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みんなでEBMを楽しく学ぶ!

2017年06月28日 10:30

 EBMの実践に必要な英語論文。しかし、英語論文を実際に検索して読み込んでいくのはハードルが高いという方もいるだろう。今回、EBM初学者向けのワークショップが開催されたので、その模様をお届けする。

※Evidence Based Medicine、科学的根拠に基づく医療

【ワークショップ概要】

みんなで愉しくEBM!エビデンスを探して読んで行動しよう!!

日時:2017年6月10日(土) 14:00~17:50

講師:青島周一(医療法人社団徳仁会中野病院)、桑原秀徳(医療法人せのがわ瀬野川病院)、黄川田修平(つばさ薬局)、稲生貴士(医療法人社団慈恵会新須磨病院)、村田繁紀(医療法人栄仁会宇治おうばく病院)、岡本淳志(日本調剤三条薬局)、細川智成(公益財団法人慈圭会慈圭病院)、山本雅洋(ヤナセ薬局)  

会場:東京都台東区花川戸1-3-2 井門浅草ビル5F

主催:特定非営利活動法人アヘッドマップ(AHEADMAP)

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臨床疑問の整理

 EBM実践のためには5つのステップがある。本ワークショップは、このステップ1~4までを実践してもらい、「自分にもEBMを実践できる」と実感してもらうことを目的として開催された。

ステップ1:疑問の定式化
ステップ2:疑問についての情報収集
ステップ3:情報の批判的吟味
ステップ4:情報の患者への適用
ステップ5:一連の流れの再評価

 ステップ1の疑問の定式化には、PECO(ペコ)を用いる。PECOとは、前景疑問を構成する4つの要素で、対象となる患者個別の情報、人口集団(patient、population)、主な介入、曝露、検診、予後因子(intervention、exposure)、比較対照(comparison)、臨床的な成り行き(outcome)の頭文字を取ったものだ。特にOの部分は「真のアウトカム」(患者の生命や生活に直結する指標)と「代用のアウトカム」(真のアウトカムに対する影響を予測する指標)の2つに分けられる。

 「臨床疑問をPECOで定式化するときは『HbA1c(代用のアウトカム)が下がれば合併症や総死亡(真のアウトカム)も減るだろう』といった考えや常識にとらわれないことが大切だ」と青島周一氏。なぜならば、血糖値やHbA1c、血圧といった代用のアウトカムの値が改善すれば、合併症や総死亡といった真のアウトカムにも良い影響を与えるように思えるが、実際はそうでもないということがさまざまな研究で示されている。例えば、2型糖尿病患者約1万人を対象にした研究では、HbA1c 6%未満を目指して治療した群(厳格治療群)は、7~7.9%を目指ざして治療をした群(標準治療群)と比べて、心血管イベントはやや少なくなった(統計的有意差はない)が、総死亡は厳格治療群が標準治療群よりも22%多くなってしまったという(N Engl J Med. 2008; 358(24): 2545-2559.)。

 さらに、患者さんとコミュニケーションを通じて、その患者さんにとって一番重要なアウトカムは何なのか検討することが肝要であると付け加えた。

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普段の業務中などで思い浮かぶ疑問を、PECOで定式化する練習中の参加者たち

どのような論文を、どのように読めばいいのか

 EBMのステップ2にあたる情報収集は、「まず臨床疑問をPECOで定式化し、目的を明確にしてから情報収集することが重要」とした上で、どのような情報を優先的に参照するか3つのポイントを挙げた。1つめは「研究対象」で、ネズミなどの動物を対象とした基礎研究ではなく、ヒトを対象にした臨床研究を優先する。2つ目は「比較対照」である。薬剤使用群とプラセボ群にランダムに振り分けることで、交絡の影響を小さくすることができるランダム化比較試験が、比較妥当性の高い研究デザインと言われている。3つ目は「臨床的意義」で、代用のアウトカムを比較した研究も多いため、真のアウトカムが検討されたランダム化比較試験を優先的に参照することが大切だという。

