新規登録

小笠原ひとり薬剤師の休暇事情

2017年07月18日 10:00

 少し前ですが、私の連載を見た人に、「なぜペンネームにしないのか」と聞かれました。私が本名を名乗る理由は簡単、「離島で1人しかいない薬剤師。診療所HPには本名も出ている。どうせペンネームなんて使ったところで、5秒で特定される」から。それなら下手にペンネームなど用いる必要がないのは、言うまでもありません。

 さて、前回は突如として、小笠原からの退職宣言をし、誰か私の後継者になってほしいと言いました。けれど、小笠原唯一の薬剤師に立候補しようと少しでも考えている読者の方にとって、おそらく最も重要かつ知りたいことを、まだ言えていません。それは、空路がなく週1便の船便だけの島で、休暇は取れるのかという点です。

目次

  1. 休暇はちゃんと取れる!ただし制約が
  2. 使用期限切れ麻薬と上京することの多い薬剤師の休暇、過ごし方と言えば...?

ogasawarakyuuka1.jpg

ビル群とは都会の象徴、小笠原には存在しない。見ればテンションも上がるというものである。島生活では、私の場合、飲み会にさえ行かなければ、財布に2万円あれば1カ月暮らせるが、その分上京すれば贅沢をしてしまう。生活必需品の買い出しもする。百均で五千円以上買い物することも。さらには休暇日数が少ないくせに、遠くへ弾丸ツアーで旅に出たりもする(花見のためだけに格安航空で札幌日帰りとか)。ちなみに島民が休暇を取った場合、海外や沖縄に行く人も多いが、なんといっても一番人気はディズニーランドである。

休暇はちゃんと取れる!ただし制約が

 結論を先に言えば、休暇は取れます。年に数回、上京休暇が取れるし、そのときはおがさわら丸のスケジュールに合わせ、常識では考えられないくらい長期の休暇を取ることができます。ただし、大きな制約もあります。例えば、薬剤部は普段、薬剤師と看護師の2人で回すため、薬剤師のシフトは看護師と一体化しています。看護師と休暇が重なってはいけません。また、内地滞在日数にも1回につき3週間までという決まりがあります。逆に言えば、1回で最長3週間の内地滞在がOKなわけです!

 ところが、おがさわら丸の半年分のスケジュールが発表されても、薬剤師はすぐに休暇申請できません。スケジュールが出てから、年に1回ないしは2回ある、内地から眼科や耳鼻科などの専門医がやってくる専門診療の予定が決まります。在庫管理の都合上、特に耳鼻科では子供の散剤やシロップの調剤が多いこともあって、専門診療時は原則として薬剤師は休暇が取れません(これらは5月か6月と10月か11月にあります)。休暇希望は早い者勝ち、専門診療の日程が決まった頃には、めぼしい日程は既に誰かに取られていて、薬剤師の休暇が取れる時期は、ほぼ決まってしまいます。だいたい年末年始、GWと、夏の時期にどこかで上京休暇が取れるようなパターンが多いです。年末年始やGWなど、外来のないときに休暇を取る方が、診療所にかける迷惑は少ないです。

 研修や勉強会の案内はたまに来ますが、もちろんそのための上京などは不可能です。親類に不幸があっても、すぐに上京は無理でしょう(こういった心配は、島の人は大なり小なりみんな抱えていると思います)。また、薬剤の発注など在庫管理は実質私1人でしているため、2週間を超えて休みを取るのは心配です(今でもそれ以上休んだら、うまく回せる自信がない)。欠品などを起こすわけにはいきませんし、それに分包機のロール紙やインクなどの交換も、私が不在のときに起こらないよう注意せねばなりません。一包化の患者の薬を予製しておくなど、休暇を取る場合は、周到な準備が不可欠です。

