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OTCのこと、お姉さんが教えてあげる

2017年04月26日 08:30

新社会人が入る季節になった。

初々しいスーツ姿の新入社員を見ると、思い出すことがある。約20年前、明日から病院薬剤師として初出勤という日。私はデパートへ行き、生まれて初めて化粧品売り場に入った。某有名化粧品会社のカウンターへまっしぐらに向かい、美容部員のお姉さんに恥を忍んでこう言った。

「明日が初出勤なのですが、今まで化粧したことが一度もないのです。一通り見繕ってもらえませんか?」

通っていた大学は地味な校風で、華やかな化粧をした女子学生はあまり多くなかった。私自身も化粧やおしゃれに興味がなく、ずっとすっぴんで過ごしていた。

だが、社会に出るとなれば、そうはいかない。社会人女性にとって、化粧は『義務』であり、『社交辞令』なのだ。

22歳にもなって、ファンデーションはおろか、口紅の1本も持っていないと聞かされた美容部員は、ピカピカに磨かれた化粧品売り場カウンターの上にばったりと突っ伏してしまった。

しかし、彼女は時間をかけて私の話を聞き、化粧水から乳液から化粧下地、ファンデーション、口紅、メイク落としに洗顔料まで一通り揃えてくれて、すべてのアイテムの使い方から、1回ごとの適切な使用量まで教えてくれた。私が化粧に慣れていないということを踏まえて、必要以上に多くのメイク用品を勧めるようなこともしなかった。

それから20ウン年。薬剤師として働いてきて、ふと考えるようになった。

美容部員に相談して化粧品を買いたいというニーズは、OTCの購買行為にも置き換えられるのではないか。薬剤師や登録販売者といった専門家に相談して薬を買いたいというニーズは決して少なくないのではないか?と。

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化粧品とOTCの売り場には共通点があるように思う。

化粧品の売り場には多様な商品が並ぶ。リップにグロス、美容クリーム、マスカラにアイライン......。さらにこれらの種類は細分化される。

ファンデーションの一つを取っても、パウダータイプにリキッドタイプ、クリーム、エマルジョンにルース、スティックタイプ。色味にもバリエーションがある。商品名も全部カタカナで、似たような名前のものがずらずら並んでいる。

違いが全然わからない。乾燥肌用だのしっとり系美容液だのと書かれていても、その中からどうやって自分に合うものを選べばいいのか。

だから美容部員に相談する。自分の好みや肌に合ったものを選び、正しい使い方も教えてもらう。相談せずに自分で選んで買うこともある。いつもと同じ品物や、わざわざ説明を受けなくても分かる品物を買うときだ。化粧品売り場には、両方の買い方が定着している。

OTC売り場にもさまざまな商品が並んでいる。

似たような名前で、何がどう違うのかも分からない大量の薬。その中から、自分の症状や体質に合うものを選んで買わなければいけない。

しかし、OTCはいつのころからか、指導が必要な一部の商品を除いて、売り場の棚に並ぶ中から消費者が自分で選んで買い、店員さんはただレジを打つだけというカタチになってしまった。

なぜこうなってしまったのだろう。

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もちろん、OTCと化粧品は同じではない。

化粧できれいになれると嬉しい。だから選ぶのが楽しい。化粧品の知識がある人に選んでもらえれば、もっときれいになれる。だから相談して買う。それに、化粧は毎日するもの。使うたびに困らないよう、自分に合ったものを選びたい。

OTCは毎日使うものではないし、選ぶのは楽しくない。でも、OTCを買いたいときは、切迫度が高いとき。適切な商品を選ぶ必要性は、化粧品よりずっと高いのではないだろうか。

化粧品の選び方は、友達やファッション雑誌から学び、自力で身につけることもできるだろう。だけど、自分の症状にあったOTCの選び方を、一般の生活者が身につける方法はほぼない。

OTCを買いに来る人は、OTC売り場で「どこが違うのか、さっぱりわからない」と途方に暮れてしまっているのではないか。

「薬剤師や登録販売者が売り場にいないために、自分の症状に合ってないものを買ってしまっていた」とか、「間違ったものを買ってしまった」という状況が日常的に生まれているかもしれない。だったら、薬の専門家がアドバイスして売るべきではないだろうか。

かつての私が美容部員のお姉さんに助けられたように、薬剤師がOTC販売の場にいることで助けられる患者さんは、少なくないと信じたい。

昨日、口紅を買いに行った。美容部員がおらず、いつもの色も見当たらない。仕方なく似た色のものを選んだつもりが、実際に使ってみると今までより派手なような気がして、少し困っているのだ。

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【コラムコンセプト】
仕事に家事に育児と、目まぐるしい日々を送る母親薬剤師。新薬や疾病の勉強もしなきゃいけないが、家のことだっておろそかにできない。追い立てられるように慌ただしい毎日だ。そんな中で、ふと立ち止まり、考える。「働く母親って、どうしてこんなにいろんなものを抱え込んでしまっているんだろう?」「薬剤師の業務って、どうしてこんなふうなんだろう?」忙しさに紛れて気付けずにいる感情に気付いたら、働く母親に見える景色はきっといくらか変わるだろう。日常の業務に埋もれたままの何かを言葉にできたなら、薬剤師を取り巻く世界も少しずつ変えていけるだろうか。


【へたれ薬剤師Kiko プロフィール】Hetare_kiko_columm.png

卒後9年間病院勤務ののち、結婚を機に夫の地元で調剤薬局に転職。産休育休を経て、現在は中規模チェーン薬局にフルタイムで勤務。アラフォー。8歳の息子、夫(not薬剤師)と3人暮らし。食事は手抜き。洗濯は週3回。掃除はルンバにおまかせ。どういうわけだか「コトバ」に異様にこだわる。座右の銘は「モノも言いようで門松が立つ」。(Twitter:@hetareyakiko)

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