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オーストラリアでも重要視!薬剤師訪問サービスの質向上

豪日交流基金助成金プログラム Home Healthcare:
an innovative solution for aging populations

2017年03月31日 08:30

今回、オーストラリア外務貿易省が管轄する豪日交流基金のサポートを受けて、日豪両国の在宅医療における薬剤師業務の質向上をテーマとしたシンポジウム&ワークショップを2月19日に京都で開催しました。開催者側として、その模様をレポートします。

レポーター名:藤田健二(シドニー大学大学院博士課程後期)
参加学会:2016年 - 2017年度 豪日交流基金助成金プログラム Home Healthcare: an innovative solution for aging populations
訪問日時:2017年2月19日
共催: シドニー大学薬学部/京都大学大学院医学研究科社会健康医学系専攻
後援: 一般社団法人全国薬剤師・在宅療養支援連絡会/Home Infusion Pharmacy 研究会 (順序不同)
開催場所:京都大学

オーストラリアでも重要視されている薬剤師訪問サービスの質向上

午前中に開催されたシンポジウムでは、『在宅医療の質向上に向けた薬剤師の役割』というテーマのもと、日豪合わせて4名のシンポジストが登壇しました。

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写真1 シンポジウムの様子。ステージ右からTimothy Chen氏、Rebekah Moles氏、中山健夫氏、
城谷典保氏、串田一樹氏(座長)

はじめに、シドニー大学薬学部のAssociate ProfessorのTimothy Chen氏は、オーストラリアの在宅医療における薬剤師の役割について講演しました。

日本と同様に、オーストラリアでも医薬品の適正使用 (Quality Use of Medicine/QUM) の観点から在宅医療における薬剤師の積極的な参画が求められており、2001年には、Home Medicines Review (HMR)と呼ばれる薬剤師による訪問サービスが開始されました。目的は、高齢患者の自宅で薬物治療に関する包括的なレビューを行い、治療の妨げになると思われる医薬品に関連する問題 (Drug Related Problems/DRPs) を早期に発見し、解決に向けた提案を医師へ報告することによって医薬品の適正使用を実現することです。

HMRの質の向上には、質の高い薬剤師教育、現場での実践、研究によるエビデンスの構築、エビデンスに基づく政策決定、の4つの要素が歯車のように機能し合うことが不可欠であり、そのために各要素のステークホルダーが連携することがカギとなるという趣旨の話でした。

※FIP(国際薬剤師・薬学連合)役員および同組織の社会管理薬学部門のプレジデント等を兼任

訪問サービスに必要な知識を習得する教育カリキュラム

続いて、同大学のAssociate ProfessorであるRebekah Moles氏は、HMRの実施に必要な知識やスキルを習得するために、どのような薬剤師教育が大学でなされているのかについて講演しました。

オーストラリアの薬学教育の特徴は、科目ごとに独立して学ぶのではなく、疾患を軸として科目横断的に学ぶ点にあります。例えば、呼吸器領域がテーマの場合、呼吸器疾患の病理学、調剤する医薬品の化学式、関連する文献の検索方法、検索の結果得られた文献の読み方を学ぶとともに、ケースシナリオを用いて、コミュニケーション力、臨床推論能力、患者へのスピロメーターの説明の仕方など、複数の科目を統合して学びます。

3年次終了後に実施されるOSCE (Objective Structured Clinical Examination) では、模擬患者とのやりとりにおいて、問題と考えられるDRPsに気づき、そのDRPsを解決するために必要な情報を質問によって聞き出せたかどうか (Information gathering)、得られた情報をもとに問題点を適切に評価したかどうか (Information processing)、評価した結果を患者に分かりやすい言葉で説明しているかどうか (Information delivery)が問われます。このような実際的な教育カリキュラムを通して、学生達は自信を持って現場で活躍できるといいます。

データベースを活用した診療の質向上を検討

その後、京都大学大学院医学研究科 社会健康医学系専攻健康情報学分野の中山健夫教授から、高齢者医療の適正化推進に向けたリアルワールドデータの活用についての講演がありました。

