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薬剤師よ、長い物に巻かれるなかれ

―ベンゾジアゼピン問題によせて―

2017年04月21日 13:15

獨協医科大学越谷病院 こころの診療科 井原 裕

薬剤師は処方権を持っていません。だから、医師に遠慮してしまいます。処方監査の際に、医師の判断に疑義を抱けば照会すべきとされていますが、それでも立場上限界はあります。

しかし、薬剤師は科学者である以上、「長い物には巻かれろ」を処世訓とすべきではないでしょう。科学者としての良心に照らして、納得いかない場合があるはずです。そのときは、納得いかなさを胸に抱き続けていただきたいのです。私は特段、「医師と闘え」と申し上げるつもりはない。それでも、医師を絶対者のように崇めてはいけない。医師は、間違えることがあり、かつ、間違えを認めないこともあります。

薬剤師として、「長い物に巻かれ」るべきではない一例が、向精神薬の乱用です。なかでもベンゾジアゼピン系抗不安薬・睡眠薬の多剤・長期投与については、批判的な視点を持ち続けていただきたいと思います。

日本のベンゾジアゼピン使用の現状は、常軌を逸しています。あまりにも大規模かつ常態的に行われているので、渦中にある医師たちは感覚が麻痺して、疑問を抱かなくなっています。これは、自浄作用のない集団が群集心理の追い風を受ければ、いかに逸脱した行動をとるかの好個の例といえます。しかし、この壮大な薬理学実験は、後年、かならずや科学史家によって弾劾される日が来るでしょう。

ベンゾジアゼピンの依存性については、欧米では1980年代に指摘されていました。日本で問題視され始めたのは、ようやく2000年代に入ってから、それも製薬会社が抗うつ薬プロモーションを打ったとき、ベンゾジアゼピンとの比較優位性を主張する際に、依存性に言及したのが始まりでした。専門家団体も、ここ数年ベンゾジアゼピンの弊害に警鐘を鳴らすようになりました。

今では、一般メディアもこの問題を取り上げ始め、2017年3月21日には、新聞各紙が「睡眠薬や抗不安薬44種類 規定量で薬物依存の恐れ」(例、朝日新聞)との見出しを打ちました。

薬剤師の皆さんは、今日も多量の抗不安薬・睡眠薬が記された処方箋を目の当たりにすることでしょう。それでも医師は平然としています。こういう現状に対して、「それ以外はいい先生なのだから」とか「先生にも事情があるだろうし」などといった、医師をかばう理由を探すには及びません。もちろん、あえて、医師とけんかする必要もない。しかし、医師を弁護すべき合理的な理由はないはずです。

時代はかわりつつあります。今日、有益な情報はインターネット上で検索できます。ベンゾジアゼピンからの離脱法を説いた『アシュトン・マニュアル』などは、一般向けですが、内容は高度です。一般人でもこのレベルの知識は持っている時代です。漫然とベンゾジアゼピンの長期投与を続けている医師たちは、向上心のない怠け者にすぎません。薬剤師としては、勉強不足の医師よりも、勉強熱心な一般人の方に価値観を合わせるべきです。

最後にもう一度申します。

「けっして長い物に巻かれるなかれ!」

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