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炎症性腸疾患の発生要因を探る

2017年06月02日 10:30

 炎症性腸疾患(IBD)のわが国における患者数は近年著しく増加し27万人程度と推定されるが、その発生要因はいまだ特定されていない。そこで厚生労働省の「難治性炎症性腸管障害に関する調査研究」班では、IBDの危険因子が検討された。その研究成果について、東邦大学医療センター佐倉病院消化器内科教授の鈴木康夫氏に聞いた。

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UC 20万人、CD 7万人「予想以上の増加」

 厚生労働科学研究費補助金難治性疾患等政策研究事業「難治性炎症性腸管障害に関する調査研究」班では、1973年から今日までの40年以上にわたり、潰瘍性大腸炎(UC)とクローン病(CD)から成るIBDの疫学研究をはじめ、診断基準・治療指針の改訂、新規治療法の有効性の検討、発病や増悪の危険因子などの研究を行っている。鈴木氏は2014年から同研究班の研究代表を務めている。

 同研究班では昨年(2016年)、25年ぶりにUCおよびCDの全国疫学調査を行った。その結果、わが国におけるIBDの患者数は、UCが約20万人、CDは約7万人で、IBD患者の総数は約27万人前後に達していると推定されるに至った。IBDはもともと欧米で多く認められており、アジアではまれな疾患であった。しかし近年は、日本を中心とした東アジアで増加の一途をたどっている。特にUCの患者数については、今や日本は米国に次いで世界第2位である。同氏は「予想以上に増えてきている」と指摘する。

 この患者数増加の原因については、遺伝的素因の他、細菌・ウイルスへの感染や食物成分による腸管粘膜の異常反応、腸管の循環障害などのさまざまな説があるが、いまだ解明には至っていない。そこで同研究班では、IBDの危険因子を明らかにするために、大阪市立大学公衆衛生学准教授の大藤さとこ氏を中心に多施設共同症例対照研究を行った。

 症例群は、調査施設において初めてUCまたはCDと診断された患者。また他院で確定診断後に紹介受診した患者の場合は、その確定診断が紹介受診前3カ月以内(UC)、6カ月以内(CD)であれば登録可能とされた。

 対照群は、症例群と同じ施設に通院している他疾患患者のうち、各症例に対し性・年齢が対応する患者2例。このうち1例は消化器科から、もう1例は他科から選出した。

 生活習慣・生活環境、食習慣などに関する情報の収集は患者記入用調査票を用いた。また症例群の発症時期、病状などの臨床情報は、医師記入用調査票および臨床調査個人票が用いられた。

発症には多くの因子が関与

 UCについては、2008年9月~14年3月に登録された358例(症例群151例、対照群207例)のうち、調査票の回答が得られた308例(同133例、175例)を解析対象とした。

 CDについては、2011年10月~16年3月に登録された279例(症例群116例、対照163例)のうち、回答が得られた241例(同101例、140例)を解析対象とした。

 この症例対照研究の結果については、今年3月に発表された2014~16年度の報告成果集でまとめられているという。

「結論から先に言うと、これまでのさまざまな先行研究で危険因子を明らかにすることが難しかったように、今回の症例対照研究でも、明確な結論は得られていない」と鈴木氏。結論としては、「IBDの発症には、家族歴、虫垂切除歴、喫煙・飲酒習慣、食習慣、エストロゲンをはじめとする多くの因子が関与している可能性が考えられた」と報告されている()。

〈表〉 潰瘍性大腸炎とクローン病の発症要因と示唆される各因子との関連

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*P<0.1、**P<0.05
〔厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患等政策研究事業(難治性疾患政策研究事業) 難治性炎症性腸管障害に 関する調査研究 平成26~28年度 報告成果集(平成28年度 業績集)を基に編集部作成〕

 この結果について、同氏は「UCやCDは、『遺伝的素因』があるところに『環境要因』と『腸内細菌叢の乱れ』の三者が微妙に絡み合い、免疫異常が起きたり、炎症が生じるなどして発症すると考えられるため、危険因子を同定することはとても難しい」と説明する。なお日本人の場合は、欧米人に比べてIBD発症に対する遺伝的素因の関与は少なく、食事やストレスといった環境要因(外的要因)と腸内細菌叢の乱れの影響が大きいと考えられているという。

「喫煙」はCDでは増悪リスク

 ただ、これまでの報告で挙げられてきたIBDの危険因子の中で、今回の症例対照研究の結果でも高いオッズ比(OR)を示したのがたばこと菓子類の高摂取である。

 たばこについては、UCとCDでは影響の仕方が逆になっている。すなわち、UCでは「禁煙」すると発症リスクが増加するが、CDでは「喫煙習慣(過去喫煙、現在喫煙)」が発症リスクの増加となる。特に今回の研究では、喫煙していたときの積算喫煙本数が多い人、40歳未満での禁煙、また禁煙後の期間が5年以内では、発症リスクの増加が顕著であった。

 鈴木氏によると、UCについては禁煙の他、「禁酒」も発症リスクの増加につながることが示されている。「詳細は分かっていないが、たばこもアルコールもそれ自体の問題に加えて、禁酒の場合はストレスの影響が大きいと考えられる」(同氏)。UCでは免疫力を低下させるストレスは明らかな悪化要因で、例えば新年度が開始し、各種ストレスが増大すると想定される時期などは発症率が高くなる傾向にあると感じているという。

 同氏が診察で患者と話す際も、CD患者には「絶対に禁煙」と指導するが、現在喫煙・飲酒習慣があるUC患者には「ほどほどに...」と伝えているという。なお、CDでの飲酒については一般的に勧められない。

 また砂糖類の高摂取でIBDの発症が増加することは、これまでの研究でも報告されており、これと一致する結果であった。また糖類の代謝に関連するビタミンB1を多く摂取していた人では、UC発症リスクが低下していたことから、糖類の蓄積がUC発症に関与している可能性も示唆されたという。

 この他、IBD発症リスクの増加には蛋白質や脂肪の高摂取、リスク低下には果物・野菜、食物繊維の高摂取の関与が示唆されていたが、今回の研究では、ミカンやイチゴ、こんにゃく、きのこ類の高摂取など、一部でのみ一致した所見が認められた。

UCとCDは全く別の病態

 このように、たばこ1つとっても、UCとCDは全く別の病態であることが分かる。IBDの治療体系を劇的に変化させたといわれる抗TNFα抗体製剤の効果についても、CDでは患者の9割前後に有効だが、UCで効果があるのは6割前後である。

 この点について、鈴木氏は「両者とも解明されていない疾患ではあるが」と前置きした上で、「CDについては、基本となる病態は比較的均一だと考えている」と考察。一方、UCは非常にさまざまな要因、多様な病態を含んでおり、成り立ちが複雑だと考えられているという。

 同研究班では3年ごとにプロジェクトが実施されており、引き続き同研究班の研究代表を務める同氏は「今後の3年間(2017~19年)では、CDにおける危険因子などの研究を継続して病態の解明に寄与したい」と述べた。

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