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『学問にススメ!......ない?!』

2017年03月29日 08:30

認定薬剤師取得のために会社がeラーニングの費用を出してくれることになった。ありがたいことである。

薬剤師として自己研鑽が不可欠なのは分かっているが、平日の夜や休日に家をあければ、ただでさえ滞りがちの家事にさらにしわ寄せが来る。母親薬剤師にとって、勤務時間外の講習会参加は非常に痛い。

その点、eラーニングなら自分の都合のいい時間帯に自宅で受講できる。長時間の講義でも、動画をいったん停止して、また時間ができたときに続きを見ることも可能だ。会社経由で申し込みをしてもらい、しばらくして受講用のIDとパスワードが送られてきた。

その夜、子供の寝かしつけと食器の片付けを済ませてから、早速自宅のパソコンで研修プロバイダーのサイトを見てみた。

「おお~!」

医療薬学、医薬品情報、在宅医療、患者接遇、ジェネリック、漢方、OTCなど、いろいろな分野の講義が用意されている。視聴時間は、2時間近いものから20分程度で終わるものまでさまざまだ。

試しに接遇に関する講義でも見てみようか、と『講義を視聴する』をクリックしてみた。

ところがいつまでたっても講義の動画が始まらない。

あれ?

他の講義もクリックしてみたが、やはりダメだ。

なんで?

FAQのページを見てみると......

『当サイトはWindows専用となっております。Macintoshなど他のOSをご使用の方は当講座を受講することができません』

ええ~?! なにそれ~?!

そう、我が家のパソコンはリンゴ信者の夫が選んだiMac。ディスプレイ下部に燦然とリンゴが輝いている。サブで使っているタブレットはiPad。私のスマホもiPhone6(なのに夫はなぜだか未だにガラケー使い)。

......Windowsにあらずんばパソコンにあらず?Macってそんなマイノリティだったの? Mac使いの薬剤師はeラーニングを受講する権利すら与えられないんですか!?

せっかく会社が費用まで出してくれたっていうのに......。

仕方ない。ここはへそくりをはたいてWindowsパソコンを買うか......。かくかくしかじか、とiPadでウェブ小説を読んでいる夫に事情を話してみると

「そこまでして勉強しなきゃいけないの?」

ええ~?! なにそれ?!(本日2回目)

人がやる気になってるのに、そういうこと言う?

反論しようとするが、夜の11時半近く。口論する気力も尽き果てている。もういい......と言い残して、寝ることにした。

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もぞもぞと布団に潜り込んで、ふと気づく。そうか、夫は薬剤師じゃないから分からないのだ。認定薬剤師の意味とか、認定とかかりつけ薬剤師との関係とか、調剤報酬制度の仕組みとか。認定薬剤師であるかどうかは会社経営にも影響するし、薬剤師の職能にも関わるということ等々。そういう話を一からしないと分かってもらえない。

けれど、仕事と家事育児で疲れて、それでもわずかに残った気力を振り絞って勉強しようとしているところへ、そんな風に水を差されたら?

「もういいよ」って気分になってしまう。そういう母親薬剤師は少なくないのではないか。

「そこまでして勉強しないといけないの?」
「そこまでして仕事しないといけないの?」
「なんで休みの日にわざわざ勉強しに行かなきゃいけないの?」
「そこまでしなくていいじゃない」

配偶者からこう言われることはないだろうか。仕事をしなければいけない、そのために自己研鑽しなければならないということに対して、配偶者から「そうだよね」と共感してもらえる割合は、夫>>>妻ぐらい差がある気がする。

ただし、「勉強のための本を買う」ということについては、ひょっとするとお小遣い制の夫の方が不利かもしれない。自分の給料を裁量でやりくりする妻は多そうだ。一方、お小遣い制の夫だと、使えるお金に上限がある。

職業柄、自己研鑽が不可欠である。そのためには、いくらかの投資も必要であるということについても、薬剤師同士の夫婦であれば相手の理解を得るのは簡単なのだろうか?

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翌日、会社の担当部署に相談したところ、薬局の備品のタブレットパソコンを持ち帰り自宅でeラーニングを受講できることになった。

けれど、そこまで配慮してもらえる環境ばかりとは限らない。

eラーニングのためにパソコンを買うのにも、会費を払うのにも、休みの日に勉強会に行くのにも、家族に理解を求めるという高い障壁がある。そのハードルをクリアできなかったら、「やる気のない薬剤師」、「勉強しない薬剤師」のレッテルを貼られてしまうのだ。

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さて、そのeラーニングを始めてみたものの、どうも視聴する講義を選ぶ基準がおかしい気がしてきた。

内容よりも、時間と単位数を見て、効率よく単位が集められそうな講義を選んでしまう。

社内で回覧されてくる勉強会のお知らせを見て「行けそうかな?」と思っても、『シール何単位』という記載がないと、「......やっぱりやめとこうか」という気になる。

これが本当の勉強なのだろうか。

本を読んでも、ファーマトリビューンを読んでも、◯経DIや◯レデンシャルを読んでも、論文抄読会に参加しても、シールはもらえない。だったらシールのもらえる勉強に時間を使うのが、賢いやり方ではないかと思ってしまうなんて......。

けれど、そんな認識からいったん目をそらし、せめて講義はきちんと聞こうと思ってeラーニングで単位を集めている。ひとまず認定薬剤師さえ取ってしまえば、あとは本当に必要と思える勉強に時間が使えるのだから、と自分に言い聞かせながら。

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【コラムコンセプト】
仕事に家事に育児と、目まぐるしい日々を送る母親薬剤師。新薬や疾病の勉強もしなきゃいけないが、家のことだっておろそかにできない。追い立てられるように慌ただしい毎日だ。そんな中で、ふと立ち止まり、考える。「働く母親って、どうしてこんなにいろんなものを抱え込んでしまっているんだろう?」「薬剤師の業務って、どうしてこんなふうなんだろう?」忙しさに紛れて気付けずにいる感情に気付いたら、働く母親に見える景色はきっといくらか変わるだろう。日常の業務に埋もれたままの何かを言葉にできたなら、薬剤師を取り巻く世界も少しずつ変えていけるだろうか。


【へたれ薬剤師Kiko プロフィール】Hetare_kiko_columm.png

卒後9年間病院勤務ののち、結婚を機に夫の地元で調剤薬局に転職。産休育休を経て、現在は中規模チェーン薬局にフルタイムで勤務。アラフォー。8歳の息子、夫(not薬剤師)と3人暮らし。食事は手抜き。洗濯は週3回。掃除はルンバにおまかせ。どういうわけだか「コトバ」に異様にこだわる。座右の銘は「モノも言いようで門松が立つ」。(Twitter:@hetareyakiko)

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