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薬学臨床推論を生かした副作用への臨床アプローチ─ポリファーマシーの介入─

平成28年度 第3回JASDIフォーラム

2017年04月05日 09:30

 今回は、平成28年度 第3回JASDIフォーラムから「薬学臨床推論を生かした副作用への臨床アプローチ-ポリファーマシーの介入-」をレポートします。

【平成28年度 第3回JASDIフォーラム】

「副作用情報を活用するために―それは本当に副作用なのか?―」

日時:2017年1月22日(日) 10:00~12:45

会場:東京大学薬学系総合研究棟2階 講堂

主催:日本医薬品情報学会(JASDI)

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総合診療医・感染症医 北海道薬科大学薬学客員教授
岸田直樹 氏

さまざまな情報収集を

 臨床において何度も薬剤師に助けられてきたという岸田氏は「患者に起きた事象が薬の副作用であるかどうかを判断することは、医師でも難しい。薬剤師には、ぜひ力を貸してほしい」と述べる。そのためには、薬剤師にも臨床推論のスキルが求められる。薬剤師が臨床推論を学ぶことで得られるメリットとして、下記の5つが挙げられる。

  1. 患者の状態を把握し的確な処方提案ができる
  2. 薬の効果に関わる情報を収集し、医師・看護師とディスカッションができる
  3. 薬の副作用を他の類似する病態も含めて判断できる
  4. 緊急性の高い病態を病歴やバイタルサインから区別できる
  5. 医師・看護師に患者情報を的確に伝えることができる

 医師から処方提案を求められたときに、ただ病名を聞いて「この薬がお勧めです」と言うのではなく、患者背景や重症度を踏まえた的確な処方提案をしてほしいと述べる同氏。それには、適確かつ多方面にわたる情報収集と薬剤師なりのアセスメントをして、処方提案後にその薬が効いているかどうかを医師と一緒に考える人になることが重要であるという。

 薬剤師が患者を見る上で、薬剤性の障害という側面は常に考えなければならないが、それだけでは不十分である。薬剤性を考えるためにも、他の類似する病態についてしっかりと除外されているかをチェックすることが重要なのである。例えば、院内の発熱で肝機能が悪くなっていた場合、薬剤師は「薬剤熱や、薬剤性の肝障害ではないか」と言う前に、原疾患による可能性や医療関連感染症のビッグ5 であるカテーテル感染、尿路感染症、院内肺炎、Clostridium difficile 感染症、手術部位感染症が、きちんと検査・除外されているのかを確認する1人になる必要がある。

 実際に医師と話すときは、「言いたくなる気持ちはわかるが」としつつ、「『薬の可能性は否定できない』と言わないでほしい」と同氏は述べる。そもそも医療においては、可能性を否定できる事柄はほとんどないのである。問題は、薬が原因である可能性はどれくらいあり、妥当なラインなのか、結局どうアクションしたらよいかという点であり、薬剤師なりに情報収集してアセスメントを提示することが大切である。そこで副作用かもしれないと思った場合には、患者から次のような情報を収集してほしいという。

  • 何を服用したのか、併用薬、サプリメントはないか
    こういった情報ですら、医師が全てを収集することは、今は難しい。
  • 薬の量は増えているか減っているか、飲まなかったりするケースはあるか
    薬の副作用を考えていたのに、実は薬を飲んでいなかったというケースもある。
  • 何に対しての投与か
    病名がないときもあるが、医師は何に対して投与し、その病気はよくなっているのか、という視点はとても重要だ。
  • 具体的な症状
    出現した症状、バイタル、特に皮疹などがあると、薬剤性の可能性が出てくる。例えば「胸が苦しくなったか、胸がヒューヒューいっていないか」。これは1 型アレルギー、アナフィラキシー、喘息様の症状である。「皮疹は局所のみか全身か、結膜、口腔内、陰部などの粘膜疹はあったか。唇が腫れたりしていなかったか」も聞く。
  • 投与から症状(皮疹出現)までの時間、薬の投与とタイミングが合っているかどうか
    特に30 分以内だと、重篤な1 型アレルギーの可能性が出てくる。
  • 患者が市販薬を含む同様の薬剤を内服していないか
    OTCや健康食品の過剰摂取により、問題が生じるケースもある。

臨床推論を駆使した薬剤師の事例

 次に、臨床推論により薬剤師がどう考え、アクションを起こしたかの実例 を紹介した(症例は札幌医科大学病院薬剤部 國本雄介氏より、一部修正を加え提供)。

ネフローゼ症候群で、入院後にプレドニゾロン(PSL)を開始した30代女性。PSL開始後14日目に38.5度の発熱を認めたが、その翌日には解熱。PSL開始18日目に再度39.8度の熱があり、顔面、上腕に発疹が出ていた。担当医は水痘の発症を考え、同日からアシクロビル(ACV)を開始するとともに、細菌感染症も否定できないと考え、ドリペネム(DRPM)を開始した。ACV・DRPM開始後3日目には解熱し、翌日には皮疹も改善した。ACV・DRPM開始後6日目には皮膚科の診察があり、検査所見・皮膚所見から水痘は否定的となりACVを中止。DRPMもその後中止となったが、中止後2日で再度38.6度の熱が出た。

