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趣味はジャスティス!

本を愛し、本に愛され

2017年06月28日 11:30

夫との共通の趣味が読書なので、平日の休みが合うと必ず二人で本屋へ行く。好きな作家の新刊発売日をことごとくチェックしている夫は、片っ端から買いあさる。だが、最近の私は、面白い本を探して買いたいという気分が、以前ほどわいてこない。読む時間がなかなか取れずに積ん読ばかり増えているからだ。本棚の背表紙を眺めるのも、なんだかおざなりになる。

そういえば御義母上様(おははうえさま)から、「子供の誕生日に歴史まんがのセットを買ってあげる」と言われていたっけ。

学習まんがコーナーに行ってみると、子供向けの歴史まんがセットが何種類も並んでいた。歴史上の偉人や戦国武将がアニメみたいなイケメンに描かれていて、これが学習まんがなのかと驚いてしまう。こういう絵柄にも好みがあるだろうし、せっかく買うのだから興味を持って読みたくなるようなものを選んでやらないと、と思いながら、ふと我に返った。

せっかく本屋に来たのに、子供の本を選ぶだけでおしまい?

母親として、子供のためにしてやりたいことはたくさんある。だけど、自分の趣味のための時間が、いつの間にか子供のための時間に全部すり替わってしまうなんて。活字中毒で、何か読んでいないと間が持たない私が、自分の読みたい本を探す時間を放棄してしまうなんて、そんなのあんまりじゃないか?平日の静かな本屋の売り場で、切実にそう感じた。

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読書に限らず、自分の好きなこと、すなわち趣味を持つことは、単なる気晴らしにとどまらない効用がある。

例えば、何かを作る趣味。手芸や料理を作ったり、小説や絵を描く人もいるだろう。それら「つくる」という行為は、「自分にとって価値ある何かを作り出せる」「価値ある世界を生み出せる」という自己効力感につながる。

つくる技術が向上すれば自信になる。これはスポーツ競技や楽器演奏のような趣味にも通じる。向上したという自信は、「自分はこれでいいのだ」「他のことでも自分は向上できるはず」という自己肯定感になる。そして、「作り出す」「競技する」という行為は、「こんな自分が、世界に対して何者かであり得る」という自己実現につながる。

自分では何も作らず、演奏も競技もしない趣味もある。音楽や映画観賞、アニメやアイドルにはまるのも趣味だ。旅行や食べ歩き、最近では城郭や工場夜景を見るのが趣味という人もいるらしい。これらの趣味は何も生み出さないし、社会に何の貢献もしない。しかし、「ただ、それをするだけで楽しい」と思う気持ちを何者からも否定されることなく、そんな自分を好きでいられる。

自分が自分らしくいられるために、何かを好きでいる。誰だって、その「何か」が必要なのだ。全ての時間は家事や育児のためだけのものであって、母親になったら自分の趣味なんて諦めるのが当然、なんてことはない。

中には、料理とか裁縫、子供の世話、生花などの"女性らしい"趣味を楽しむ人もいるだろう。女として、母として、妻としてそうすべきだからという押し付けの価値観ではなく、他の誰でもない自分がしたいから、それを好きだからするのだ、というのであれば、それはまごうことなき趣味だと言える。同様に、まるで女らしくもなく、母親らしくもない趣味を持っていてもぜんぜん構わないはずだ。

昨今は、歴女とか、刀剣女子、鉄道女子などが注目される。しかし、そういう分野に没頭する女子って、実は昔からいたはずだ。歴史だの電車だの、男の人が好きになるものを好きな女なんて変だ。もっと可愛らしい趣味を持たないとーーそんな風潮だったから、隠れてハマっていただけで。だけど、もうそんな時代じゃない。女らしい趣味でなくたって、漫画やゲームみたいに子供じみたものが好きだっていい。

自分がしたいから、楽しいから、すればいい。そこに「母親」とか「妻」とか「女」とかいう属性は関係ない。働く母親にだって、いや働いていなくたって、母親でなくたって、もちろん男性だって同じだ。どんな人間にだって、そういう時間が必要なのだ。

職場や家で働くこと、子育てすること、それらを含めて生きていくことは決して楽しいことばかりではない。それでも、どうにかこうにか生きていかなくてはならない。だから、自己実現と自己肯定感をよすがにして、生きている。

自分肯定力が増し心にゆとりが生まれれば、他人を尊重する気持ちも生まれるだろう。

趣味を諦めたらダメ。趣味はジャスティス(正義)なのだ。

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結局、歴史まんがは後日、子供と一緒に本屋に行って自分で選ばせることにした。

そして自分には、たまたま見かけて面白そうだと思った本を2冊買った。また積ん読が増えることになるが、なんとかして読む時間を作ればいい。

......いや、そんなことよりもむしろ問題なのは、こうして2人がかりで増やし続けている本の保管場所である。私の本はついに本棚からあふれて床の間に積み上がり始め、夫の蔵書はすでに2階の一室を完全に占拠している。果たして我が家の2階の床は、いつまで持ちこたえることができるのだろうか......。

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【コラムコンセプト】
仕事に家事に育児と、目まぐるしい日々を送る母親薬剤師。新薬や疾病の勉強もしなきゃいけないが、家のことだっておろそかにできない。追い立てられるように慌ただしい毎日だ。そんな中で、ふと立ち止まり、考える。「働く母親って、どうしてこんなにいろんなものを抱え込んでしまっているんだろう?」「薬剤師の業務って、どうしてこんなふうなんだろう?」忙しさに紛れて気付けずにいる感情に気付いたら、働く母親に見える景色はきっといくらか変わるだろう。日常の業務に埋もれたままの何かを言葉にできたなら、薬剤師を取り巻く世界も少しずつ変えていけるだろうか。


【へたれ薬剤師Kiko プロフィール】Hetare_kiko_columm.png

卒後9年間病院勤務ののち、結婚を機に夫の地元で調剤薬局に転職。産休育休を経て、現在は中規模チェーン薬局にフルタイムで勤務。アラフォー。8歳の息子、夫(not薬剤師)と3人暮らし。食事は手抜き。洗濯は週3回。掃除はルンバにおまかせ。どういうわけだか「コトバ」に異様にこだわる。座右の銘は「モノも言いようで門松が立つ」。(Twitter:@hetareyakiko)

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