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緊急時は父島-母島間で医薬品の融通

母島での薬剤師業務 その2

2017年06月23日 10:30

6月と言えば梅雨。父島は2週間ほど前に大雨が降り、一夜にしてダム貯水率が回復、水不足脱出となりました。湿気が多く天気が悪い日の多いこの時期に、私は体調不良になりやすく、気持ちも沈みがちです。旅人気質な私でもこんな季節には、遠い故郷や地元の友達への気持ちを歌った西野カナのMyPlaceという曲が、なぜか妙に、心に染みます。

5月下旬から6月上旬にかけては、診療所の受診者が増えて忙しいです。私と同様に、島民も梅雨時期に心身の調子を崩しやすい傾向があるようですし、五月病やGW疲れによる受診もあるのかもしれません。しかし、大きな理由は別にあります。年末年始やドック期間直前には患者さんの受診が集中します。その半年後の今の時期は、60日処方と90日処方の受診サイクルが重なるわけです。

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目次

  1. 緊急時は、都内に発注して納品を待つよりも、隣の島から融通するほうが早い
  2. 島の医薬品在庫は、融通の可能性も考慮して確保
  3. 父島でマイコプラズマが大流行、欠品した抗菌薬を母島から融通
  4. 使い切る前に期限が切れる大容量の医薬品は、父島と母島で共同購入
  5. 使いやすい剤形の後発品に切り替え、父島母島の共同購入で在庫圧縮できたケース
  6. 融通する医薬品の配送は、専用の封筒で

緊急時は、都内に発注して納品を待つよりも
隣の島から融通するほうが早い

それでは、本題に入ります。今回も、母島での業務について紹介します。

前回お伝えしたように、年に数回の母島への出張では、主に、母島と父島での採用医薬品の統一と後発品の採用促進に取り組んでいます。しかし、薬剤師が母島に関わるのは出張時に限らず、普段、父島にいるときも母島診療所との連携を行っています。採用品の統一が進んだことで、だいぶ連携がしやすくなりました。今回は、連携業務の中で最も多い、緊急時の医薬品の融通について、少し話をしたいと思います。

島の医薬品在庫は
融通の可能性も考慮して確保

例えば、母島で医薬品が予期せず大量に使われた場合。都内の卸に発注して納品を待つよりは、父島から融通するほうが早いことが多いです。

特におがさわら丸の東京出港前日に医薬品が大量に使われてしまった場合は、欠品が1週間続くことにもなりかねません(即座に発注しても次のおがさわら丸の東京出航が1週間後になるからです)。このようなときは、父島の在庫から可能な限り融通をつけます。

こういった「有事」に即応できるように父島での在庫量を設定しているので、「そもそも父島に採用が無い」場合を除けば、概ね融通をつけることはできています。

逆に、父島で予想外に医薬品が使われた場合には、母島から融通をつけてもらいます。こちらも有事に備え、母島ではどの医薬品がどのくらいの在庫を持っているか、出張時に見て覚えるようにしています。

これは、ことば通り「見て覚え」ます。外来で薬が出れば在庫は変動しますので、メモを取っても無意味だと思っています。それに、両診療所で採用している医薬品は、父島診療所のほうが圧倒的に多く在庫を持つものがほとんどです。父島診療所から融通可否を問い合わせる品目は、抗生物質などに限られるため、覚えるくらいは十分できます。

昨年、母島における医薬品在庫目安量を初めて設定しました。この目安量は、有事に父島へ融通する可能性を考慮しています。

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母島診療所。港からだと徒歩10分弱だが、途中にかなりの勾配がある。人口が少なく、老人ホーム併設ではないため、父島に比べて建物はコンパクトである。それでも一通りの機器はそろっている。そういえば、内地に帰ったとき、電話ボックスを最近見かけなくなったと感じた。携帯電話の普及のせいだろうか。島内でも携帯電話は普及しているが、携帯ショップはなく、上京しないと買えない。修理はできるところがあるらしいが、詳しくは知らない。基本的には故障時は内地へ送って修理、ということになるか。私は、不測の事態に備え、携帯は2台契約している。ちなみに島に設置されている携帯電話アンテナのメンテナンスなどで、数時間ほど電話がつながりにくくなるような場合は、防災無線で注意を促される。

