が因果関係そのものを示しているわけではないが、少なくとも血圧や血糖値を下げればいい、という問題ではないことが分かる。血圧や血糖値は確かに重要な指標だが、薬物治療を考える側面の1つにすぎないのではないか、と同氏は問いかけた。

 厳格な血糖コントロールが有用かどうかについては、ACCORD試験が有名だ。2型糖尿病の患者約1万人を対象にしたランダム化比較試験で、HbA1cで6.0%未満を目指す治療をすると、7.0~7.9%を目指す治療に比べて、複合心血管イベントは少ない傾向にあるものの(統計的有意差はない)、死亡リスクが22%上昇し、研究自体が早期中止となった3)。血糖値を下げることだけを考えていると、こういった視点が失われてしまう。高齢者の糖尿病治療では、高齢者の厳格血糖コントロールは、低血糖リスク、転倒、認知機能障害、死亡リスクの増加を招く4)ことや、65歳以上の高齢者ではHbA1cが7.5%を下回るかもしくは、9%を超えると、ベネフィットよりもリスクが上回る5)ことが示唆されている。

薬剤の適切性、不適切性を考える

 ポリファーマシーの影響として分かりやすいのが、副作用や相互作用リスクの増加だろう。副作用症状を抑えるために、さらに薬を使うこともある。潜在的に不適切に使われている薬剤も増えていく。飲み方も複雑化し、服用できない患者も増える。

 一方、たくさん薬があって安心だと言う患者がいるように、ポリファーマシーが患者満足度に繋がっていることがあるという視点は見失わない方がよいと青島氏は述べる。薬物治療の中止を妨げる要因として、患者の薬への過度な期待や薬をやめることの恐怖があり、医療者としては、ガイドラインの基準値を目指さないといけないという気持ちがある。患者の「安心」、医療者の「善意」「早く治す」「よりよい医療を」を重視していくと、ポリファーマシーになりやすいのである。

 薬剤を将来的な合併症を予防するための薬剤(予防的薬剤)と今現在発生している症状を緩和するための薬剤(対症的薬剤)に分けることは、ポリファーマシーを考える上で意味があるという。薬物治療中止による影響で違いが見られるためだ。予防的薬剤を中止しても、患者の状態にもよるが、実感できる体の変化はほとんどない。影響が出やすいのは対症的薬剤で、対症的薬剤を中止する際は、しっかりとその薬剤がもたらすリスクを定量的に評価し、薬剤の適切性、不適切性を判断しなければならない。

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 薬剤が適切かどうかを客観的に判断するには、クライテリアというツールがある。日本でよく紹介されているのはBeersクライテリア、STOPP/STARTクライテリア、日本老年学会が策定している「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン」の3つで、具体的な薬剤名とその概要のリストが記載されており、これにより適切/不適切を評価できる。ただ、クライテリアの限界は示唆されており、施設高齢者359人を対象にしたランダム化比較試験で、薬剤師がクライテリアに基づいて主治医に処方提案、介入を行った群と標準ケアを行った結果、介入すると薬剤数や薬剤コストは減るのだが、転倒や入院、QOLスコアには統計的有意差がなかったという6)。クライテリアだけでは不適切性の程度、定量的なところはわからない。患者個別に、薬物治療のリスク・ベネフィットをエビデンスにより定量的に評価していくのが大切なのでは、と青島氏は述べた。

 薬剤師による処方提案の最初のステップとして、薬物治療に対する患者の価値観と医師の治療方針の価値観を把握することが大切である。病院はカルテで医師の治療方針を把握できる。薬局の立場だとなかなか難しいが、短いスパンで医師とコミュニケーションを取るようにしてほしい。次のステップで、クライテリアも活用しつつ処方薬剤を予防的薬剤、対症的薬剤に分け、エビデンスを整理し、処方提案を行うと青島氏は述べた。

EBMの実践で個々の患者に寄り添う

 「医師と連携するためにEBMの実践は不可欠」と青島氏は述べる。よく誤解されるが、EBMはエビデンスだけではない。患者を取り巻く環境、患者の価値観、薬剤師や医師の臨床経験を踏まえて、総合的な判断を行っていく方法論である。文献を提示する方法は、「エビデンスの押しつけ」「医師の不勉強を指摘しているようで反感を買う」といった批判的な意見があるが、医師と薬剤師、患者の価値観は異なって当然であるという。こういった価値観の対立の解消のため、(1)自分の関心を自分で自覚する、自分の関心を相手に自覚させる、(2)自分の関心を客観的に見て相対化、俯瞰する、(3)価値観を否定し合うのではなく、納得できる共通目標を見出す─という3つのステップがある7)

