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ひとり薬剤部の在宅業務

2017年03月30日 10:50

蛇口をひねれば水が出る。当たり前のことです。しかし水は大切なものです。特に、周りの地域と水の融通ができない離島では。実は昨年末あたりから、父島では水不足が続いています。毎朝防災無線で、ダムの貯水量が実況中継されています。まだ断水などはありませんが、父島ではダムの貯水量が毎日約1%ずつ減っていき、このままでは4月末までには貯水率ゼロになるかもしれません。水のありがたみについては、内地のみなさんにも、蛇口をひねる前の一瞬だけでも考えていただければと思います。

目次

  1. 在宅業務は行っていないのが現状
  2. 週3日数時間ほど、診療所業務の合間にフリー時間があるが......
  3. フリー時間にもさまざまな業務が入る
  4. 多量の業務に1人で責任を持つため、診療所を長時間空けることが難しい
  5. 在宅患者さんを訪問できないので、ご家族やヘルパーさんに協力してもらう

在宅業務は行っていないのが現状

今回は薬剤師の在宅業務の話です。現在のところ、薬剤師が患者さん宅を訪問し服薬指導や薬の整理をするといった業務は、小笠原では行っていません。

明らかにコンプライアンスの悪い患者、多数の残薬がある患者など、在宅業務が必要と考えられる患者は、私から見てもそれなりにいます。また、薬剤師の在宅業務はケアマネなどからの要望もあります。

しかしながら正直なところ、在宅までは手が回らない、診療所業務と在宅との両立は難しいというのが実情です。

週3回数時間ほど、
診療所業務の合間にフリー時間があるが......

これにはまず、診療所での薬剤師の業務を説明する必要があります。

出勤日の午前はすべて外来に当てられます。外来時間中はひっきりなしに外来調剤、薬剤交付があり、それ以外の業務を行うのは難しいです。隙間時間を使えば他の業務もできると思われるかもしれませんが、集中力が途切れてミスの原因にもなりかねないので、私は外来時間中、他業務は極力しないことにしています。

水曜は午後も外来がありますので、調剤や薬剤交付以外の業務は全て、水曜以外の、外来の無い週4回の午後に行うことになります。そのうち実質1日は在庫点検と発注に費やします(意外と時間かかる発注業務についてはこちら:台風シーズン、在庫管理をどうする?)。さらに院外処方箋の点検、当日出た薬剤の集計などは毎日行うので、結局週3日程度、午後の数時間しか固定業務がない(フリーの)時間がないわけです。新しい薬剤の情報収集や、ジェネリック医薬品の採用選定などは、朝のミーティングが終わってから処方箋が回ってくるまでの40分程度か、外来業務の隙間時間で調べるしかありません。

フリー時間にもさまざまな業務が入る

その「フリー時間」も、予約患者が来ていたり、診療所と併設の老人ホームへ薬剤の準備に行ったり(週1回から2回、平均2時間程度)、各種委員会があったり(現在のところ月2回、平均1時間半程度)、予防接種時の点検業務(月に2回程度。場合によっては午後終日)などもあり、意外と午後も忙しいです。そうでなくても、混雑で午前の外来が延長される場合が多く、そのぶん休憩をずらしてとることになるので、午後の業務時間が短くなります。こうなると、その日のうちに作る必要のない書類作成やその他の事務仕事は、翌日に繰り越すことも珍しくありません。

母島出張は行くだけでも大変なので、一度の渡航でなるべく多くの用事を済ませられるように予定を組みます。このようなイベントがあると、その準備にも時間がかかります。出張後は報告書も出さないといけません。

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参考程度までに、ある一週間の業務例。予防接種や委員会は毎週あるわけではないし、船のスケジュールにより発注日が変わる。老人ホームに出す薬の準備は「空いている時間」にするため、必ずしもこの通りに業務をするわけではない。火曜日に発注を完了したつもりでも、混雑する水曜日午後の外来の後には在庫に不安のある薬剤が出てくる。間に合うようであれば、木曜日に追加の発注を行う。

