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小笠原診療所と老人ホーム

2017年04月06日 07:30

小笠原における在宅業務に引き続き、今回は老人ホームについてです。父島に現在の診療所ができるのと同時に、診療所2階に有料老人ホームが併設されました。父島に限らず離島においては、医療や介護の問題で島を離れざるを得ない高齢者も多いかと思います。そういった意味では、老人ホームが父島にあるということは、画期的なことではないでしょうか。

目次

  1. 診療所に併設の老人ホーム
  2. ホームの薬は院外処方
    内地から届く薬を服用ごとに仕分ける
  3. 日の浅い老人ホーム業務
    今は看護師をサポートするような形
  4. 最も神経を使う業務が老人ホームの薬剤準備
  5. 診療所薬剤部と老人ホームは店と顧客のような関係

診療所に併設の老人ホーム

ホームは「太陽の郷」という名前で、現在の入居者は10人となっています。行政などの審査により入居者が決まるようです。10人の定員いっぱいまで入居者がいますので、入居希望者はそれなりにいることがうかがえます。

ホームの看護師は1名。数人が週単位のローテーションを組んで担当に付き、1階の診療所と兼務します。他にも栄養士や調理師、介護福祉士などがほぼホーム専任の形で働いています。薬剤師は入居者の薬を準備するときに、ホームと関わりをもつことになります。

ホームの薬は院外処方
内地から届く薬を服用ごとに仕分け

入居者の定期服用薬はすべて院外処方(関連記事)となっています。それらは日付入りのシートで一包化され、内地からホームに直接届きます。担当看護師が内容をチェックして、その後薬剤師が服用後との薬剤のセットを準備する流れになります。入居者の薬はすべて日付入りの一包化となっています。これらに散剤や、服用している患者は液剤の包をホッチキスで止めて、日付ごとに専用容器に並べて保管できるようにします。保管の準備が完了したら、ホーム担当の看護師が再度チェックをして作業終了です。

日数が多いと大変です。例えば入居者2名の薬を、40日ぶんずつ準備するとなると、入居者によっては服用している薬が多いため、数時間かかることもあります。この間、診療所の薬局を空けることになるので、電話応対などがあれば、その都度作業を中断して薬局に戻らなければなりません。

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清瀬の都営住宅周辺。以前、住宅事情のところでも述べたが、父島はこのような「団地」住まいの島民が多い。これらの都営住宅にエレベーターなどはない。買い物に行くにも、店のある二見港周辺の「街」までは、このあたりからだと健常な大人でも徒歩10分以上かかり、しかも途中に歩道の無い部分もある。高齢者にとっては(まして独居ともなれば)、かなり厳しい生活環境と言える。島内はバスが走っているが、本数は少ない。介護をする家族の負担は相当なものであろう。有料老人ホームの存在はかなり大きいと思われる。なお、特別養護老人ホームは八丈島にあり、島民の中にはそちらに入所する人もいる。

日の浅い老人ホーム業務
今は看護師をサポートするような形

老人ホームと薬剤師の関わりは、実は、開始してから数年しか経っていません。数年前、専任のホーム担当看護師が退職し、診療所からホームを担当する看護師を出すことになりました。診療所と兼務する看護師の、業務の負担が増えるということで、薬の準備は薬剤師が行うことになりました。

薬剤師が診療所に配置されるようになってまだ7年程度。薬剤師が老人ホームや在宅の業務を行うことは、もちろん小笠原ではこれまでに全く前例がありません。つまり、まだ手探りの部分もあるわけです。当初のいきさつから、老人ホーム関連業務は「お手伝い」という感じで、現状では「薬剤師の在宅業務の一種」とまでは言えないかもしれません。

最も神経を使う業務が
老人ホームの薬剤準備

薬は薬剤師が管理せず、2階にある老人ホームで管理されています。院外処方の他に院内からも薬が出る場合があります。粉薬などが複数出ている場合には、それらを日ごとにまとめて錠剤を一包化した袋と合わせてホチキスでまとめます。このような作業もあるため、ホームの薬剤準備は通常の外来調剤よりはるかに煩雑で手間がかかります。老人ホーム用に処方されている薬は一包化して、袋に日付を印字します。院内から午後に処方された内服薬がその日の夜から服用するものである場合、他の作業を中断して準備にかからなければなりません。正直なところ、薬剤師業務のなかで私が最も神経を使っているのは、この「老人ホームの薬剤準備」です。

診療所薬剤部と老人ホームは
店と顧客のような関係

薬剤師業務や薬についてに限って言うと、ホームと診療所は連携しているというよりは店と顧客といった関係に近いです。診療所と老人ホームは同じ建物にあるわけですが、薬剤師が行うのは薬の準備まで。薬に関して注意すべき点などがあれば看護師に伝えていますが、入居者と顔を合わせ、服薬状況を確認するところにまでは至っていません。このあたりの事情も、一般的な在宅業務とは少し異なると言えます。

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母島最高峰、乳房山から見た母島集落。乳房山は観光案内所で手続きしてから登山すれば、登頂証明がもらえる。頂上までは一時間と少し。こうして見れば、母島も団地形式の住宅が多いことがわかる。在宅業務が必要な患者は、当然ながら母島にもいると思われるが、さすがに母島まで行って在宅業務というのは無理がある。同じ村でありながら、母島までの日帰りは用務を済ませる場合であればほぼ不可能。父島の診療所を留守にして母島出張すること自体が、そう頻繁にはできないのが現状である。ホーム入居者には母島出身者や戦前からの旧島民の方もいる。

【コラムコンセプト】
僻地や離島の薬剤師業務って、給料は高いだろうけど、周りに何にもない不便な所で大変そうなイメージがある。それに不便な地で「生活」もしていかなければいけないから結構な覚悟が必要そうだ。......けど実際のところはどうなの?そんな興味と疑問を併せ持つ薬剤師のために、日本で最も行きにくい離島で働く薬剤師が送るコラム連載。良い面悪い面全てを含め、離島におけるありのままの薬剤師業務や生活を、面白おかしくお伝えしていけたらと考える。堅苦しい薬の記事の合間にここを読めば、「私は都会でないと無理だ...」と思っている人も、(保証はできないが)案外すんなり僻地でもやっていけるかもしれない。

【小西良典氏 プロフィール】cfe16ed4007e8fd8d26248d6a2afad043c7a3e9f.jpg
大学卒業後薬学部ではなく理学部の大学院に進学。博士課程を中退。その後、ドラッグストアなどで働きながら全国を旅する生活を続けて8年あまりのある日、旅行先の小笠原村が薬剤師を募集していることを知り、勢いで出願。見事採用され、以後、父島の診療所に勤務。旅行経験から、全国どこの街でも道に迷わない自信がある。趣味は工作、パソコン、料理、ロシア語など多数。最近は、毎日録画をしている昼の映画や海外ドラマを片付けるだけで週末が終わっていく。

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