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向精神薬とアルコール  ―薬剤師も対策の一翼を―

2017年08月08日 13:20

獨協医科大学越谷病院 こころの診療科 井原 裕

2014年にアルコール健康障害対策基本法が施行され、薬剤師も対策の一翼を担うこととなりました。アルコールが肝・膵・消化器系障害、循環器系障害、精神障害などのリスクを上げる事実は知られています。しかし、アルコール依存は本人に自覚が乏しく、現状では多くの依存症患者が診断も治療もされないまま留め置かれています。問題の規模が大きく、医師だけでは抱え込めないので、地域の第一線を担う薬剤師にもかかわってほしいというのが、同法の趣旨だと思われます。

精神科医として気になるのは、向精神薬服用中の方のアルコール指導です。向精神薬の服用中は、原則として断酒すべきです。薬剤師の皆さんは、カウンターで薬を渡すときに「お酒はお控えください」とお伝えしていることでしょう。そんなとき、患者さんから「でも、先生はそんなこと言っていなかったですよ」との言葉が返ってきて、戸惑うことも多いのではないかと思います。

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海外では、日本以上に飲酒には寛容です。例えば、ベンゾジアゼピンからの離脱法を説いた『アシュトン・マニュアル』においては、「グラス1、2杯程度のワインはなんら差し支えない」と記されています。この書はベンゾジアゼピン系の依存性に警鐘を鳴らし、薬剤の適正使用を呼びかけていますが、このような啓発書ですらアルコールには甘いのです。

ただし、この書が「酒に強い」コーカソイド(白人)、ネグロイド(黒人)を想定して書かれているということを忘れてはいけません。アルコール耐性に関しては人種差があり、日本人は少数派に属します。一般にモンゴロイドやアボリジニは、アセトアルデヒド脱水素酵素の活性が低いとされています。このため、アルコールの分解産物であるアルデヒドを速やかに分解することができません。日本人も、アルデヒドが長く体内に貯留しやすい体質であり、「酒に弱い」ということになります。

医師、とりわけ精神科医の中には、「添付文書にアルコールは『併用注意』であって、『禁忌』とは書いていないから、少しぐらいはいいではないか」と言う人がいます。しかし、そもそも向精神薬は、アルコールと併用することを前提に開発されていません。それに、向精神薬の多くは、元来はモンゴロイドを対象に開発されていませんから、添付文書がアルコールに甘めなのは当然です。添付文書の「併用注意」を、「飲酒OK」と読み替えるべきではないでしょう。

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