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入院対応は抗菌薬在庫管理に苦労

2017年05月10日 07:30

小笠原には花粉症はありません(関連記事)。そう思っていましたが、どうしたことか4月初旬は目がかゆく、喘息様の症状が出ました。おかしいなと思って周囲に聞き込みをしてみたら、モクマオウという植物が浮かび上がりました。鼻炎患者は年間を通してそれなりにいて、この時期に増えることはないのですが、4月に入って1週間ほど、抗アレルギー薬が例年になく、よく処方された気がします。職員住宅の近くにも、この物騒な植物は生えているので、これが悪さをしているのかもしれません。

目次

  1. 入院患者は島民のほか、漁船乗組員--外国籍の方も
  2. 病気がよくならなくても、おがさわら丸の出港日に合わせて退院というケース
  3. 病棟業務は行っていない
    外来同様の調剤業務で対応
  4. 他職種も薬の在庫数には関心を払う
  5. 「用意しておくと安心」な注射薬の在庫量
  6. 注射薬の保管方法にひと工夫

入院患者は島民のほか、漁船乗組員――外国籍の方も

さて、今回は病棟業務を紹介します。診療所の2階は老人ホームと病室フロアとなっており、入院にも対応しています。入院患者さんに多い疾患は特にありません。胃潰瘍や肺炎をはじめ、入院の原因となる疾患はさまざまです。外来受診時に状態が悪く、そのまま入院になることや、漁船などの乗組員が発熱、入港してそのまま入院という場合もあります。中には日本語が全くわからない、外国籍の方もいます。この場合、だいたいは同僚や上司などが通訳してくれますが、入院時には言葉の壁が立ちはだかることもあります。

病気がよくならなくても、おがさわら丸の出港日に合わせて退院というケース

退院は、病状がよくなった場合とは限りません。おがさわら丸出港日に退院し、そのまま乗船して都内の病院へ転院というケースも多いです。この場合、特に必要があれば診療所の職員が都内の病院まで付き添うこともあります(これから休暇の場合や他に出張要件があった場合を除き、付き添った職員は東京到着翌日に東京を出港、いわゆる「逆一航海」で戻ってくることになります)。また、患者さんの病状が急変した場合は、飛行艇やヘリで搬送ということもあります。

入院患者さんの病状がよくなって退院した後は、外来でフォローするか、訪問看護などの形をとることもあります。入院患者さんはだいたい月に数名。入院患者さんが1人もいない日は、正確にはわかりませんが、平均して月に10日程度でしょうか。

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花粉を飛ばしていると思われる植物、モクマオウ。防潮林、用材として明治時代に持ち込まれた外来種で、見た目は松に似ている。かなり丈夫な木のようで、職員住宅の周囲にも多数生えている。今は治まっているものの、4月初めごろ、私は目がとてもかゆかった。花粉を飛ばしていると言ってる島民が複数いたが、私の症状の原因はやはりモクマオウなのだろうか。

病棟業務は行っていない
外来同様の調剤業務で対応

入院患者に対する業務は、外来業務と同様、処方箋に従って薬剤を用意し、病室担当の看護師に薬を渡す、といった感じです。患者さんが服用中の薬があった場合、持参薬から必要な薬剤を取り出し、組み直して一包化することもあります。注射薬の払い出しも行いますが、病棟業務を行っていないため、薬剤師が直接2階の病室へ行って、患者さんと顔を合わせるようなことはありません。

他職種も薬の在庫数には関心を払う

入院業務に関わる他職種からの問い合わせで多いのは、「現時点における診療所での薬の在庫数」です。後述しますが、抗菌薬などは、使い始めたら一気に在庫が減ります。診療所採用の抗菌薬では、セフトリアキソンがよく動くように思います。他には薬の保管方法(遮光とか)や、錠剤が粉砕可能か、あるいは散剤が存在するか、といった問い合わせです。このあたりは内地でも同様ではないでしょうか。

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診療所裏、通勤ルートにある空き地で1羽のサギをよく見かける。写真では実感しにくいが、けっこう大きい(首をのばせば身長1メートルくらい)。人に慣れているのか、近くまで行っても逃げず、地面の何かをつっついていることが多い。インターネットの動画サイトで、サギがカモの雛を次々に丸飲みする動画を見て以来、優美な姿とは裏腹に、凶暴な鳥に思えて仕方ないのだが......。

「用意しておくと安心」な注射薬の在庫量

薬剤師として最も骨を折るのは、入院患者さんに使用する注射剤の在庫管理です。例えば、入院患者さんに抗菌薬を継続投与する場合、1回に2バイアルで1日2回使ったとすれば、10バイアル入り包装の箱は2日半でなくなってしまいます。そのような患者さんが2人、一度に入院となったらどうでしょうか。抗菌薬が一気に減るタイミングで、台風が接近、おがさわら丸は欠航といった事態になると、大変です。また、母島から突然「注射薬をわけてほしい」という依頼が来ることもあります。

このように、注射薬は経口薬と違って、いつ、どのくらい使用するのかという予想がつきません。「これだけあればまず安心(かつ期限切れ廃棄が発生しない)」と思われる在庫数を注射剤各品目について把握するまでに、何度かの痛い目に遭いつつ、一年ほどの時間かかりました。

注射薬在庫の保管方法にひと工夫

狭い薬局ゆえ、ある抗菌注射薬は、私が経験的に安心だと思える在庫量を用意すると、置く場所がありません。そこで倍量の規格のものも揃えました(箱の大きさは同じなので、同じスペースに倍の薬を置ける)。夜間休日に担当者が取り間違えないよう、敢えて2種類の規格を並べて置かず、倍量の規格のほうは、薬棚ではなく私のデスクの足元に置いています。

また、救急時に使用する注射剤(「救急カート」に別途装備されている)など、「ほとんど使わないが、診療所の機能上無いと困る」医薬品は、期限が切れて廃棄になるケースもあります。この「期限切れ廃棄」をいかに少なくするかは、在庫管理上大きな課題です。

このように、当診療所における、入院患者に対する薬剤師の業務は、「病棟で」というよりは、注射薬の在庫管理のほうがメインになっているように思います。

【コラムコンセプト】
僻地や離島の薬剤師業務って、給料は高いだろうけど、周りに何にもない不便な所で大変そうなイメージがある。それに不便な地で「生活」もしていかなければいけないから結構な覚悟が必要そうだ。......けど実際のところはどうなの?そんな興味と疑問を併せ持つ薬剤師のために、日本で最も行きにくい離島で働く薬剤師が送るコラム連載。良い面悪い面全てを含め、離島におけるありのままの薬剤師業務や生活を、面白おかしくお伝えしていけたらと考える。堅苦しい薬の記事の合間にここを読めば、「私は都会でないと無理だ...」と思っている人も、(保証はできないが)案外すんなり僻地でもやっていけるかもしれない。

【小西良典氏 プロフィール】cfe16ed4007e8fd8d26248d6a2afad043c7a3e9f.jpg
大学卒業後薬学部ではなく理学部の大学院に進学。博士課程を中退。その後、ドラッグストアなどで働きながら全国を旅する生活を続けて8年あまりのある日、旅行先の小笠原村が薬剤師を募集していることを知り、勢いで出願。見事採用され、以後、父島の診療所に勤務。旅行経験から、全国どこの街でも道に迷わない自信がある。趣味は工作、パソコン、料理、ロシア語など多数。最近は、毎日録画をしている昼の映画や海外ドラマを片付けるだけで週末が終わっていく。

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