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母島での廃棄ゼロは夢じゃない!?

母島での薬剤師業務 その3

2017年06月30日 10:30

噴火して新しい島ができた、島面積が拡大したと、数年前から世間を騒がせている西之島とその付近。6月4日に、おがさわら丸に乗って西之島を見に行くツアーがあり、参加してきました。当日はかなりの悪天候でしたが、今回のような特別な企画でもない限り、絶対に見ることができない西之島の近くまで行くことができてよかったです。これで小笠原村の島のうち、「まだ見たことのない島」は、沖ノ鳥島と南鳥島だけになりました。

ちなみに、母島の沖港が母島の西岸にあるので、ははじま丸は母島の西側を航行します。島を東側から眺めることは、なかなかできません。

小笠原諸島 地図web.png
※西之島は、おがさわら丸やははじま丸の航路上になく、今回のような特別な企画でなければ、西之島を見に行くツアーなども普段は無い。

目次

  1. 補充時に出た空き箱の数だけ発注
  2. 手の空いた時間に、在庫の期限を確認
  3. 期限切れが迫る在庫は、父島へ回収
  4. 最低限確保しておきたい在庫数を設定
  5. 母島の廃棄をゼロにするために、父島との採用品統一が重要

補充時に出た空き箱の数だけ発注

前回に引き続き、母島での業務を紹介します。今回は、母島の在庫管理業務についてです。母島診療所での在庫管理は、基本的に父島と同様(関連記事:台風シーズン、在庫管理をどうする?)。在庫から薬棚に補充した時に出た空箱の数だけ発注する要領で行っています。

母島の人口は父島よりもずっと少なく、患者数も少ないので、在庫管理が難しくなります。医薬品の期限切れが避けられないのも、父島と同様です。もっとも、母島診療所勤務の看護師さんが3人態勢になって業務に余裕ができてからは、在庫管理にも十分に手が回るようになり、期限切れ廃棄は減りましたが。

患者が少ないと在庫管理が難しくなるわけ

患者が少ないと、必然的に処方数も少なくなります。包装単位によっては、使用期限切れのリスクが高まります。かといって、小さい包装単位のものでは、イレギュラーに大量に処方されたら欠品しますし、よりこまめに発注しなければなりません。小包装をこまめに発注すると、同一医薬品で期限の異なるものの混在が増える原因になり、発注のみならず期限チェックも煩雑になります。こういった部分が難しいわけです。

手の空いた時間に、在庫の期限を確認

母島への出張を開始した頃、私は、母島診療所の在庫管理に注意を払っていませんでした。当時は、父島での在庫管理も十分ではなかったし、母島では後発品への変換と父島との医薬品統一業務を主に行っていたからです。しかし、「せっかく母島まで行ったからには、できるだけのことをして帰りたい」と、手の空いた時間に母島在庫の期限を調べたりするようになり、そのうち直感的に「これは確実に期限が切れる」と思うものをリストアップしていくようになりました。

写真1web.jpg

西之島その1。当日はこの通りの悪天候。父島からは3時間ほどで西之島近海までやってきた。クルーズツアーなので、上陸はできない。この島に限らず、東京島しょ部はどの島も、巨大な海底火山の一部分が海上に出ているのである。雨天にも関わらず西之島ツアーの参加者は多かった。硫黄島ツアーのときもそうだったが、私のように物見遊山で島を見に行く人だけでなく、カメラ機材を大量に準備しているバードウォッチャーも多い。よく知らないが、珍しい鳥も多いそうである。

期限切れが迫る在庫は、父島へ回収

例えばアルファロールカプセル。父島では少なくとも5人の定期服用患者がいますが、単純に両島の人口比で考えれば、母島では1人か2人程度しかいないことになります。期限があと2カ月後に迫っているアルファロールが母島に100カプセルもあったとしても、期限までに使い切れない可能性が極めて高いと言えます。一方で、父島で5人の患者がいるのなら、少なくとも1日あたり5カプセルが減っていき、100カプセルは20日程度で使い切れる計算になります。このように、期限切れが気になったものは、その場で父島の在庫との交換を決定し、母島の在庫に余裕のあるものは、期限が切迫した在庫のみを父島へ回収します。

※父島に戻ったら、母島での期限切れの近い医薬品と同一のものを同数、交換便で送ります。母島診療所がそれを受け取ったら、期限切れが近い医薬品を入れ違いで父島に送り返してもらいます。