 本来、原著論文に当たるべきではあるのだが、いきなりPudMedなどで英語論文を検索して読むことはハードルが高く、時間もかかるという読者も多いだろう。そこで、あくまで「EBM実践のためのはじめの一歩」として、Googleなどの検索サイトで日本語による情報検索方法が提案された。

Googleなどの検索欄に、「KEYWORD+地域医療日誌」あるいは「KEYWORD+巻物」、「KEYWORD+研究デザイン(専門用語)」を入力する
例)「心臓病 地域医療日誌」「地中海食 ランダム化比較試験」

 このように検索すると、薬剤師が論文を読んでブログなどにまとめているものがヒットすることがある。今までそのテーマについて調べている人がいれば、それらをうまく活用し、短い時間で簡単に論文情報を得ることができる。

編注)KEYWORD+PharmaTribuneで検索しても役立つ情報が得られることがあるかもしれません。

 情報収集後、EBMのステップ3に進む。情報を批判的吟味する際に注意すべきポイントは次の5つである。

  1. ランダム化されているか・・「randomized」「randomly」といった単語で判断できる
  2. 論文のPECOは何か・・・臨床疑問のPECOと合致するかチェックし、それぞれのP(患者背景)に違いがある場合、結果をどの程度適用できるのかを考える
  3. 一次アウトカム(primary outcome)は明確か・・・臨床試験において最も優先順位が高い評価項目で、仮説が検証できるのは一次アウトカムだけである。ただし、一次アウトカムが複数設定されていると、偶然の影響が大きくなるので注意が必要
  4. 真のアウトカムか・・・代用のアウトカムであれば他の論文を探す
  5. 盲検化されているか・・・非盲検、単盲検(患者のみ盲検化)、二重盲検(患者および医療者を盲検化)、PROBE法(アウトカム評価者のみ盲検化)があるが、二重盲検がもっとも妥当性が高いと言われている

 ここで、地中海食が心血管イベントの発生リスクにどのような影響を与えるかを検討した論文1のアブストラクトを5分で読む練習を行った。読者もぜひ挑戦してみてほしい。

アブストラクト チェックポイント

  • ランダム化されているか・・・「randomly」発見→OK
  • 論文のPECOは・・・P:心血管リスクが高い患者で、心血管疾患の既往のない患者、E:地中海食にエクストラバージンオリーブオイルを加えた群、もしくは地中海食にミックスナッツ類を加えた群、C:脂肪食を減らすようアドバイスを行った群、O:重大な心血管イベントはどうなるか
  • 一次アウトカムは明確か・・・心筋梗塞、脳卒中、心血管死亡をまとめて重大な心血管イベントとして考えている→OK
  • 真のアウトカムか→OK
  • 盲検化されているか→されていない
  • ハザード比と95%信頼区間・・・オリーブオイル群は0.70(0.54 to 0.92)、ナッツ群は0.72(0.54 to 0.96)で、ともに有意にリスクを減少させる

 「論文は読んだ後が勝負」と述べるのは山本雅洋氏。EBMのステップ4、患者への適応に当たる部分だ。先ほどの論文を、下記症例にどう当てはめるべきかグループディスカッションが行われた。

Aさん 63歳 女性 

  • 現病歴は2型糖尿病と高血圧
  • HbA1c 6.9%、血圧120/70mmHg
  • 治療には積極的で、よいと聞いたものは試したい性格
  • 子供は独立しており、夫と2人暮らし
  • 本人は非喫煙、機会飲酒。アレルギー歴なし。食品の好き嫌いもない
  • 両親も糖尿病、高血圧を患っており、心筋梗塞の既往あり
  • デスクワーク中心の仕事
  • あなた(薬局薬剤師)は1年ほど前から関わるようになった
  • 知人から地中海食が生活習慣病によいと聞き、今回質問された