超高齢社会を迎えた日本における高齢者医療の在り方の検討と方向性の提示は、重要な国民的課題であるとともに、同様の問題に向き合う世界各国のためにも取り組むべき課題です。厚生労働省が2009年から構築・運営するレセプト情報・特定健診等情報データベース(National Database of Health Insurance Claims and Specific Health Checkups of Japan/ NDB)には、年間約20億件、累積100億件を超えるレセプト情報が保管されています。NDBを有効活用することで、エビデンスと診療のギャップを国レベルで解明し、診療の質の向上に役立てることができます。例えば、約180万人の慢性腎臓病患者のレセプトデータを用いて診療の質を評価した結果、事前に評価項目として設定した4つのケア(レニン・アンジオテンシン系阻害薬の処方、尿検査、栄養指導、非ステロイド性抗炎症薬常用回避)を全て満たしている患者は、全体の約2%に過ぎないことが分かっています。

ただし、データベースを用いた研究を行う際には、レセプトに記載されている病名の感度が低いことに注意を払う必要があるといいます。現在、がんの終末期医療の質を、NDBを用いて解析しているとのことで、その結果が待たれます。日本には健診データ、レセプトデータ、死亡データ、出生時データなど集積しているデータがたくさんあるにもかかわらず、これらが横につながることなく、全て単独のビックデータになっているため、国民共通IDを用いていかに賢くつなげていくかが今後の課題だと指摘しています。

情報共有のインフラ整備が重要

最後に、一般社団法人日本在宅医療学会理事長の城谷典保氏から、訪問医が薬剤師に期待する役割についての講演がありました。

実際に経験した事例を紹介しながら、薬剤師による服薬状況のアセスメントと、発見した問題に対する解決策等の情報共有がいかに重要であるかを解説しました。そして、緩和ケアが必要な患者に関しては、無菌調剤ができる設備やPCAポンプを取り扱う薬局が必要となりますが、地域のニーズに応じた数の薬局がこの役割を担えば、必ずしも全薬局が均一の機能を有する必要はないことを説明。

さらに、在宅においても病院内と同等に、タイムリーで一貫したケアを実現するために、情報共有のインフラをより一層整備する必要があることを指摘しました。クラウドに対応したグループウェアのようなシステムを活用することで、全ての関係者がリアルタイムに最新の情報にアクセスできるようになります。加えて、患者の急変や看取りを要する患者の病状を即座に把握するために、バイタルサインをモニタリングする生体情報モニタの活用は今後重要な役割を果たし、将来的には遠隔診療への適用へと発展していくであろうと述べました。

訪問薬剤管理業務の質を評価する指標の開発

午後には『訪問薬剤管理業務の質の可視化』と題し、訪問薬剤管理業務 (Home Pharmaceutical Care/ HPC)の質を評価するためのQuality Indicator (QI)の開発を目的としたワークショップが開催されました。

はじめに、医療の質やQIのコンセプトについての理解を深めた後、HPCの質を構成する要素Quality Dimension(QD)について筆者が解説しました。このQDは、①HPCがもたらすメリットは何か?②そのメリットが得られたり、得られなかったりする要因はどこにあるのか?③その要因の質を高めるためにはどうすればいいのか?という3つの質問を、筆者らが約60名の在宅医療・介護関係者にインタビューした結果をもとに抽出した要素のことをいいます。

このQDに対応したQIを緩和ケアと慢性疾患のケースシナリオを用いて開発し、できあがったQIの妥当性と実行可能性を参加者間で評価しました。最終的に、本ワークショップ内で50個のQIが完成しました。このQIは、今後、専門家によって妥当性を評価した後、複数の薬局の方々の協力を得て実用化に向けた予備試験を実施する予定です。

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写真2 ワークショップの様子。最終的に合計50個のQIを作成し、各種評価を行った。

薬剤師の訪問サービスの質を高める

「対物」から「対人」業務への転換が薬局に求められているなか、薬剤師が提供する在宅サービスの質を評価し、改善に向けた取り組みを行うことは、日本とオーストラリアをはじめとする高齢化する国々にとって今後ますます重要になります。前述したとおり、HPCの質を高めるためには、教育・実務・研究・政策を連動させる必要があり、そのための方策の1つがQIの開発と運用です。イベント終了後の参加者アンケートには、薬局サービスの質の評価に向けたQIの開発に対して肯定的な意見が多数あり、できるだけ早くQIを開発する必要性を感じました。今回のイベントを通して育まれた日豪間の関係性をさらに深めながら、今後もこうした活動を続けていきます。

こちらの記事に関する問合せは「kfuj2522★uni.sydney.edu.au」まで。(★を@に変えてください)

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