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お年寄りを歩かせましょう

―16時間は地球の引力に逆らう―

2017年03月14日 08:30

獨協医科大学越谷病院 こころの診療科 井原 裕

薬局のカウンターから見える風景は「日本の今」を映し出しています。処方箋を持ってくる患者さんには、お年寄りが増えました。2005年に日本の総人口は減り始めましたが、高齢者の方は2040年まで増え続け、75歳以上の長寿者は、今世紀半ばまで減ることはありません。このトレンドは、読者の皆さんが現役を引退するまで続きます。

「お待たせしてすみません。どうか、そちらの椅子におかけください」

そうお勧めする前に、ちょっと、歩く姿を見てあげてください。先月お越しになったときよりも、動作が遅くなっていないでしょうか。姿勢が悪くなっていないでしょうか。歩幅が小さくなっていないでしょうか。そう思ったら、ご本人、あるいは、付き添いのご家族にお尋ねください。

「日中はどんなふうにお過ごしです?昼間から布団に入って寝ているようなことは、ないでしょうか?」

高齢者にとって、最大の健康リスクは不活発な生活にあります。筋、骨は1日16時間程度、1G(地球の重力加速度)に逆らっていないと衰えるようにできています。高齢者の足腰が衰える原因は、加齢よりも、むしろ不活発な生活にあります。

この事実は、20世紀に入り、無重力状態で生活した宇宙飛行士が身をもって示してくれました。彼らは、宇宙での生活を終え、地上に帰還したとき、自力で立つことができませんでした。若い彼らですらこうなるわけで、1Gに抵抗する生活がいかに大切かを示しています。

一般に、ヒトの骨は、できては壊れ(骨形成と骨吸収)、を繰り返しています。1G負荷がかかる地上では、両者のバランスが取れていて、そんなに骨は衰えません。

しかし、宇宙では1Gがかからないため、骨形成が抑制される一方、骨吸収は促進され、全体として骨量が減少します。地上の骨量減少率は、60~70歳代で年間平均1~2%ですが、宇宙空間の場合、6カ月の滞在で約9%。つまり、骨は半年で9年分も老化してしまうのです。

筋肉もやせてしまいます。宇宙では、下腿三頭筋は毎日1%ずつ減少していきます。60歳以降の普通の人では1年1年間で約2%、寝たきり実験による筋減少量は1日0.5%ですから、宇宙での1日の筋変化は、高齢者の半年分、寝たきりの人の2日分に相当します(宇宙航空研究開発機構の大島博博士による)。

お年寄りの心身の衰えを最小限にとどめるためには、「地上にいながらにして無重力」の生活に陥らせないことです。したがって、重力に耐える時間を短くしてはなりません。

ヒトの自然な生活は、1日当たり7~8時間眠って、16~17時間活動するリズム。逆にいえば、1日16時間程度は1Gに抵抗しなければなりません。長時間、軟体動物のように横になっていると、急速に老化が進みます。

「昼間は横にならないようにしましょう」「日中は、毎日お散歩しましょう」

そうお勧めしてあげてください。

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