 ポリファーマシーというと、薬を減らす、有害事象リスクを減らす、医療費削減といった目的もあるのかもしれないが、それだけに関心が向くと患者の将来的な合併症、死亡リスクが上がってしまうかもしれない。投与を考慮すべき薬剤が投与されず(アンダーユーズ)、入院や死亡リスクが増加するという視点が失われがちだ。薬にはリスクとベネフィットがあり、そのバランスを考えることこそが肝要である。またエビデンスを踏まえることで、むしろ患者の価値観に沿える可能性が高まるという。

 日本人を対象に冠動脈疾患へのプラバスタチンの効果を5.3 年にわたり検証したランダム化比較試験(MEGA Study)の結果、ハザード比0.67(95%CI 0.49~0.91)、p=0.01であった8)。これだけを見ると、冠動脈疾患は約30%抑制できるということである。しかし、NNTは119人/5.3年(プラバスタチンを5.3 年服用すると、119人のうち1人の冠動脈疾患を予防した)で、118人は無駄に飲んでいたと解釈することもできる。「薬が効く」という方向に関心があると、30%減ることに注目し、「飲まなくてもよいのでは」という方向に関心があると、118人が無駄に飲んでいることに注目するだろう。どちらも同じ結果を示しているが、統計データの見方・見せ方によって薬の効果は曖昧になってくる。そうすると、「薬を飲む」「飲まない」という選択肢の他に、「飲んでも飲まなくてもどちらでもいい」という価値判断を付け加えることができる。最終的に患者やその介護者がなんらかの希望を見いだせるような選択肢を提供することが大切で、薬剤効果の曖昧性に気付くことは、そういった選択肢を少しでも増やすことにつながる可能性がある。

 ポリファーマシーを『問題』ではなく『契機』として捉える。そのために薬物治療のリスク・ベネフィットについて、薬剤師として自分なりの意見を持つこと。その意見を医師や患者に押し付けるのではなく、医師、あるいは必要に応じて患者と共有することが大切で、それが医師と薬剤師のチーム医療なのではないか、と同氏は締めくくった。

 今回、ポリファーマシーの考え方やその考察などを交え、エビデンスを活用した上で患者に個別に対応する重要性が述べられた。グループワークでは患者個々の治療を考えていく上で、医師との連携などの課題が挙がった。参加者たちが課題を職場に持ち帰って、みんなで考えていくきっかけになったのではないだろうか。

 なお、本ワークショップはTwitterを用いながら、各地の参加者の意見をリアルタイムでチェックしたり、意見交換をする場面も見られた。ハッシュタグは#みんぽりで、参加者から実際に挙がった意見の一部を紹介する。

  • 薬を飲まそう、という意見と、くすり要らんわ、という意見がありますねぇ。
  • 薬飲んでなくてこの数値なら薬いらなんじゃない
  • 単純に 残薬あり→一包化 は要注意だよ。
  • 今日もネクタイ曲がってる!!(編注:もちろん、青島氏のネクタイです)
  • ネクタイ直す青島先生 でも、曲がったまま(^◇^;)
  • 問題の多くはクライテリア外って論文出てたのか。PMID:26249851 実体験上も似たような感じかな。
  • 予防的薬剤と対症的薬剤に分けて考えることだいじ!
  • 予防的薬剤を切るのは「将来、なんかあったらどうする?責任とれんのか?」で思考停止して終わることも(´;ω;`)
  • 今回のような勉強会を医師も含めて行い、薬剤師が困っていることを医師に伝え、逆に医師が薬剤師に対して求めていることを伝えてもらえばより建設的な議論ができるのではないか。他の医療従事者とも話し合う場ができればなお良いと思う。
  • 薬剤師の役割を、他の職種にもっと把握してもらう必要性もありそう。担当者会議に薬剤師だけ呼ばれないという事もあるらしい。
  • どんどんポリファーマシーに介入しようぜ!っていう講義を期待したようで、いい意味で裏切られたようです。

次回は名郷直樹氏の講演内容をレポート予定。

※NNT(number needed to treat)・・・死亡や病気の発症などのイベント発生を1 人減らすために、何人の患者を治療する必要があるか、という疫学の指標。例えば、NNTが100なら、1人の患者のイベント発生を減らすためには、100 人に治療を行うということになる。

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