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指導したのに、ネット情報を信じるのはなぜ?

2017年06月21日 17:30

Fizz-DI 児島悠史

お笑いコンビ「インパルス」の堤下さんが、睡眠薬を2種類(レンドルミン:一般名 ブロチゾラム、ベルソムラ:一般名 スボレキサント)と抗アレルギー薬(アレジオン:一般名 エピナスチン)を飲んだ後に自動車を運転し、朦朧とした状態で発見されたという報道がありました。会見では、医師・薬剤師から薬は「寝る前」に飲むよう指示されていたにも関わらず、インターネットで「効くまで多少時間がかかる」という情報を見て自己判断してしまった、という経緯が説明されていました。

この「効くまで多少時間がかかる」という情報は、大きく間違ったものではありません。実際、レンドルミンやベルソムラを飲んでも、1秒で眠るわけではありません。

しかし、この情報が今回の間違った自己判断の1つの要因となってしまったことに違いはありません。何が問題だったのでしょうか。

インターネットでは自分にとって都合の良い情報を選んでしまう

「睡眠薬を飲んだ後、10分くらいなら運転しても良いか?」と医師や薬剤師に聞けば、確実に「ダメ」と返答されます。もし薬を飲んで運転すれば、今回の事故どころではない大惨事を起こしかねないと簡単に予測できるからです。

しかし、専門知識がなければこうした予測はできません。特にここで注意したいのは、このような質問の背景には「10分くらいなら運転しても大丈夫であってほしい」という本人の希望的観測が隠れている可能性がある、ということです。

インターネット上には膨大な量の情報が蓄積されているため、情報の取捨選択は非常に難しくなっています。

そのため、ちょっとした調べものをする際には、自分の希望的観測を後押ししてくれるような「都合の良い情報」だけを選んで読んでしまう傾向があります。つまり、たとえ「服用後は運転してはいけない」という情報が100個あったとしても、「効くまで多少時間がかかる」という表現を1つ見つけたら、それを基にして「よし、やっぱり大丈夫だ」という自己判断につながってしまう場合がある、ということです。

今回、睡眠薬に関する情報がインターネットを介して専門知識のない人に渡った結果、都合よく解釈されて間違った自己判断の後押しになってしまいました。これは、インターネット上の医療情報は「明らかな間違いでなければ、それで良い」というわけではない、という警鐘にもつながると思います。

質問の裏に潜む真のニーズを探る
~薬剤師に聞いてもネットで調べても同じ...にならないために 

患者さんから「この睡眠薬は、どのくらいで効く?」という質問を受けたとき、「10分くらいです」と一般的なデータだけで返答している薬剤師はいないでしょうか。それでは、せっかく専門家に相談しても、インターネットで都合の良い情報を選んで読んだ場合と同じ結末を迎えてしまうことになります。

睡眠薬がどのくらいで効くのか?という疑問の裏には、例えば「ちょっとくらいなら運転しても大丈夫だろうか」という考えや、あるいは「10分経っても眠れない場合は追加で飲むべきだろうか」という疑問があるはずです。

質問を受けた際には「なぜこんなことを聞いてきたのかな?」と少し立ち止まって考え、意図がわからなければ「この薬で何かお困りのことがあるのですか?」と尋ねるなどして、質問の裏に隠れた真のニーズを探り、解決策を提示する。こうした、生身の薬剤師にしかできない情報提供をする必要があります。

情報収集はしても、判断は専門家に

今回の報道を受けて、「やはり医療情報はネットで調べてはダメだ」という論調になっていることは、大変悲しいことです。インターネットという便利な情報収集のツール、医療情報だけが例外となって良いわけはありません。

私は、インターネットに情報を求めたこと自体が間違いとは思いません。インターネットを使えば、薬や病気についても多くの情報、さまざまな意見に触れることができます。

しかし、いくら情報を収集しても、それらを基に適切な判断を下すことは専門知識無くしては、できません。今回のケースでも、「睡眠薬は効くまで多少時間がかかる」という情報を基に、「じゃあ10分くらい運転しても大丈夫」という間違った自己判断が行われてしまいました。

インターネットで情報収集をする場合は、自分に都合の良い情報だけをつまみ食いしないこと、また何かを判断・行動しようとする場合には必ず専門家に相談する、ということは広く伝えていきたいと思います。

【コラムコンセプト】
TV・新聞・週刊誌・インターネット......毎日さまざまなメディアから大量の健康情報が配信されます。それを見た患者さんが「こんな情報を見たけれど、私の治療って大丈夫?」と聞いてきたらどうしますか?医療や薬に関する情報は、命に関わるもの。正確さ、専門性が求められます。薬剤師は薬の専門家として、患者さんの持ち込んだ情報が適切かどうかを判断し、対応しなければなりません。このコラムでは毎月、世間を賑わした健康情報をリストアップし、必要に応じて解説します。患者さんからの突然の質問に困らないよう、情報収集の一手として役立てて頂ければ幸いです。

【児島 悠史氏 プロフィール】fabf9fbe.jpg京都薬科大学大学院修了後、薬局薬剤師として活動。「誤解や偏見によって生まれる悲劇を、正しい情報提供と教育によって防ぎたい」という理念のもと、日々の服薬指導のほか、Webサイト「お薬Q&A~Fizz Drug Information」を運営。医学論文などを情報源とした信頼性のある医療情報や、国民の情報リテラシー向上を目的とする記事を配信。

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