P:2型糖尿病、高血圧の63歳女性
E:地中海食を日々の食事に取り込む
C:普段通りの食事を続けた場合と比べて
O:心血管イベント(心筋梗塞、脳卒中)の発生は抑制できるか

 すると、全7グループは「地中海食を勧める」と意見が一致した。その上で、「積極的に試したい性格の患者さんのようなので、その気持ちを尊重する」「論文の患者背景と、この患者さん背景は一致しない」「経済状況や食生活の聞き取りが必要」「地中海食といえども摂り過ぎに注意」といった意見も挙がった。

 実際の臨床においては、地中海食を勧めたら患者さんはどう反応するのか、この患者さんはその後どうなるのかなどはわからない。この論文では、一次アウトカム発生率は全体で3.9%(288件)、オリーブオイル群では3.8%(96件)、ナッツ群では3.4%(83件)、対照群では4.4%(109件)で、ほとんどの患者さんは地中海食を5年弱続けても大して発生率は変わっていなかった。「全員が勧めるという結論を出したが、勧めないという意見があってもそれが間違っているとは言えない。論文でも臨床でも、どこかに明確な答えがあると思いがちだが、そういった考えからいかに脱却するかという姿勢が大事なのでは」と、山本氏は力説した(関連記事:正解のない世界で"応え"を創造しよう)。

 EBMを実践するには、エビデンスに加え、患者さんの置かれた環境や想いといった要素を考慮し、バランスを取りながら患者さんに向き合う必要がある。当然、単一のエビデンスだけでは臨床判断できないことがほとんどだ。そのためにも継続して論文を読み続ける必要性があるという。「再評価」も重要だ。自分が出した結論を目の前の患者さんに適用してどうなったのかを再評価すると、さらなる臨床疑問が生じるだろう。常にEBMの5つのステップを反復していく大事で、どうすれば患者さんがより幸せになれるのか、そのために自分たちに何ができるのかを考えてみるのがよいという。

 最後に、「エビデンスという新しい武器を手にすると、それを持っていない人たちに比べ、自分が優位に立っているような錯覚を持ってしまいがち。しかし、本日行ったようなディスカッションを職場で行うと、自分が思ってもみなかった重要な意見が出るかもしれない。異なる意見を戦わせて、患者さんにとってより価値のある答えを出すのがEBMの醍醐味である」と山本氏は締めくくった。

ワークショップ参加者の感想

薬学生:実務実習中、患者さんにありきたりなことしか話せず、EBMや今回の研修会が、それを改善する一手になればいいなと参加しました。患者さんの相談内容を踏まえた症例を学べたのはすごく良かったです。一通りの流れを見ることができたので、持ち帰って役立てていきたいと思います。

病院薬剤師:講師のツイートがリツイートされているのを見て、今回参加してみました。病院や薬局、他職種の人たちとこんなに話せるとは思っていなかったので、考える幅が広がってこれからの業務に活かせそうだと感じました。

薬局薬剤師:今回の研修会の醍醐味は、いろんな方と話していろいろな考えを共有・統合し、目の前の患者さんに役立てることができる点ですね。1人で論文読んでも、良い考えってあまり浮かばないので。

元病院薬剤師:病院で働いているときは、論文を自主的に調べるということはあまりなくて、MRさんに頼んで持ってきてもらってそれを読んでいたのです。そのため、アウトカムの判断もあまり自分でしていませんでした。医師を含め、他職種の人と共通言語で話せるように、EBMの方法を知れて良かったです。

1)Estruch R, et al. N Engl J Med. 2013; 368(14):1279-1290. PMID:23432189

特定非営利活動法人アヘッドマップ(AHEADMAP)の設立代表者である桑原氏に突撃インタビュー!あれこれ聞いてみました。詳しくはこちら→ 「医学論文も添付文書と同じくらい身近に」

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