 上京休暇以外の休暇、例えば1日だけ有休を取る、といったことは薬剤師には難しいです。外来がある時間の年休は、基本的に取れません。せいぜい午後休や時間休になります。有休が取れるかどうかは、外来の忙しさや当日の人員配置によって大きく左右されます。体調が思わしくなくても、診療所でないと薬がもらえないわけで、私の場合午前だけ出勤して、隙間時間に受診して薬をもらうことが多いです。それでもいわゆる「ブラック企業」よりは、休みはきちんと取れる方ではないでしょうか。残業代も申請すればきちんと出ますしね。

ogasawarakyuuka2.jpg

おがさわら丸で東京湾を航行中、シンガポール海軍の軍艦とすれ違ったことも。多分訓練か演習だろうが、小笠原諸島の何倍も遠いところから来ているのかと思うと、父島までの24時間の航海など、実は大したことないのかもしれない。ちなみに横須賀に海上自衛隊基地があるせいで、海上自衛隊の護衛艦やアメリカ海軍のイージス艦は割とよく見かける。とにかく東京湾の混雑はすごい。入港する船、出港する船、周囲を見渡せば船ばかり。混雑に加えて東京湾内は速度制限があるため、館山市街地や城ケ島が見えてからも、竹芝までまだ3時間以上かかる。

使用期限切れ麻薬と上京することの多い薬剤師の休暇、過ごし方と言えば...?

 父島出港は午後3時半なので、平日なら午前は普通に仕事です。観光客とは対照的に、父島の岸壁を離れた瞬間、私は全てから解放されます。東京到着と同時に都庁へ麻薬を持参、それから院外薬局さんや卸さんへ挨拶に行くこともあり、結局、東京到着後数日は都内泊というパターンが多いです。島生活が長いと、高層ビル群を見ながらファストフードをいただくのが最高の贅沢になります。離島の住人からすれば、高層ビルのビル風と海からの風は、同じ風でも全く異質なもの。気分転換には都会は最高です。それに、離島生活が長くなると、きれいな景色やビーチよりは、古い町並みに良さを感じてしまいます。また、基本的に休暇中は、お金より時間の方が貴重です。

 父島への戻り便は、朝11時の竹芝発。前日は東京泊になります。この前日の夜が意外と忙しく、小笠原向け物資の調達に奔走します。ちなみに小笠原向け荷物は、自分の乗る便出発の3日前と当日朝と、2回に分けて出します。3日前に出せば、父島へ戻った当日に受け取れます。当日の朝に出せば、受け取りは次便。ここで生鮮品を準備して送れば、その分"入港日の混雑するスーパー"へ行かなくて済みます。通販では買いにくい大阪の地酒(日本酒とワイン)なども、自分で他の荷物と一緒に送れば、余計な送料はかかりません。前日の夜は都内のスーパーや古本屋、各種専門店などを回り、買った物を梱包し出荷し終わったら、いつもだいたい午前2時くらいになります。その数時間後に始発電車で江の島や鎌倉へ行って、出航時刻までに竹芝に戻ってくるような"旅"をする場合もあります。ここで精一杯疲れておけるかどうかで、24時間の船旅の快適さは大きく変わります。24時間の船旅など、寝ていれば意外とあっという間だからです。

 休暇時期がほぼ決まってしまっている現在、内地休暇のお花見は北海道神宮へ、紅葉を見たければ南房総へ。こんな具合に何かと制約はあるものの、おおむね休暇はしっかり取れるので、安心して良いと思います。

【コラムコンセプト】
僻地や離島の薬剤師業務って、給料は高いだろうけど、周りに何にもない不便な所で大変そうなイメージがある。それに不便な地で「生活」もしていかなければいけないから結構な覚悟が必要そうだ。......けど実際のところはどうなの?そんな興味と疑問を併せ持つ薬剤師のために、日本で最も行きにくい離島で働く薬剤師が送るコラム連載。良い面悪い面全てを含め、離島におけるありのままの薬剤師業務や生活を、面白おかしくお伝えしていけたらと考える。堅苦しい薬の記事の合間にここを読めば、「私は都会でないと無理だ...」と思っている人も、(保証はできないが)案外すんなり僻地でもやっていけるかもしれない。

【小西良典氏 プロフィール】cfe16ed4007e8fd8d26248d6a2afad043c7a3e9f.jpg
大学卒業後薬学部ではなく理学部の大学院に進学。博士課程を中退。その後、ドラッグストアなどで働きながら全国を旅する生活を続けて8年あまりのある日、旅行先の小笠原村が薬剤師を募集していることを知り、勢いで出願。見事採用され、以後、父島の診療所に勤務。旅行経験から、全国どこの街でも道に迷わない自信がある。趣味は工作、パソコン、料理、ロシア語など多数。最近は、毎日録画をしている昼の映画や海外ドラマを片付けるだけで週末が終わっていく。

トップに戻る