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副作用の見極めと添付文書の課題

平成28年度 第3回JASDIフォーラム

2017年04月03日 09:30

 今回は、平成28年度 第3回JASDIフォーラムから「副作用の見極めと添付文書の課題」と「薬学臨床推論を生かした副作用への臨床アプローチ-ポリファーマシーの介入-」をレポートします。

【平成28年度 第3回JASDIフォーラム】

「副作用情報を活用するために―それは本当に副作用なのか?―」

日時:2017年1月22日(日) 10:00~12:45

会場:東京大学薬学系総合研究棟2階 講堂

主催:日本医薬品情報学会(JASDI)

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ファイザー株式会社/日本製薬工業協会医薬品評価委員会
小宮山 靖 氏

日本における「副作用」の考え方

 日本では、因果関係を否定できるかどうかを判断し、「因果関係を否定できない」ことをもって副作用としている。最近、欧米では因果関係を支持する積極的な理由(エビデンス)があるかどうかで判断する考え方が主流になってきている。ICH-E2Aという日米欧3局が合意して作ったガイドラインでは、副作用の定義が明記されており、アメリカと日本が取っていた「因果関係を否定できない」という考え方と、ヨーロッパが取っていた「因果関係の合理的な可能性がある」という考え方が両論併記されていた。しかし2011年に、アメリカがヨーロッパと同じ考え方になり、日本だけ取り残されていると小宮山氏は述べる。

 因果関係に合理的な可能性がない場合には、個別症例のみでは因果関係ははっきりしないので、集積された情報で合理的な判断を行わなければならない。本当にこの薬のせいなのか探求が続いていくのである。反対に、副作用を「因果関係を否定できない」という判断基準にしてしまうと、誰かが否定できないと言っただけで思考停止に陥って、全てが副作用になってしまう。日本の副作用に対する定義・考え方は時代遅れの感があるという。

 薬物治療における意図していなかった・好ましくない出来事を「有害事象(Adverse Event)」といい、薬と起きた事象の間の因果関係を問わない。その有害事象について、さまざまな情報を総合的に判断した結果、原因が薬であると認められたときに、薬の「副作用(Adverse Drug Reaction)」と呼ばれる。

 「副作用の疑い」は、「医療従事者あるいは研究者が個々の症例において薬がイベントに関連するかもしれないと判断したときに用いる」と定義されている1,2)。その定義上、企業や行政に自発的に報告される症例報告は、「副作用の疑い」である1,2)

 一方、「副作用」は「薬xが作用yを引き起こし得ることが広く認められている場合に用い、個々の症例に関して用いられるべきではない」とされている1,2)。医療従事者の中で、なぜ「有害事象」と「副作用」の区別が付きにくいのかというと、ほとんどの有害事象が副作用になってしまい、添付文書に記載されるケースさえあるからだ、と小宮山氏は述べる。日本では、副作用という言葉が安易に使われすぎているというのだ。

因果関係評価は集積された情報に基づく

 医薬品の安全性を評価する上で、大きく分けて3つの目標がある。

  1. 特定の医薬品が投与された患者集団全体に、何が起きるのか全体像を知ること(どのような事象が何%に起きるのか、など)
  2. 全体像を知った上で、その薬の因果関係を見極めること
  3. 防ぐことができたはずの重大な副作用による悲劇を生まないためにリスクを最小化する方策を講じ、医薬品の適正使用につなげること。

 「因果関係あり」とされているものが濡れ衣だったとすると、企業は薬が売りづらくなり、患者にとっては使用の制限が加わってしまい、治療の選択肢を狭めることになりかねない。そういった観点からも、特に上記の2が重要であると、同氏は述べる。