フリーの時間帯には、医師の予定に合わせて予約外来や妊婦検診が入る。持ち込まれた薬剤の整理や組み替えを行うため、フリーの時間といっても午後の外来と変わらないくらい忙しい場合もある。 午前中の外来は通常15分~30分、場合によっては1時間延長する。それに伴って午後はたいてい遅く始まる上、日常業務以外の事務仕事や母島出張の準備などは、すべてフリーの時間で行うので、効率よく動かないと一日で仕事が終わらない。

多量の業務に1人で責任を持つため
診療所を長時間空けることが難しい

薬剤師の業務は多岐にわたり、しかも1人しかいないので、基本的には誰かと分担ができません。平時でもかなり要領よく業務をこなさないと、いつまでも仕事が終わりません。事故やトラブルが発生すると、その対処に追われ一気に予定が遅れることになります。

以前、薬剤師へのメッセージで私は「離島での薬剤師勤務は極めて過酷です」といったようなことを書きましたが、それはまさにこういう事情を示しています。仕事が多岐にわたる上、責任はすべて自分ひとりで取らなければなりません。

診療所業務はこのような状況で、さらに薬剤師が診療所を長時間空けて、複数の患者宅を訪問することは、きわめて難しいと言えます。

在宅患者さんを訪問できないので
ご家族やヘルパーさんに協力してもらう

在宅業務が必要とされる患者さんに対して何もしていないかといえばそうでもありません。こちらが薬局を離れられないので、一包化された薬剤の組み換えや整理がどうしても必要な場合は、患者さんに薬を持参してもらう形を取っています。家族やヘルパーさんが送迎している患者さんであれば、受診時に一度薬を持ってきてもらいます。そして、午後の空いている時間などに薬の整理や組み換えを行い、後ほど家族やヘルパーさんに取りに来てもらうことが多いです。

社会の要請があるからと
在宅業務を安請け合いできない事情

薬剤師が行っている業務は多いです。しかし、1人勤務であるうえに夜勤も当番もないので、仕事内容や忙しさが他の職種の方々からは見えにくいです。薬剤師が薬局外での業務を行うことが困難な状況ですので、「薬剤師が在宅業務を行うのが、世の中の流れだから」というだけで、気安く在宅業務を引き受けることは難しいのです。このあたり、1人で業務を行う職場のつらいところです。

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3月になれば小笠原も日差しが強くなり、4月はもう夏である。クルーズの観光船も時折父島までやってくる。小笠原諸島では雨が少なく、この半年ほど水不足が深刻化している。島には海水を淡水に変える装置もあるそうだが、それでも水不足解消にはならない。この前見たニュースによると、小笠原諸島では5月くらいまでまとまった雨は降りそうになく、水不足は当面続きそうな雰囲気である。

【コラムコンセプト】
僻地や離島の薬剤師業務って、給料は高いだろうけど、周りに何にもない不便な所で大変そうなイメージがある。それに不便な地で「生活」もしていかなければいけないから結構な覚悟が必要そうだ。......けど実際のところはどうなの?そんな興味と疑問を併せ持つ薬剤師のために、日本で最も行きにくい離島で働く薬剤師が送るコラム連載。良い面悪い面全てを含め、離島におけるありのままの薬剤師業務や生活を、面白おかしくお伝えしていけたらと考える。堅苦しい薬の記事の合間にここを読めば、「私は都会でないと無理だ...」と思っている人も、(保証はできないが)案外すんなり僻地でもやっていけるかもしれない。

【小西良典氏 プロフィール】cfe16ed4007e8fd8d26248d6a2afad043c7a3e9f.jpg
大学卒業後薬学部ではなく理学部の大学院に進学。博士課程を中退。その後、ドラッグストアなどで働きながら全国を旅する生活を続けて8年あまりのある日、旅行先の小笠原村が薬剤師を募集していることを知り、勢いで出願。見事採用され、以後、父島の診療所に勤務。旅行経験から、全国どこの街でも道に迷わない自信がある。趣味は工作、パソコン、料理、ロシア語など多数。最近は、毎日録画をしている昼の映画や海外ドラマを片付けるだけで週末が終わっていく。

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