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みんなで考えるポリファーマシー ―2

全ての薬剤師がEBMの実践を

  • 2017年03月08日公開
  • (2017年03月22日更新)

 ポリファーマシーやEBM(evidence based medicine)に共通することは、「ポリファーマシーは悪」、「EBMでは治療においてエビデンスが最優先される」のように、誤解をもったまま広まっているという点だろう。今回は、青島周一氏の講演に続き、名郷直樹氏による講演内容をレポートする。

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【ワークショップ概要】

みんなで考えるポリファーマシー

日時:2016年12月18日(日) 12:30~17:30

講師:医療法人社団 徳仁会 中野病院 青島周一
    武蔵国分寺公園クリニック 名郷直樹

会場:東京都千代田区神田駿河台2-1-4 ヒルクレスト御茶ノ水4F 薬学ゼミナール お茶の水教室他、全国7会場へライブ配信

主催:一般社団法人 薬学ゼミナール生涯学習センター

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名郷直樹氏

※本稿では、論文の詳細までは紹介できません。必ず個々の論文をご参照ください。

医療従事者の情報源は医学論文

 冒頭で名郷氏は、医療従事者が参考にしている情報、さらにはその情報の解釈の仕方に問題があると指摘した。医師でさえGoogleなどを利用して患者に説明している時代で、患者との情報格差は明らかに縮まっているというのだ。プロが存在する意義として、もっと情報格差は大きくなるべきで、プロとして扱うべき情報は医学論文であると主張した。論文を読む際に、念頭に置くことはEBMの手法だ。個別の患者の問題を明らかにして、それについての情報収集を行い、その情報を鵜呑みにすることなく批判的吟味を加え、さらにもう1度個別の患者に戻って個別の医療を提供していこうというのがEBM実践のためのステップだ()。

表.EBM実践のための5つのステップ

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 問題の定式化には、PECO (Patient-どんな患者に、Exposure-どんな治療をすると、Comparison-どんな治療と比べて、Outcome- どうなるか)を用いる。これにより個別の患者に対する治療を検討し、それが最善だったかどうかを評価し、反省して次につなげていく。エビデンスの読み取り方、患者への生かし方を示すため、同氏は幾つかの論文を紹介した。

真のアウトカムを意識することがスタート

 最初に、真のアウトカムを意識する重要性が分かる論文として、2 型糖尿病の最初の大規模試験であるUGDP研究1)を挙げた。この研究では、トルブタミド投与群やインスリン投与群では、プラセボ群よりも血糖値をコントロールできたものの、死亡率でみると、インスリン投与群でもプラセボ群より死亡が多く、トルブタミド投与
群に至っては死亡率17.6%と、プラセボ群の3倍ほど心血管疾患死亡が多かった。

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 「糖尿病患者では血糖値やHbA1c といった代用のアウトカムではなく、糖尿病合併症、心血管疾患、死亡といった真のアウトカムを考えなければならない。『HbA1cが下がった』と喜んでいてはならないのだ。ところが、医療従事者は検査値にとらわれがちなので、真のアウトカムで評価することがEBMを実践するスタートであることを意識しておく必要がある」と、同氏は指摘した。

薬を追加すべきか、より厳格な治療をすべきか

 続いて、真のアウトカムを意識した上で、論文の結果を患者に生かす例を紹介した。ステロイドを吸入している喘息患者にLABAを追加するとどうなるか2)。Stempel DAらのランダム化比較試験の結果を見ると、下記のようになる。

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 成人患者でも、LABA 追加群の重症イベントが多いことがランダム化比較試験のメタ分析で示されている3)。Salpeter SRらによる結果を下記に示す。

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 以上の結果を踏まえて、同氏は「喘息の症状が落ち着いたら、なるべく早く単剤に変えた方がいいと考えている。実際、単剤に変えたらまた発作が起きて合剤に戻さないといけないことも多いが、それでも一度やめてみるべき。ステロイドとLABAの合剤を長期に服用している患者には、この論文のことを説明している。個々の患者で見ると、症状が軽い方がよいというのは確かにある。ただ、喘息患者は約1,000 万人いることから、その中で合剤を使用しているために重症な喘息イベントが2~3倍多く起きてしまったら、それこそ重要な問題である」と述べた。「薬をきちんと飲ませようとする医療従事者こそ間違っているのかもしれない。もし全ての薬剤師が、症状が落ち着いているのなら合剤よりもステロイド単剤に変えた方がよい、という論文があると患者に伝えれば、世の中が変わるだろう」とも付け加えた。