父島でマイコプラズマが大流行
欠品した抗菌薬を母島から融通

父母の連携の重要さを、強く思い知ることになったきっかけは、数年前の秋、マイコプラズマが父島で大流行したとき。前にも書きましたが、このときは台風によるおがさわら丸の欠航が重なり、大変でした。薬の在庫が急速に減る中、1カ月前に出張したときに見た母島の在庫を、必死で思い出しました。

「......母島のアスベリンシロップは瓶入りなので、輸送自体が面倒。アスベリン散は父島不採用。たとえ融通してもらっても、父島の看護師さんにとって、普段採用の無い散剤を突然(特に夜間や休日)扱うには、負担が大きい。どちらにせよ、アスベリンの在庫量は、融通してもらうには少なかった。......そういえば母島にクラリシッドのドライシロップ、未開封の瓶が1つあったはず。平時、父島でのクラリシッドDSの処方を見ていると、かなり少ない(感染症流行でもない限り、半年で3人いるかどうか程度)。......ジスロマック錠(父島ではこのとき不採用)も母島に18人分くらいあった。これは歯科でも使われるが、さすがに医科歯科合わせても1カ月でジスロマックが10人以上に処方されるわけがない。だとすると、これらは今もそっくり残っているはず。」

ここまで考えたら、即座にデスクの電話を取って、母島に融通を問い合わせます。もちろん、読みは全く外しませんでした。未開封のクラリシッド1瓶とジスロマック10シートを母島から融通してもらい(同時に母島ではマイコプラズマ患者はゼロなことも確認)、ははじま丸の臨時運航に合わせて受け取りました。母島から融通してもらったこれらの薬は、危機を乗り切る大きな力となりました。また、この時得られた貴重な経験は、以後、在庫量の設定に大いに役立ちました。

※父母(ちちはは):父島診療所と母島診療所を合わせて呼ぶときは、面倒なので「ちちはは」とまとめて言う場合が多い。「ふぼ」とは読まない。

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小剣先山から母島元地地区を眺める。集落東側にある小剣先山は、山頂まで10分少々で登れる(ただし集落内にある登山口の看板が小さく、少々わかりにくい)。右側のグランドが母島小学校中学校、その左側の上り坂の先が診療所。左端、船(共勝丸)が泊まっている少し手前に、沖港ターミナルの建物が見える。眼下には役場や商店など、島の重要施設が集まる。沖港ターミナルのさらに奥(漁協以外は山に隠れている)が静沢(しずかさわ)地区となる。

使い切る前に期限が切れる大容量の医薬品は
父島と母島で共同購入

医薬品の融通だけでなく、医薬品の共同購入のようなこともしています。例えばタンナルビン末。当診療所での採用は、500gの缶入りのパッケージです。しかしいくら採用品とはいえ、これだけの量を使用期限までに使い切るのは難しいです。父島で、使い切る前に使用期限が切れてしまった時、「母島に缶入りの在庫があった、期限まであと半年くらいだった」と思い出し、大人量で分包したものをとりあえず30日分(90包)、送ってもらいました。以後、父島で処方された場合は、処方数と同数を母島の在庫から補充(つまり、常時30日分(90包)を確保)、期限が切れたときは母島で500gを購入し、父島で必要な時にわけてもらう「共同購入体制」となりました。

使いやすい剤形の後発品に切り替え
父島母島の共同購入で在庫圧縮できたケース

もう一つ例を挙げましょう。普段院内処方がほぼ出ない(処方されるのは院外処方が間に合わない場合くらい)デパケン錠のケースです。母島の在庫品の期限が1カ月後に切れるということで、融通依頼を受けました。そこでデパケンRの後発品(院外薬局さんの採用品と同じもの)を私が父島から発注し、届いた後発品100錠のうち、一部を母島へ送りました。母島では、先発品の期限切れと同時に後発品へ切り替えました。その数か月後に、父島でデパケンの期限が切れると、父島もデパケンRの後発品(残り)へ切り替えました。このケースでは、在庫圧縮と、後発品への切り替え、使いやすい剤形への変更、さらに共同購入体制への移行を全て、短期間で成し遂げました。このように、院内処方がほぼ出ないために在庫を使い切れない医薬品は、通常なら採用中止とするのですが、院外処方の患者さんがそれなりにいるときは、即時対応のために院内処方になる場合があるため、簡単に採用中止にはできません。

