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"実体験"から語る宇宙の医学的リスクと対策

古川宇宙飛行士が特別講演

2017年02月14日 08:00

 2011年に国際宇宙ステーション(ISS)に長期滞在した宇宙飛行士で、医師の資格も有する宇宙航空研究開発機構(JAXA)宇宙医学生物学研究グループ長の古川聡氏が第29回日本外科感染症学会(2016年11月30日~12月1日)で特別講演を行った。講演では、宇宙空間での身体リスクやISS内にある日本の実験棟「きぼう」で行われている宇宙医学研究などについて、自身の体験談も交えて説明した。

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多くの人材が支える「きぼう」「こうのとり」

 古川氏が2011年6〜11月に滞在したISSは地上から約400kmの高度に存在し、サッカー場程度の広さ(約108.5×72.8m)を有する宇宙研究の拠点であり、わが国以外に米国、カナダ、ロシア、欧州の一部の国など計15カ国が共同運用している。同氏は、このISS内につくられた日本の実験棟「きぼう」や、日本の宇宙貨物船「こうのとり」の概要を紹介し、「きぼう」では自身の滞在中にもさまざまな宇宙医学実験が実施されたことや、「こうのとり」がISSへの補給活動に貢献した点に触れた。両施設の円滑な運用を日夜支える多くのスタッフについても、「日ごろから起こりうるあらゆるトラブルを想定し厳しい訓練を積み重ねており、世界に通じる人材といえる」と評し、その重要性を強調した。

高品質の蛋白質結晶を生成し創薬に生かす

 古川氏は、「きぼう」で行われる宇宙医学実験のうち、高品質蛋白質の結晶生成実験()について説明した。無重力状態では高品質な蛋白質の結晶が生成できることから、この実験ではその結晶を分析して薬剤の反応部位を正確に把握し、より投与量が少なく、副作用リスクが低い薬剤の創出を目指していると述べた。具体的には、現在、筋ジストロフィーや歯周病菌などの生育に重要な酵素(構造解析を実施)などの研究が進められており、アルツハイマー病に関しては、生成した結晶から発症原因を探っているという。

図. 高品質蛋白質の結晶生成実験

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(古川聡氏提供)

無重力、宇宙放射線、精神・心理面で影響あり

 また、宇宙における身体のリスクについては、①無重力状態②宇宙放射線③精神・心理面-の観点から解説された。

 ①では骨量減少や筋萎縮が生じるとし、骨量は地上の骨粗鬆症患者の約10倍の速さで減少し、筋萎縮は宇宙滞在1日で寝たきり状態の約2日分、高齢者の約半年分に相当するという。その対策として、ISSでは週6日、1日2時間程度運動する時間を設け、宇宙滞在を終えて帰還した宇宙飛行士に対しても、綿密な運動プログラムが用意されている。

 無重力状態は他の器官や機能にも影響を及ぼし、前庭器官や心循環器、視機能に変化や乱れが発生し、頭がふらふらする宇宙酔い、顔が丸くなり、頭に血が上った感覚を覚える体液シフト、眼球扁平化や乳頭浮腫、脈絡膜ひだなども時に見られ、宇宙滞在後に血液を採取すると、リンパ球数やサイトカイン産生能の低下なども確認できるという。

 ②は1日の宇宙滞在で0.5〜1ミリシーベルト(mSv)被曝するが、地上での自然放射線被曝量が年間約2.4mSvであることを考えると非常に多く、防御策が望まれるとした。

 ③では危険と隣り合わせの宇宙で、異なる文化を持つ複数の国の乗組員がISSという閉鎖環境で活動することによる精神的ストレスが生じるため、EメールやIP電話などを用いた精神心理支援が実施されているとされた。

 これらの変化に加えて古川氏は、満腹感や尿意、便意なども地上と異なるとし、「胃の中に食物が入ってくる感覚はないのに空腹が満たされ、尿意や便意は突然感じる」と体験を語った。

宇宙と人類の距離は徐々に近く

 さらに古川氏は、2016年7〜10月にISSに滞在し、現在は地上でさまざまな活動に従事している大西卓哉宇宙飛行士や、2017年10月ごろにISSに搭乗予定で、古川氏同様医師の資格を持つ金井宣茂宇宙飛行士を紹介し、両者の活躍に期待を寄せた。一方、民間人の間でもほんの少しずつ宇宙旅行が広まりつつある点に触れ、講演を締めくくった。宇宙と人類の距離は徐々にではあるが縮まりつつあるといえるかもしれない。

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