 さらに糖尿病患者において、血糖値を標準よりも厳格に管理する治療を行った場合の例が紹介された。ACCORD試験4)では、血糖値の厳格管理群で全死亡が増加したことや、ADVANCE試験5)において厳格管理群では腎症は減っているものの、心筋梗塞や全死亡に有意差が出なかった例などを紹介した。さらにメタ解析からは、P:2 型糖尿病患者に E:薬物での集中的な治療 C:標準的な治療と比べて O:網膜症、腎障害、心筋梗塞、脳卒中、死亡がどうなるか─の検討6)では、薬物治療をしても、糖尿病患者の寿命には有意差が出ないことが示されている(総死亡の相対リスク1.00、95%CI 0.92~1.08)。心血管イベントは約1割、網膜症は2割ほどリスクが下がることが示唆されたものの、重症の低血糖は2倍以上(相対リスク2.18、95%CI 1.53~3.11)であった。

論文の結果から、患者と一緒に治療方針を検討

 名郷氏は「ポリファーマシーの問題において、飲むべき薬と飲まないでいい薬を適正に考えなければならないという。しかし、エビデンスの根拠としての統計学的な有意差が、ごくわずかであることが多い。少なくとも、薬を飲む患者に期待できる効果を説明し、結果のグラフは見てもらいたい。その上で、薬を始めるかどうか、薬を追加するかどうか、厳格な治療をするかどうかを話し合って決めたい」と締めくくった。

 講演の後は質疑応答が行われた。参加者からの「医療・薬剤の報道に関して薬局で質問されるが、担当の先生に聞いてくださいとなってしまいがちで、対応に苦慮することがある」という意見に対し、同氏は「担当の医師は論文を読んでいないケースがある。やはりご自身で読んだ方がよい。私は医師に向けて長年話してきたが、論文を読んで処方を決める風潮にはなっていないと思う。むしろそのような役割を薬剤師が果たすべきである」と、薬剤師を激励した。

 他にも、いくつかの質疑応答の様子を紹介する。

質問:最後の方に患者と話し合って治療の方針を決めたいとあったが、「お任せしたい」という患者もいるかと思う。そういった患者の自己決定を導くために気を付けていることは?

名郷氏:自己決定は導かない。あくまで話し合って決めたい。多くの患者は自己決定できないから困っている。自己決定できる方は、私の守備範囲外。患者の大多数は、自分で決められないから来ている。そのような方に、「あなたが決めるですよ」と言ってもうまくいかないから、一緒に考えて決めましょうというスタンス。

質問:さらなるジェネリック(GE)の使用促進が言われているが、ものによっては効果がない、成分でこんな違いがあるなどと週刊誌で書かれていて、GEに変えてもいいかという患者への初回アンケートで「変えたくない」という方もいる。いまだに「副作用があると聞いた」という患者すらいる。多くの論文を見ている先生の立場から、さらにGEを普及させるアイデアがあれば教えてほしい。

名郷氏:例えば、第一選択はGEにするという制度にしてしまうのがいいのでは。オリジナルのメーカーもGEを出せばいい。ただ、効果をきちんと担保するためには、今の生物学的同等試験や溶出試験のレベルで本当にいいのかという議論はある。

質問:論文を読んでみると、確かなエビデンスがあるのに、薬価が安くなって消えていった良い薬はたくさんあると思う。制度を変えるしかないからどうしようもないが、先生がこれはもう一度売った方がいいなという薬があれば教えてほしい。

名郷氏:クロルタリドン(ハイグロトン)。バルサルタンが発売されたときに、ハイグロトンは発売中止になった。古くて評価が定まっている薬の薬価を適正に担保することをやるべきだと考える。

質問:薬を飲んでも死亡率は変わらないというデータを多く示されたが、例えば血圧の薬を飲まず脳卒中になったら、後遺症でADLが下がるという可能性もあるが、それをどう考慮すればよいか。

名郷氏:「薬を飲まなくて脳卒中になった」ということだけを取り上げるような思考はやめた方が良いというのが私の意見。副作用のこともあるし、「薬を飲まなくても脳卒中を起こさなかった」「薬を飲んでも起こしてしまった」など、全体を考えた上で決めるべき。

編注)UGDPのPECO表を差し替えました。

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