写真2web.jpg

西之島その2。4月末に再度噴火して以降、今日も元気に噴火中。ジェット機の爆音のような音を立てて、休む間もなく噴煙を上げる。噴火しだした頃は、父島まで爆音が聞こえたこともあったそう(私が父島に赴任した直後くらいの話で、室内で仕事してたせいか、私は全然気づかなかった)。海岸では溶岩が海に落ち込んで水蒸気があがっている。現在の島の大きさは父島の二見湾くらいで、そこまで大きいわけではないが、迫力は十分。島から約2キロ沖合を、おがさわら丸は速度を落として周回する。噴火しても亜硫酸ガスなどの所謂「火山ガス」の発生は少ないそうで、溶岩に覆われなかった部分では植物が残っていたとのこと。島は海鳥の繁殖地となっているらしいが、これだけ騒々しいと逆に落ち着かないのではないかと、他人事ながら心配になってくる。

最低限確保しておきたい在庫数を設定

1年前から、母島でも最小在庫目安数を設定しています。父島と同様の手法で、過去3カ月分の処方箋を全部調べて、これまでの週ごとの処方実績や週単位の予想数を出します。これらを元に、台風時や緊急時の父島への融通を考慮した数を加え、最低限確保しておきたい在庫の目安とするわけです。

父島の医薬品在庫は、私がリアルタイムで把握できており、「このくらいあれば、普通なら期限切れ廃棄も欠品もない」という量を約400品目すべてについて覚えているので自分の裁量で発注ができますが、薬剤師が常駐していない母島ではそうはいきません。本来薬剤師がしなければならない薬剤の期限チェックや発注などの在庫管理業務は、母島では、看護師さんが行っています。

3人の看護師さんそれぞれが感覚的に捉える在庫の必要量は異なります。また、本来の看護師業務の合間に在庫管理を行っているので、作業を簡略化したり、過剰在庫を減らすために、「このくらいまで減れば発注が必要」という、ある程度統一した基準のようなものが必要です。

毎年のように医師が交代する母島では、それに合わせて処方傾向も変わります。つまり、定期的に在庫目安数を見直す必要があります。その対応も、出張時に行います。

母島での廃棄をゼロにするためには
父島との採用品の統一が重要

母島出張での仕事開始時刻は10時前。外来時間の真っ最中なので、私がその出張での主目的としている業務――後発品への切り替えや、採用医薬品の父島診療所との統一、または後述するイレギュラーな要件など――をすぐに開始するのは難しいです。午前中は外来業務の手伝いと、在庫医薬品の期限チェックを少しできるぐらい。午後の業務開始を待って、目的の業務に取りかかります。

期限が切れそうなものを全て父島に送ることを徹底すれば、母島での廃棄をゼロにすることも可能だと考えています。ただし、それには「期限が何ヵ月前になれば父島へ送る」という基準を、採用全品目について設定して、これを守る必要があるし、父島と母島の採用品が統一されていることが重要になります。

出張での業務はこういった感じですが、過去には「新しい分包機の導入」と、「麻薬の監査準備、対応」という、イレギュラーな要件の出張もありました。もちろん出張にはこうした要件を含む、本来の目的を果たすために行きますが、期限切迫品の処理などは主な目的ではなくても、出張のたびに行っています。

写真3web.jpg

こちらは母島、東海岸側。ダイビングツアーで沖合に出たりなどしない限り、なかなか見られない貴重な風景である。ただ、母島自体が「すぐに行ける島」であるせいか、いまいち感動が薄いのは仕方ないことなのか。この写真は3年前、おがさわら丸で行く硫黄島クルーズツアーの帰りに撮影したもの。夕方だったせいで逆光になり、あまりきれいに撮れなかった。母島も父島同様、岩でごつごつした場所が多く、南国をイメージさせるような白い砂浜は少ない。

【コラムコンセプト】
僻地や離島の薬剤師業務って、給料は高いだろうけど、周りに何にもない不便な所で大変そうなイメージがある。それに不便な地で「生活」もしていかなければいけないから結構な覚悟が必要そうだ。......けど実際のところはどうなの?そんな興味と疑問を併せ持つ薬剤師のために、日本で最も行きにくい離島で働く薬剤師が送るコラム連載。良い面悪い面全てを含め、離島におけるありのままの薬剤師業務や生活を、面白おかしくお伝えしていけたらと考える。堅苦しい薬の記事の合間にここを読めば、「私は都会でないと無理だ...」と思っている人も、(保証はできないが)案外すんなり僻地でもやっていけるかもしれない。

【小西良典氏 プロフィール】cfe16ed4007e8fd8d26248d6a2afad043c7a3e9f.jpg
大学卒業後薬学部ではなく理学部の大学院に進学。博士課程を中退。その後、ドラッグストアなどで働きながら全国を旅する生活を続けて8年あまりのある日、旅行先の小笠原村が薬剤師を募集していることを知り、勢いで出願。見事採用され、以後、父島の診療所に勤務。旅行経験から、全国どこの街でも道に迷わない自信がある。趣味は工作、パソコン、料理、ロシア語など多数。最近は、毎日録画をしている昼の映画や海外ドラマを片付けるだけで週末が終わっていく。

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