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第18回 プレゼンだって「守」「破」「離」がある

帝京大学整形外科学教室 渡部欣忍

2017年02月28日 13:30

 長くこの連載を受け持ちました。ここまで、読んで下さった皆様に感謝致します。学会や研究会のプレゼンをもっと面白く分かりやすくできないかと、拙著『あなたのプレゼン 誰も聞いてませんよ!』(南江堂刊)を上梓したのが2014年4月でした。幸いにして多くの医師や研究者が読んで下さり、おおむね好評なご意見をいただきました。本職の整形外科では、上手く治らなかった骨折の治療を専門にしています。そのため、骨折関連の講演をする機会は多いのですが、最近は「プレゼンの話しをせよ」との依頼も増えました。

シンプルプレゼンを医学の世界で使うにはちょっとした工夫が必要

  米国では社内ミーティングでパワーポイントによるプレゼンテーションを好まない企業リーダーが増えてきたといわれています。シェリル・サンドバーグ氏(Facebook COO)やリード・ホフマン氏(LinkedIn)、ジェフ・ベゾス氏(Amazon)などが有名です。Amazonの会議では6ページの意見書を会議の前に全員で読み込むそうです。これら世界有数のIT企業ですらパワーポイントによるプレゼンが、いかにひどいものかということが分かりますね。この連載でも書きましたが、読むための資料と見せるためのプレゼン・スライドの混乱がこれらIT企業の会議でも生じていることが容易に想像できます。

  ガー・レイノルズ氏や、ナンシー・デュアルテ氏が推奨しているシンプルなスライドを用いたプレゼンテーションは素晴らしい。ただし、シンプルなスライドを用いたプレゼンの方法は、コンセプトを伝えるには有用ですが、そのまま学会や研究会での発表に持ち込むには、少し工夫が必要になると思います。この手法をどのように医学プレゼンに応用するのかが、拙著や本連載のメイン・コンセプトであったことは皆さん分かっていらっしゃると思います。ぜひ、皆さんも一度この手法を用いたプレゼンを研究発表で試してみてください。

プレゼンだって「守」「破」「離」をたどる

 職人の世界では、守・破・離ということがよく言われます。 外科系では徒弟制度が今でも続いています。どんなに教科書で勉強しても、手術や術後管理のキモは、一緒に治療に当たらないと分からないところがたくさんあります。なぜ、その治療法を選択するのか? なぜ、そんな手順で手術するのか? なぜ、術後の管理をそういうふうにするのか? などなど、最初は分からないこと満載です。もちろん、先人から伝えられたことの全てが正しいわけではありません。むしろ、間違った方法の方が多いかもしれません。しかし、徒弟制度の下では、先輩から言われたことをまずは頑なに「」ることが重要で、それが達成できて初めて新たな発見があるのも事実です。

  シンプルなスライドを用いたプレゼンテーションを医学研究の発表で用いることは、これまで頑なに守られてきた伝統的な学会・研究会での発表手法の原則を「」るものになると思います。シンプルなスライドを使用した学会発表は、今、少しはやってきているようです。皆さんいろいろ工夫をされて、小さな文字で埋め尽くされたスライドを使った発表が、少しずつ減ってきているように思います。ちょびっと誤解されている先生もおられますが(笑)。

  さて、何事も多くの人がこれは良いという気持ちになった場合には要注意です。そんなのは、たいていよろしくないものです。本当に素晴らしいものというのは、一定量の強い反発があって当然だからです。シンプルなスライドを用いた学会・研究会での発表も、やがて陳腐なものと感じる人がきっと増えてくるはずですし、やはり伝統的な文字中心のスライドの方が分かりやすいと揺れ戻しがあるかもしれません。また、これから数年、遅くても10年以内に学会や研究会でのプレゼンの様相は一変するに違いありません。それが、どのようなものなのかは、想像がつかないのですが。

  医師や研究者の方々が、この連載で示した方法から「」れて、より素晴らしいプレゼン手法を用いて学会・研究会で発表される日が来ることを楽しみにして、この連載を終わりたいと思います。ありがとうございました。

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