既往歴、食事アレルギー】なし

内服薬】プレドニゾロン5mg 1回4錠1日2回、ST合剤1回2錠1日2回(毎週土、日のみ内服)、ランソプラゾール15mg 1回1錠1日1回

採血結果】WBC 8,200/μL、Hb 12.3g/dL、Plt 22.4×104/μL、Na 133mEq/L、K 3.8mEq/L、Cl 97mEq/L、BUN 8mg/dL、Cr 0.6mg/dL、AST 28U/L、ALT 107U/L、T-Bil 0.9mg/dL、CRP 4.8mg/dL

 ここで、どの薬が一体どのくらい、どのように投与されているか、このようなを作るだけでも、かなり見えてくることがある。

表.薬物の投与法・期間をまとめたもの

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 カルテをチェックし、この症例に関わった薬剤師は次のように考えた。

 既に担当医は発熱を精査している。咳・呼吸困難・痰の変化(性状や量)などの症状はなく、聴診により呼吸音の異常は指摘されず、肺炎の可能性は低いと評価している。胸部X線では、肺炎を示唆する浸潤影を認めなかった。

 また、尿路感染症に関しては頻尿、排尿痛、背部痛や悪寒・戦慄などの症状は認めていない。尿中の白血球もみられなかったことから、尿路感染症を積極的に疑う状況にない。

 本患者には中心静脈カテーテルは留置されておらず、末梢静脈の点滴部位や周辺部位にも異常所見はなかった。何より、抗菌薬(DRPM)投与前に採取した血液培養2セットは、陰性であり可能性は低い。

 医療関連感染症のClostridium difficile感染症は、抗菌薬投与歴のある患者で可能性がないとは言えないが、本症例は腹部症状や下痢を認めていない。便の迅速検査(下痢がないと出してはいけない)によるCD毒素の検出は試みていないものの、経過からは否定的と考えられる。

 ここまで情報を収集することで、より薬剤性の可能性が高まるのである。そして、なぜか決まって週末~週明けに患者が発熱していること、ST合剤を発熱のタイミングに近い土日に服薬していることに薬剤師が気が付いた。そこで、1.ST合剤は薬剤熱を起こしやすい薬剤の1つであること(論文も添えて提出)、2.発熱はST合剤服薬のタイミングに近い週末~週明けであること、3.精査を行っても発熱の原因が見つかっていなければ、ST合剤による薬剤熱を鑑別の1つに入れてはどうか-という3点を医師に伝え、本症例は解決したという。

 臨床推論というと診断のイメージがあるが、患者の病態を理解する上で医師との共通言語であり、また、薬が効いているかを判断するツールにもなる。ただ、明日からすぐにできるといったことではない。体型的に学習し、薬の副作用かどうかの妥当性という切り口で、適切な介入ができるようになってほしいという。

ポリファーマシーへの介入は簡単ではない

 ポリファーマシーの知識を持っていても、現場ではなかなか介入できない薬剤師も多い。岸田氏は「ポリファーマシーにどのように介入するのか、現場ではギクシャクしている。『先生、この薬、本当に必要ですか?』と尋ねるのは、とても失礼な言い方だと気付いてほしい。必要だと思うから出している。平成28年度の診療報酬改定により、ポリファーマシーに介入して減薬した場合の評価が新設されたが、介入の仕方によっては薬剤師が正義の味方で、たくさん薬を出す医師が悪者という図式になってしまいがちだ」と言う。

 ポリファーマシーへの介入は簡単ではないと理解することが重要なスタートだ、と同氏は述べる。また、「つい、○○クライテリアとか、スコアリングが○点だから副作用であると言いがちだが、それらはあくまでツールにすぎない。早くツールから卒業するようアドバイスしている」と言う。これはツールを使うなという意味ではなく、きちんと周辺情報を含めた介入をしてほしいということだ。ポリファーマシーすべてが悪いわけではなく、問題のあるポリファーマシーを見つけることが重要なのである。

 例えば、ある病態に対してAという薬が出た。ところがAの副作用に対してそれを新規の病態だと判断して、Bの薬が出る。Bは不適切な処方だったわけだが、これによりさらなる有害事象が発生し、最終的にクリティカルなイベントが起こる「処方のカスケード」が問題となっている。処方のカスケードにある副作用に早く気付いて医師に助言すると、薬をやめるきっかけになる。周辺情報を収集して、他の類似する病態を含めて真の副作用かの妥当性を検討し、臨床推論を駆使して論理的に説明すると、医師も納得しやすいという。仮に副作用があったら、対症療法に加え注意深く経過観察する。薬の副作用かどうかはっきりしないときには、中止が必要かどうか、確率と重症度の軸で見て、医師と一緒に臨床の答えを探ることが重要なのである。薬の副作用である可能性は低いが、重症度が高ければ、薬をやめるという判断もできる。もし、その薬をやめなければならないのであれば、代替薬を提示してほしいと同氏は述べた。

 「最終的な責任は、当然医師にある。ただ、薬を中心としたさまざまな情報収集に加え情報提供をするチーム医療の1人になり、一緒に患者の時間軸に乗って関わっていく薬剤師になってほしい」と、同氏は薬剤師を激励した。

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