 因果関係を見極めていくには、長い検討過程が必要とされることが多い。複数の症例報告や、公平な土俵で行われた幾度もの比較研究により、本当にその薬の副作用なのか、エビデンスの階段を少しずつ上っていく。とはいえ、因果関係が分かりやすい場合では、たった1、2例でエビデンスの階段を上り切ってしまうこともある。事象によって1例1例の重みが異なるためであるが、日本では副作用報告(自発報告)が10件程度になると、添付文書改訂という流れになってしまう。1例の重みを考えず、単純に症例の件数で進むという。

 一方、他の原因でも同じ事象が起こりうるため、何が本物の原因なのか特定できない状態(交絡)においては、個別症例では判断できない場合がほとんどだ()。交絡が起こりやすいケースとして、薬を服用しなくてもそれを使う患者集団では一定の割合で起こる有害事象がある。薬を使うと発生頻度や症状の重さ、リスクが上がるというタイプのもので、これは個別症例では因果関係評価が難しい。対照群との比較でしか、因果関係がよく分からない。添付文書で副作用と報告されている事象の中にもこのタイプのものが多く含まれており、しっかりとした因果関係評価を受けていない可能性もある。

図.因果関係を見えにくくする交絡

原因の候補が複数あって、どれが本当の原因なのか分かりにくい状況を交絡という。
例えば、薬を飲んでいた高齢者が倒れた場合、
薬が原因なのか、高齢によるものなのかはすぐに分からないことが多い

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 因果関係評価は個別症例で判断するものではなく、重層的に評価されるべきものである。それと同時に、「副作用ではないこと」のエビデンスを積み上げるスキームも常に存在している。ところが、日本ではこのスキームが健全に機能していないと感じる、と小宮山氏は述べる。そのためか、添付文書に一度載った副作用は消えないことがほとんどで、古い薬ほど、「その他の副作用」などこまごまとした情報が追加され、ノイズが増えていく。「副作用」は因果関係が確立された場合に用いる用語で、安易に用いるべきではないことを強調した。

 医薬品リスク管理計画(Risk Management Plan; RMP)において、有害事象を因果関係のエビデンスレベルに応じて3つにカテゴリに分類している。「重要な特定されたリスク」は、因果関係のエビデンスが確立されている、あるいはエビデンスレベルが高いもの。「潜在的なリスク」は、副作用とは断定できないが、因果関係を示唆するエビデンスが得られているもの。「重要な不足情報」は、まったく情報がないか、検討過程が始まったばかりのものである。薬の開発段階でこれらの報告があったものを整理して、RMPに安全性検討事項としてまとめて公表している。ところが、「副作用の疑い」あるいは「有害事象」の報告数を確保することには注意を向けているが、やっていることはほとんど比較対照群をもたない使用成績調査で、リスク因子の特定など集積された情報をどのように評価するかには力が注がれていないのが現状である。また添付文書には、それぞれの事象が現時点でこれら3つのカテゴリのうち、どれに属するかを説明すべきではないかと付け加えた。

 最後に、同氏は「『因果関係を否定できない』という副作用の定義が、個別症例の因果関係の判定に強く依存し、副作用かどうかも分からないノイズ情報が添付文書に含まれている状況を生んだ原因の1つではないか。この副作用の定義が思考の停止を生んでおり、日本の規制は見直すべきであろう。ある薬を使う患者集団で一定の割合で発現してもおかしくない事象は、因果関係のエビデンスが示されていない限り、ノイズの可能性が高い。薬剤師には、そういったことを考えながら対応していただきたい。製薬企業側の問題もあるが、情報を受け取る側の情報リテラシーに頼らざるをえないのが今の現実で、情報を見る目を養ってほしい」と締めくくった。

参考文献

  1. Patrick Waller. An Introduction to Pharmacovigilance. Wiley-Blackwell. 2009.
  2. 久保田潔 監訳.医薬品安全性監視入門-ファーマコビジランスの基本原理.東京、じほう、2011.

次回は、岸田直樹氏による「薬学臨床推論を生かした副作用への臨床アプローチ-ポリファーマシーの介入-」を紹介します。

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