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沖港ターミナルには、最近白い屋根の待合所が設置された。ターミナル前の道を向かって右へ行けば元地(もとち)地区、左(コンテナ裏、土に潜るクジラの横の道)に進めば静沢地区。前者に役場や診療所や商店、後者には漁協があり、宿はどちらにもある。診療所関係者は用務時、ほぼ全員が(診療所に近い)元地地区の宿に泊まるが、私だけは遠い静沢地区の宿を定宿にしている(診療所まで徒歩10分ほどかかる)。薬剤師の出張は直前に決まることが多い。診療所スタッフの定宿は人気があるらしく、私が予約しようとするといつも満室。そんなとき、たまたま泊まった静沢地区の宿が、きれいで料理もおいしかった。以来なんとなく、その宿が母島での定宿になっている。島民で、しかも年に数回利用しているせいか、宿から年賀状を頂戴したりもする。

融通する医薬品の配送は
専用の封筒で

医薬品融通時の配送手段は、主に「交換便」を用います。交換便専用の封筒は再利用できるようになっており、送信者と部署、受信者と部署を書き込む表形式の宛名台紙が貼ってあります。主に、父島の小笠原村役場や父母それぞれの診療所、小笠原村役場の母島支所など、離れた部署のやりとりに用いられます。これに薬を梱包して母島診療所(受信者は融通を問い合わせてきた職員)へ送付すると、翌日の船で運ばれ、午後には母島へ着きます。

回収品の量が多い場合など、交換便の封筒に入らないようなものは、段ボールに詰めて郵便で送ることになります。あるいは、誰か母島へ出張する職員がいた場合、頼んで持参してもらう場合もあります。

同じ村の診療所とはいえ、連携は一筋縄ではいきません。それでも、このように、(麻薬など特殊な取り扱いを要する一部の医薬品以外は)融通しあうなど、できる限り連携して業務をこなしています。

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役場や関係機関の、父島-母島間における、ちょっとした物や書類のやりとりには、「交換便」と呼ばれる封筒が用いられる。送付元に自分の部署と名前、送付先に相手方の部署と名前を記入する。薬も小さいものならこれに入れる。小笠原に限らず、複数の離島にまたがる自治体は、島同士のやりとりをする場合、およそどこもみんな似たような方法を取っているのではないだろうか。必要時にいちいち郵送していては、費用がかかりすぎてしまう。 小笠原に来る少し前のこと、沖縄の座間味村へ(遊びに)行ったとき、有人離島である座間味島と阿嘉島をつなぐ村内船の航路に乗る機会があった。私が乗った便の客は、私以外にわずか2人。明らかに赤字なはずなのに、なぜ運航しているのか、当時はわからなかった。小笠原で働いてみて初めて、座間味の村内船は「村を構成する離島内の、物資のやりとり」という重要な役割があることに気づいて、納得した。

【コラムコンセプト】
僻地や離島の薬剤師業務って、給料は高いだろうけど、周りに何にもない不便な所で大変そうなイメージがある。それに不便な地で「生活」もしていかなければいけないから結構な覚悟が必要そうだ。......けど実際のところはどうなの?そんな興味と疑問を併せ持つ薬剤師のために、日本で最も行きにくい離島で働く薬剤師が送るコラム連載。良い面悪い面全てを含め、離島におけるありのままの薬剤師業務や生活を、面白おかしくお伝えしていけたらと考える。堅苦しい薬の記事の合間にここを読めば、「私は都会でないと無理だ...」と思っている人も、(保証はできないが)案外すんなり僻地でもやっていけるかもしれない。

【小西良典氏 プロフィール】cfe16ed4007e8fd8d26248d6a2afad043c7a3e9f.jpg
大学卒業後薬学部ではなく理学部の大学院に進学。博士課程を中退。その後、ドラッグストアなどで働きながら全国を旅する生活を続けて8年あまりのある日、旅行先の小笠原村が薬剤師を募集していることを知り、勢いで出願。見事採用され、以後、父島の診療所に勤務。旅行経験から、全国どこの街でも道に迷わない自信がある。趣味は工作、パソコン、料理、ロシア語など多数。最近は、毎日録画をしている昼の映画や海外ドラマを片付けるだけで週末が終わっていく。

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